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グラウカ  作者: 日下アラタ
STORY:27
234/245

03・“メッセージ”

 午後7時。東京都不言いわぬ区。

 閉園済みの児童養護施設「むささび園」の地下の物置部屋で、反人間組織『キルクルス』のリーダーの乙黒阿鼻は、ジュースの入った紙コップを持ち上げた。

「──じゃあ、僕ら『キルクルス』が、インクルシオのキルリストの組織最上位になったことを祝って、カンパ〜イ!」

 乙黒が音頭を取り、電池式のランタンの光が照らす部屋につどった『キルクルス』のメンバー5人──遊ノ木秀臣、獅戸安悟、茅入姫己が「乾杯ー!!」と続き、鳴神冬真と半井蛍が紙コップの縁を合わせた。

「ねぇねぇ、阿鼻君。その情報って、インクルシオにいる“仲間”から来たの?」

「そうだよー。先日、上層部から対策官全員に伝達があったんだって」

 茅入がテーブル代わりの木箱の上に置かれたピザを取って訊き、タコスに手を伸ばした乙黒がうなずく。

 遊ノ木がマグロの寿司を頬張って「とうとう、キルリストの1位か〜」と感慨深く言うと、鳴神が「『イマゴ』が壊滅したことが、大きかったな」と返して、エビの生春巻きを紙皿に取った。

「あー。そういやさ。昨日、お前の幼馴染に会ったぜ。黒髪の方」

 わいわいとしたうたげが進む中、玩具の消防車にまたがって唐揚げを食べていた獅戸がふと言い、乙黒が「え? 哲に?」と反応する。

 獅戸は「ああ。俺を追ってきたから、ちょっと痛めつけてやったんだけど、こっちの打撃を受ける瞬間に同じ方向に顔を逸らして、上手く衝撃を緩めていたぜ。インクルシオ対策官だけあって、なかなかやるな」と褒め、乙黒は「へぇ。そうだったんだ。うん。哲は強いからね」とニコリと笑った。

 ミニボトルのワインを紙コップに注いで、遊ノ木が訊ねる。

「ところで、乙黒君。パーティを始める前に、今日は“活動”に関する話もあると言っていたけど、それは何だい?」

 遊ノ木の質問に、茅入が「あ。私も聞きたーい。何か面白いことをするの?」と興味津々の顔を浮かべ、フライドポテトを齧った半井が視線を向けた。

 乙黒は紙皿と割り箸を木箱に置いて、口を開く。

「うん。その件なんだけどさ。僕、ちょっと引っ掛かっていることがあって……」

 そう言うと、乙黒は向かいに座る鳴神に目をやった。

「鳴神さん。少し、動いてもらってもいいかな?」


 翌日。東京都月白げっぱく区。

 まもなく午後3時になろうとする時刻、インクルシオ東京本部の本部長である那智明は、立ち食いそば店のカウンターの前に立っていた。

 ダークグレーのスーツに身を包んだ那智の隣には、黒のジャンパーを羽織ったチーフ4人──東班チーフの望月剛志、北班チーフの芥澤丈一、南班チーフの大貫武士、中央班チーフの津之江学がおり、それぞれがそばを啜っている。

