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メリー先生の研究室

本日二話更新。

これは二話目です。お食事中に読むには向かないかもしれません。ご注意ください。

 メリー先生の研究室は、食堂から少し離れた建物の一階にあった。

 この建物、他の人の気配はない。魔力感知にも霊視にも引っかからない。ここを使ってるの、メリー先生だけなのかな。


 先生が研究室のカギを開ける。

 ドアが開いた瞬間、薬品っぽい強い刺激臭が漂ってきた。かなり強烈だ。この感じ、強いて言えばサ○ンパスと灯油。それを混ぜて何十倍にも濃縮したような印象。キン○ンも混じってるかな。ともかく強烈、としか言いようがない。なんか体に悪そう。こんなニオイ、王都にある先生の工房でもしなかった。


 メリー先生はためらいもなくその中に突入した。

 私はとりあえず中を覗き込んだ。


 ここに来るのは初めてだけど、それなりに広い部屋だ。

 中央にテーブルと椅子が六脚。テーブルの上はあんまり片付いてない。蓋つきのツボやら乳鉢やら天秤やらが出しっぱなしだ。奥にはデスクがあって、その背後にある窓は閉まってる。右手にソファーと小さな流し台。左の壁には色んな物が詰まった棚。その向こうに扉が一つ。別の部屋――実験室かな――があるんだろう。


「さあ入って入ってー。あ、入った後はきちんと閉めて、忘れず鍵もかけてね」


 そう言いながら、メリー先生はわき目も振らず奥の扉へ行き、ギギィッと開けた。かなり分厚い扉だ。


 呼ばれたからには入らないと。

 でも、この激臭の中に入るのは勇気がいる。

 とりあえず魔力纏いを発動する。なるべく服や体にニオイがつかないようにだ。でも呼吸する以上、どうしてもこのニオイを吸い込んじゃう。

 ここは空気袋、銀河刑事ギャラクシー・シェリフサリバンになった時に使ったあれの出番かな。

 でも、あれは圧縮すると熱くなるし、かと言って圧縮しないとかさばり過ぎてジャマだ。なにかの拍子にテーブルの上の物を叩き落としちゃいそう。ドアを閉める以上、外に出しておく訳にもいかないし。

 しょうがない、諦めよう。


「お邪魔します」


 私も意を決して中に突入し、ドアを閉めてカギを掛けた。

 よりニオイがきつくなった気がする。後で絶対に洗浄魔法をかけよう。寮に戻ったら真っ先にお風呂に入ろう。


 メリー先生はもう隣の部屋に入ってる。

 先生の魔力が視えなくなってる。魂が視えてるからいるのは分かるけど、魔力は遮蔽されてるみたい。

 その部屋を覗き込んでみる。

 こっちはそれほど広くない、窓のない部屋だ。床が少し高くなってて、壁もぶ厚い感じ。開口部はこの出入口しかない。

 真ん中にデデンと広いテーブルが1つ。その上をゴテゴテした機材が占拠してる。

 メリー先生はその端にある何かをじっと見てた。


「よし。これだけ経っても消費魔力量は変動していないわね。完璧」

「これがそうですか?」

「そうよー。真ん中にある小さな箱が収納部分で、中に毛糸玉が十個入ってるの。もちろん普通サイズのよ」


 収納部分と言われた箱はどう見ても毛糸玉一個分の大きさ。それで十個入ってるなら確かにアイテムバッグとしての収納能力はある。機構全体のサイズはともかく。


「やりましたね。おめでとうございます!」

「ありがとー。念のため明日いっぱい様子を見るけど、もう成功と見て間違いないわ。これもフレンちゃんのヒントのお陰よ」


 そう言われても全然ピンとこない。私は地動説の話をしただけなのだ。それがどうして解決につながったのか、サッパリ解らない。学園で教わる範囲を超えた知識が必要なんだろうな、きっと。私の勉強不足ではないはず。

 だから謙遜でもなんでもなく、こう答えた。


「私は適当な事を言っただけです。全部メリー先生の努力の成果ですよ」

「そんな事ないわ。大地の方が動く。凄い発想よ。これが無かったら絶対に辿り着けなかったと思うの」


 そのアイディアだって、ただの前世の常識。分かってて出したわけじゃない。そんな事で称賛されても居心地が悪いだけ。「私、何か言っちゃいました?」と受け入れちゃうほど私は図太くないのだ。

 よし、ここは話題を変えよう。


「それにしてもこの装置、ずいぶん大きいですね」

「そうね、これは理論が間違ってないかを確認するための実証実験機。とりあえず組み上げた物なのよ。だから実用性は二の次、正しく機能していることだけが重要なの。きちんと作り込めばコンパクトに出来るはずよ。それが次の段階ね。

