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初任務

「スライム討伐……ですか?」


 翌朝、リアから呼び出されるなりそう告げられたベルは、首を傾げた。

 研修ももう後半戦。とはいえ、依頼はまだ一件しかこなせていない(しかも、それも魔物の乱入でうやむやになってしまった)。

 にも関わらず、リアはベルたちだけで依頼をこなすように、と付け加えてきた。


「ああ。昨日の一件もあってな、ギルド全員で街の周囲をくまなく探ることにしたんだ。その中で、スライムの巣が確認された」

「スライムの巣……」

「スライムはランクこそDからCで、脅威度は高くないが、集団となるとややこしくなる」


 数の暴力は非常に強力だ。


「だからこそ、増殖しきる前に掃討する。スタンピートでも起こされたら、それこそ今の俺たちでは手が回りきらない」

「なるほど、人員不足というのも理由の一つなのですね!」


 ズバッと失礼なことをいい放ったのは、ブランだ。慌ててプリムが腕を肘でつつくが、ブランはきょとんとするばかりだ。

 ベルとチャコは苦笑するしかない。


「アホウ。そんな理由でまだ研修も終わってないお前らを動かすわけねぇだろ」


 リアは呆れながら否定する。拳骨のおまけ付きだ。

 いくらブランが狼の獣人とはいえ、リアの方が上背でも体格でも上回る。手加減の一撃なんだろうが、ブランは激痛にうめいてしゃがみこんでしまった。

 リアは構わず腕を組む。


「お前らならできると判断した。それ以上でもそれ以下でもねぇよ。それともあれか? 難癖つけて逃げようって腹か?」

「そ、そんなことっ……!」

「だったらしっかりやりきってこい。これも研修の内だ」


 そういわれてしまうと、反論はでない。もとより反論するつもりなどないが。


「この討伐では、各々課題に取り組んでもらう。しっかりこなせ。まずブラン」

「は、はいっ」

「お前は集中力が高すぎる。そのせいで周囲が見えなくなり、連携が取れなくなる。そしてすぐに集中が切れて疲弊し、戦い方が荒くなる」

「うぐっ」


 的確に欠点を指摘され、ブランはうめく。


「集中は七割から八割にとどめろ。連携を重視して立ち回るように。次はプリム」

「……はい」

「お前は消極的すぎる。補助魔法や迎撃魔法の使い手なんだから、もっと戦況を見ろ。的確に判断し、的確にサポートする。指示も出していけ。司令塔になれ」

「……っ!」


 司令塔、といわれ、プリムは顔を赤くさせた。


「そのくらいでないと、ブランを制御することはできないぞ」

「……はい」

「次はチャコちゃんだな」


 目線を向けられて、チャコは頷いた。


「チャコちゃんはやること、分かってるな?」

「はい。敵を撹乱して、こっちが攻撃しやすいように立ち回る、です! 特におにいちゃんは、スキル使わせたら無敵ですけど、そうじゃない時はたぶんそこまででもないので、フォローがいると思います」

「その通りだ。満点で何もいえねぇ」


 リアが嬉しそうに笑い、ベルは僅かに苦笑した。チャコは本当に優秀だ。


「チャコちゃんは獣人の中でも五感が鋭い。だから未然に危険を察知して、うまく立ち回ることで危険を防げるはずだ」

「はい!」

「次にベル。お前は基礎的な立ち回りを意識しつつ、確実に仕留めていけ。スキルを使えば一撃で倒せることには変わりはないからな。それと……スキルを色々と使え。それぞれの使い勝手の確認をすることと、スキルの組み合わせも試せ」