 那智はわかめそばを食べ終えて、「ふぅ」と一息ついた。

「久しぶりに、立ち食いそば店のそばを食べたな。いい味だった」

「だろ? 今日みたいに昼メシが遅くなった時はもちろん、そうでない時も、早くて安くて旨いの三拍子が揃ったこの店が一番だぜ」

 20分程前、東京本部のエントランスで偶然に会った那智を、昼食に誘った芥澤が返す。

 津之江がどんぶりを見つめて、しみじみとした声を出した。

「ここには、路木君も一緒に来たことがありますよね。チーフ5人で並んでそばを食べたのは、今となってはいい思い出です」

 津之江の言葉に、不意にチーフたちがしんみりとする。

 那智はにわかに沈んだ場の空気を変えようと、「そうだ。大貫」と顔を向けた。

「鷹村の怪我はどうだ? 『キルクルス』の獅戸に、顔をしたたかに殴られたと聞いていたが……」

「ええ。青あざや切り傷は残っていますが、幸い骨に異常はありません。学校も行っていますし、任務も通常通りについています」

 大貫がやや首を出して答えると、那智は「そうか」と安堵した。

 望月が上体を前にかがめ、声をひそめて言う。

「獅戸と言えばさ。キルリストの個人最上位は、奴が2位から繰り上がるのか? こないだの『クストス』の襲撃事件で、元最上位のいぬいエイジが死亡したから……」

「いや。個人の方は、順位付けを吟味してからまた改めて伝達するが、最上位には鳴神冬真が入る。これは確定だ」

 那智が小声で返し、芥澤が「ハッ。“グラウカ”を差し置いて、“人間”が最上位かよ」と皮肉に口角を上げた。

 すると、突然、店内に電子音が響いた。

 那智が「俺だ」と言って、スーツのポケットからスマホを取り出す。

 電話は総務部からで、インクルシオのホームページのメールフォームを通じて、“不審なメッセージ”が届いたという内容だった。


 同刻。

 インクルシオ東京本部の敷地内にある2階建てのトレーニング棟で、南班に所属する「童子班」の高校生4人は、黒のジャージ姿で汗を流していた。

 この日、4人は下校後すぐに巡回任務に出る予定であったが、指導担当である特別対策官の童子将也に強く希望して、急遽1時間の戦闘訓練を行うことになった。

「……クソっ! 全然、スキが見当たらねぇっ!」

「こうなったら、全員で囲んで、一斉に攻撃を仕掛けるぞ!」

「わかったわ! 鷹村と塩田は前から、私と雨瀬は後ろから行くわよ!」

「うん……!」

 広々とした多目的室に、塩田渉、鷹村哲、最上七葉、雨瀬眞白の声が反響する。

 鷹村が「行くぞっ!」と大声で合図を出し、他の3人が同時に板張りの床を蹴って、“敵役”を務める童子に前後から襲い掛かった。

 しかし、童子は眼前に走り込んできた鷹村と塩田を足払いでまとめて転倒させ、素早い動きで背後の雨瀬と最上を振り返って、『急所』として設定した頭部を手でタッチする。

 そのまま再度前に向いて、急いで立ち上がろうとした鷹村と塩田の頭部に、トントンと順に指先で触れた。

「……あーっ! また、やられた! 童子さん、もう一回、いいっスか!」

「ぼ、僕も、お願いします……!」

「私も……!」

 塩田がバタンと大の字で床に寝転んで声をあげ、雨瀬と最上が荒い呼吸で続く。

 童子は疲労困憊の様子の高校生たちを見やって言った。

「せやけど、戦闘訓練が始まってから動きっぱなしで、もうお前らも体力の限界やろう。この後は巡回任務があるし、あまり無理をせん方がええ」

「いや……! まだ平気っスよ! 俺らだって、鷹村のようにいつ『キルクルス』のメンバーと会うかわからないっスから! その時にしっかりと戦えるように、少しでも戦闘能力を上げたいんです!」

 塩田が上半身を起こして必死に返し、鷹村がゆらりと床から立ち上がった。

「……童子さん。どんなに無理をしたって、やりたいんです。お願いします」

 頬や口元に絆創膏を貼った顔で、鷹村が懇願する。

 童子は高校生たちの真剣な表情を見て、一つ息を吐いた。

「ほんなら、お前らで順番を決めろ。今から、俺と一対一や」

「!!」

 童子の言葉を聞き、高校生4人が途端に目を輝かせる。

 鷹村が「よーし。一番手は俺がやる」とジャージの腕をまくり、塩田が「いや、俺が行くぜ!」と指の骨をポキポキと鳴らし、最上が「ジャンケンよ!」とぴしゃりと言い、雨瀬が「童子さんと一対一の交戦……! 何度やったって勝てないけど、今度こそ……!」と闘志をみなぎらせた。

 その時、多目的室の隅に置いた、童子のスマホが鳴った。

 童子は「ちょっと待っとってくれ」と高校生たちに断って、壁際に歩み寄る。

 スマホを拾い上げ、大貫から送られてきた緊急連絡メールを開いて、大きく目をみはった。

 ──そこには、『キルクルス』のメンバーの一人であり、元インクルシオNo.1の特別対策官である鳴神から、『全国の拠点の特別対策官を一人ずつ殺していく』というメッセージが届いたと書かれていた。




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