 ああそうだ、私がアイテムバッグを作っていることは、まだ誰にも言っていないわよね? そのまま秘密にしておいてくれる? その代わり、実用レベルの品が出来たら一つ上げるから」

「それは嬉しいです。もちろん誰にも教えてないですし、これからも秘密にします」


 当然、こういうのは黙ってる方がいい。

 アイテムバッグを作れると知られれば、先生の身柄を狙うヤツらも出てくるだろう。アイテムバッグにはそれぐらいの価値がある。

 そういう訳だから、アイテムバッグがもらえるとかとは関係なしに黙ってたし、黙っておくべきなのだ。もちろん、もらえるものは有難く頂きますが。


「よかった。ああ、安心したらお腹が空いてきたわ。悪いけど食事にさせてもらうわね」


 メリー先生は実験室から出て私からバスケットを受け取ると、入ってた物をテーブルの上に取り出した。

 金属製の密閉容器だ。蓋を開けると、中には豆のスープが入ってた。


「まともな食べ物は何日ぶりかしら。ずっと強壮剤しか飲んでいなかったから」


 そう言いながらメリー先生は椅子に腰かけ、スプーンでスープを食べ始めた。皿には移さず、容器からそのまま、強烈な臭気の中で。


「よくそれで倒れませんでしたね。と言うかもしかしてこの部屋のニオイの元、アイテムバッグじゃなくて強壮剤ですか? というか窓を開けて換気してもいいですか?」

「いいわよー。それと、あの実験機には臭う物は使っていないから、臭っているとしたら強壮剤の方ね。そう言えば最強レシピで強壮剤を調合していたんだから、かなり刺激的な臭いがしているはずよね。全然分からないんだけど、鼻がバカになっちゃったのかしら」


 許可をもらえた。さっそく窓を開け、風魔法で換気を始める。そろそろ限界だったんだよね。


 それにしても今の発言、ちょっと気になった。

 どうやらメリー先生は自分で強壮剤を調合してたらしい。だとするとテーブルの上のあれこれは、強壮剤(最強)の原料と調合器具だろう。そして、ニオイに慣れきってしまうほど長い間、そんな薬を使ってた。と、言う事は……


「ええと先生、寝てます?」

「大丈夫、今日からは寝るからー」


 そう言うメリー先生は、空腹が癒えて眠気に襲われてるみたいだ。うつらうつらしてる。やっぱりもう何日も寝てないんだろう。


「そんな生活してると、しまいには体を壊しますよ」

「分かってはいるんだけどねー。求めていた突破口が目の前にあったから、我慢できなかったのよー」


 時々、思い出したようにスプーンを口に運ぶ。このまま寝ちゃいそう。

 風魔法を維持したまま、テーブルまで戻る。

 突っ伏してスープに頭を突っ込んじゃわないように、見ておかないと。


「…………大地の方が動く…確かにそうとしか考えられない。だから……静止とは……大地と共に動くこと。真の意味での静止じゃない…この区別が無かったから、理論が……」


 もうほとんど独り言だ。

 メリー先生はどうやってか「大地の方が動く」ことを確認したっぽい。そして、それを基に理論に修正を加えたと、そういう事だろう。どこをどう修正する必要があったのかはさっぱりだけど。

 そんな事を考えてる間に、先生の頭がガクリと落ちた。空のスプーンがテーブルの上を転がる。

 そのまま寝息を立て始めた。


 私はメリー先生をソファーに寝かせ、傍にあった毛布を掛けた。食べ残し――と言っても半分以上残ってる――が入ってる容器には蓋をしておく。


 さて。先生はこのままゆっくり寝かせておけばいいだろう。

 単なる寝不足だろうから、それで大分よくなるはずだ。


 これで用は済んだ。

 でもどうしよう、帰れない。部屋のカギを持ってない。

 開けっ放しで帰るのはダメだろう。この建物、今は無人だけど後で誰か来ないとも限らないし。特に今は秘密の実験が進行中だし。


 もちろん、魔力の腕を使えば外からカギを掛けるのは可能だ。でも、それをやったら怪奇現象。後で説明に困る。

 かといって、せっかく寝てる先生を起こすのも良くない。

 合カギは、学園の施設管理課にならあるはず。でも内線電話的なものが無いから連絡が取れない。ドアの外には撮像装置があるけど、見てる人が常時いる訳じゃないし。

 誰かに伝言を頼もうにもこの建物は無人。しかも位置が悪い。人が通る場所にないのだ。実際、さっきから誰も通りかからない。

 うーん……


 悩んでる間も風魔法を維持して換気を続ける。

 中の空気はもう大分入れ替わった。かなりマシになった。


 まあ、気休めなんだけどね。

 防犯上、窓を開けっぱなしにする訳にはいかないし、閉めたらまたあのニオイが充満するだろう。テーブルの上のツボやなんかがニオイの元だろうからね。でも、そうと分かってても放置するしかない。勝手に触っていいか分からないから。