 ベルはそっと頷いた。

 仲介者インターフェースは、その特性上、独自性が高く、手探りで一つ一つ調べていくしかない。リアから色々と説明を受けているので、ベルも理解している。

 スライムはその練習台になるのだろう。


「よし、各員やること決まったな。目標は敵の数を削ること。無理せず、常に撤退を視野にいれること。いいな?」

「「「はいっ」」」



 ▽▲▽▲



「うんまぁっ!?」


 街から西へ、徒歩にして一時間。シュニッツ湿原はそこにあった。土はどこかぬかるんでいて、基本的に草原だ。原生林もまばらにだが生えている。

 この時期が一番乾燥しているので、そこまで足場は悪くないが、至るところに水が流れているので、注意は必要だった。


 ベルたちは、そこで腹ごなしをしていた。


 具体的に、ベルが作ったサンドイッチである。手間ヒマかけたわりには普通の出来映えだが、ベルは料理人である。

 一般人からすれば、めちゃくちゃうまい。

 特に、粗食ばっかりだったブランとプリムにとっては。


「でしょー? おにいちゃんのサンドイッチは絶品なんだから」


 何故かチャコが自慢げにいう。

 えっへんと胸をはってから、ベーコンサンドをかじる。やや厚手に切ったベーコンを、表面だけカリカリに、中はジューシーに焼き上げ、チーズとキャベツと一緒に挟んである。

 ベーコンの味が強いので、チーズは爽やかなのを、キャベツは軽くスパイスでもみこまれていてしんなりしている。

 味をまとめているのは、甘めに仕上げたトマトケチャップである。


「……すごい、本当にすごい」

「このタマゴサンドもすっげぇよ!? まろやかでトロトロ……っ!」

「味付けはシンプルに、塩コショウとマヨネーズ。ただ、味をなじませるために時間をおいた、だけ」


 ベルは解説しつつ、自分も食べる。

 基本に忠実となった技術で作っただけあって、安定している。だが、同期ならもっと上手に作ったであろうとも思う。

 すごいと感じても、悔しさはなかった。自分は不器用だからだ。


「ベルさんって、料理すごい上手なんですね」

「うんうん! すごい!」

「……どうも」


 プリムとブランに手放しで絶賛されて、ベルは少し照れた。

 チャコ以外でははじめてだからだ。料理で褒められたのは。悪い気はしない。


「ベル兄貴すげぇっす! 強いのに料理まで上手だなんて!」

「なんでも、できるんですね」


 慌ててベルは頭を振った。


「できないこと、の方が、多い。チャコがいないと……何もできないし」

「おにいちゃんは不器用だからね」

「……うん」

「だから、二人だったらなんでもできるんだよっ」


 眩しいくらいの笑顔を浮かべて、チャコはサンドイッチを食べる。

 ベルはいつもこの笑顔に救われる。

 どんなに辛いことがあっても、耐えてこられた。


「仲良し、なのね」

「うん! だってきょうだいだもん!」

「おお、きょうだい! いいな、それ! プリム! 俺たちも!」

「ダメ」


 プリムは一言で否定した。


「なんでぇぇぇえ――――っ!? っと、出てきたか」


 ブランは半泣きで叫びながらも、不穏な気配を感じて表情を一変させた。

 さっと腰に差していた鉈を左右の手に抜き構える。二刀流だ。

 合わせてプリムも構える。

 チャコもサンドイッチを一気に口にほおばって、倒木の丸太から飛び降りた。


「スライム……」


 ぼこぼこと、水辺からスライムが出てくる。一匹は二匹ではない。

 草原から、次々とスライムが姿を見せてきた。


「多い……」


 ベルも包丁を抜く。スライムは腕で抱きかかえるくらいの大きさだ。長包丁よりも、普通の包丁の方が取り回しがきく。

 前衛に出るのは、ベルとブランだ。後衛にプリムが立つ。チャコはベルのすぐ後ろだ。

 フォーメーションも作戦も立ててある。


「ブラン。忘れないでよ、スライムへの攻撃方法」

「おう! 聞いてる! スライムの核を掻っ捌けばいいんだな!」

「チャコ」

「うん、大丈夫。スライムは意外に敏捷性があって、酸を飛ばしてくるんだよね」


 少し緊張している声だ。

 ベルはチャコを落ち着かせてやろうとしたが、どうすればいいかわからなかった。何より、自分も緊張している。魔物と相対するのは、まだ慣れていない。

 だから、せめてチャコに何か起こらないように、と気合いをいれた。


「それにしても、こんなに早く集まってくるなんて……」


 プリムの表情は険しい。

 ここで食事をしたのは、ちゃんと狙いがある。スタンピートの気配がある場合、急速に餌がなくなるのだ。そのため、食料をかぎつけると、魔物は吸い寄せられてくる。

 今回はスタンピートの可能性の調査も含まれているので、実行しただけだ。


「思ったより、スタンピートが早いってことなのかな」


 チャコは短剣を構えながらじわりと距離をはかる。


「……スライムは、食欲の際限がないから……安易に決められないけど」

「でも……これだけつられてきたというのも事実。みんな、あまり離れないようにね」

「はっはっは! それでもやることは一つでしょ」


 ブランが好戦的に構えた。ぎらりと鉈が光る。


「討伐だぁぁぁっ!!」


 幕が切っておろされる。

 ぐぐ、と力をためるようにスライムどもは身体をへこませ、次の瞬間には飛び出してくる!


「──《屠殺》」


 まるで水飛沫のように襲ってくるスライムたちに、ベルは包丁を向けた。



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