 換気を続けてると、ターニャとサーシャの魔力が移動してるのに気づいた。食堂を出て帰る所だろう。近づいてる訳じゃないし間に別の建物があって見える位置でもないけど、向こうは屋外だから何とか声が届きそうだ。


 先生を防音結界で守ってから、大声で二人を呼ぶ。

 何度か呼ぶと、気付いて立ち止まった。でもどこから聞こえてるのか分からないみたい。建物で反響してるせいかな。

 そこで私の魔力体、電気ネズミのミミを出す。そして、ターニャ達に見えそうな位置まで移動。かなりあてずっぽうだけどね。それはしょうがない。ミミの視界が見えてる訳じゃないのだ。もしここに彩香がいてくれてたら、中に入って動かしてもらうんだけど。

 とにかくミミを良さげな位置まで動かした。でも今はもう黄昏時、小さいミミは気づいてもらえないかも。

 よし、目立たせよう。

 いけ、ミミ! 十万ボルト!……ではなく、光魔法!(効果:光るだけ) それをミミを起点に発動する。そう、一年間練習し続けて、ついにミミから魔法を発動できるようになったのだ。

 魔法でミミを光らせて、ついでに立ち上がらせて手を振らせる。だいたいこっちかな、という方向に向かって。

 ターニャ達は気づいてくれたようだ。光ったままのミミを移動させて、こちらに誘導した。


窓の外まで来たターニャが「何っすか、この匂い。魔除けっすか? どんな悪霊でも逃げ出しそうな臭さなんっすけど」なんて言うのを軽く流して、施設管理課の人に伝言を頼んだ。

 管理課の人はすぐに来てくれて、私が研究室を出た後に合カギで施錠してくれた。もちろん窓はキッチリ閉めたし、先生には書置きを残しておいたよ。余計な心配をかけなくて済むように。

 当然だけど出た後は自分に洗浄魔法をかけて、できるだけニオイを落とした。そのままだと、ちょっと寮には戻れなかったからね。


 こうして無事、私は研究室からの脱出を果たした。クエスト完了。クリア報酬(予定)はアイテムバッグだ。え? 違う?


 翌日、廊下でメリー先生を見かけた。

 憑き物が落ちたような、スッキリ元気な顔をしてた。よく眠れたんだろうな、きっと。

 よかったよかった。




 後日。


 文芸部として最初の作品集のために、ターニャが原稿を持ってきた。「部長の活躍をネタに書いたっす」とか言いつつ、いつものように怪談だった。

 しかし、それを読んだ私は思わずのけぞってしまった。


 ターニャの作品、話の設定は「クリス・ゲンジーとベラ・ケイ」の外伝だ。

 それはいい。ホントはベラ・ケイなんてとっとと忘れ去って欲しいけど、まあいい。

 筋立てはおおよそ怪談牡丹灯籠、その男女逆転版だ。こっちでは牡丹灯籠なんて聞いた事ないからオリジナルだろうけど。


 あらすじはこうだ。


 主人公の女は、ふとしたことから見知らぬ男と良い仲になる。

 男は夜な夜なランタンを持って女の元を訪れ、逢瀬を重ねる。女は日ごとにやつれてく。

 ベラ・ケイが旅の途中でその村に立ち寄る。ベラは男の正体を悪霊と看破し、女に決して男を招き入れてはならず、今日は夜明けまで外に出てはならないと告げる。そして退魔香というお香を授け、家の中で焚くよう指示する。

 女が言われたとおりにしていると、男が現れ家の外から入れてくれと呼びかける。そして断られると恨めし気な声で延々と女に懇願し続ける。女は布団を被り耳を塞いで耐える。

 どれだけ経ったか、いつの間にか声が聞こえなくなり、お香の火も消えていた。外からは小鳥の鳴き声も聞こえる。

 やっと朝が来たかと女が戸を開けると、外はまだ真っ暗。そして鬼のような形相をした男が待ち構えていて女の腕をつかむ。しかしその瞬間、女の袖に染みついてた退魔香の香りが一気に立ち上り、男を包み込んだ。男は悶え苦しみ始める。

 そこにベラが駆けつける。男の妖術にかかり、それまで来られなかったのだ。ベラは大斧で男を一刀両断。男は灰となり、風に吹き散らされて消えた……


 うん、いろいろ言いたいことはあるけど、一つだけ。


 除霊うんぬんの話、冗談じゃなくて本気で言ってたの!?

 ターニャの中の私、一体どうなってるんだろう。

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