ブランとプリムの実力
光がきらめき、ベルの鮮やかな踏み込みから繰り出された包丁の一撃が、スライムの核を一撃で切り裂いた。
スライムは形状保持性を失い、地面に落ちて形を崩した。
「──……っ! いきますっ。《膂力強化》」
スライムどもの一斉攻撃に怯みながらも、プリムは魔法を発動させる。
後衛職でも《支援者》のポジションにあたるプリムは、補助魔法特化だ。味方を強化し、敵を弱体化、妨害する。時として司令塔としての役割も果たす。
故に求められるのは大局眼に幅広いスキルや魔法。とにかく才能が必要だ。
別名、天才の職業。
あらゆる戦況を有利に持っていける可能性から、上級パーティほど重用される職業でもある。
前衛力に特化したブランをサポーとするため、プリムはこの職業を選んだ。
彼女自身、それを選べるだけの才能があるからだが、突っ込みすぎるブランをサポートするためが一番の理由だ。
「おおおおおおっ!!」
淡く赤い光に包まれ、力が強化されたブランは真っ正面から突っ込んでいく。
応じるようにスライムも身体をちぢこませ、何匹もタックルを仕掛けた。だが、ブランは鉈を大きく振るって叩き落とす。
「《打撃》!」
鉈が淡く光り、地面に落ちたスライムを叩き斬る。核を乱暴に潰され、スライムは形状崩壊を起こして潰れる。
次々とスライムが襲いかかってくる。
ブランは好戦的極まる笑みで迎え撃ち、両手に持つ鉈を振るいながら回転した。
「《斬撃》!」
軌跡を残す斬撃は、鋭く数匹のスライムを切り裂く。だが、核にダメージを与えられたのは一匹のみ。
身体を切られただけのスライムはすぐに再生した。
「はーっははははは! 《斬撃》!」
そこへ、ブランの追撃がスライムたちを捕らえて潰した。
「ブラン、突っ込みすぎないで……!」
ブランに忠告しつつ、プリムは次の魔法を展開する。
「《敏捷強化》」
今度は青い光がベルとチャコを包んだ。
ふわ、と体が軽くなった。ベルは二匹目をさばきつつ自覚した。いつもより素早く動ける。
左下から飛びつくようにやってきたスライムを半身になって回避し、スキルを発動。
包丁は過たず核を突き刺す。そのまま手首を返して核をえぐり、絶命させる。
核が丸見えのスライムのシメ方は簡単だ。
厄介なのは核を隠してくる連中だが、そんな上位種族はいないので安心だ。
ベルはひゅっと鋭く空気ごと三匹目のスライムを縦に切断してシメた。
「私のバフは一種類しかかけられません……それに、効果はそこまで高くないです。だからあまり役に立たないです……未熟でごめんなさい」
「そんなことないよーっ!」
落ち込む様子のプリムを激励したのは、チャコだ。軽快な動きでスライムの攻撃をひらりひらりと回避し、確実に仕留められるタイミングで短剣を突き刺している。
チャコはたん、たん、とバク転を二回繰り出して距離を取り、ぐっと親指を立てた。
「めっさ体が軽い!」
そこへスライムが襲い掛かるが、危なげなくチャコは左へ回避する。
チャコは《軽業師》だ。
プリムが後衛のサポート職なら、チャコは前衛のサポート職である。
凄まじく高い敏捷性を活かすこの職業は、敵を調査し、攪乱するのが主な役割だ。
味方がより戦いやすいように状況を組み立て、連携攻撃によって有利に導くのが目的のため、攻撃力よりも回避力を重視している。身軽で頭の回転が早く、五感が鋭くて察知能力の高いチャコにとって最適の職業だ。
いうまでもなく、ベルをサポートするためだ。スキルは無敵のベルだが、身のこなしも含め、戦闘そのものは不馴れなためだ。
「いっくぞー!」
湿り気の強い土を蹴り飛ばし、チャコはスライムをどもを挑発する。
即座に数匹のスライムのヘイトが集まる。
「《筋力低下》」
すかさずプリムの範囲魔法が展開され、スライムの機動力を落とす。
こちらも効果は高くないが、チャコは強化魔法の恩恵もある。ハッキリと差が出た。
スライムどもはそれでも飛び出す。チャコは片足で地面を蹴ってその突撃を回避し、人差し指を立てた。
「──《狐火》っ!」
ぼう。
チャコは腕を振って、指先に灯った朱色の炎を放つ。焔はやや膨張しながら突き進み、スライムに着弾。一気に燃焼させる。
チャコの戦技だ。
狐の獣人だからこそ覚えられるスキル。
通常の魔法より強力な上、消えにくい。
見る間にスライムは水分を奪われ、溶けていく。だが、それでスライムどもに諦める様子はない。
「チャコ!」
「後ろでしょ!」
ベルの警告に返事しつつ、チャコは前のめりに跳ぶ。背後からの酸性粘液攻撃を回避しつつ、片手で着地。さらに身を捻り、ロンダートを繰り出してスライムどもと正面から対峙した。
もう片方の手には、すでに火が灯っている。
「《狐火》」
焔が加速し、スライムどもを焼き払う。
「おにいちゃん!」
呼ばれ、ベルは頷きながら突撃する。
チャコはヘイトを集めつつ後退。ベルと位置をタッチした。
「《屠殺》──《屠殺》──《屠殺》」
チャコの動きに釣られて飛び出してきたスライムの集団を、ベルが蹂躙する。
包丁の一薙ぎでスライムは確実に絶命し、次のスキルでまた仕留める。
二週間で仕込まれた動きの基礎を大事にしつつ、ベルは効率よくスライムを五匹、始末した。
──スキルの連続使用には、やっぱりラグがある。
ベルは一呼吸つきながらも確信していた。
一撃必殺、ベルをいきなりA級に押し上げたスキル、《屠殺》は一度につき一匹だけ仕留める。だからこそ、対集団戦においては有用性が下がってしまう。
特にシメる工程数が多いと時間も食う。
さらに、もう一度スキルを使うまでに少し間があるのもリスクだった。
「──《屠殺》」
右から飛び込んできたスライムを、ベルは真横に切り裂いて核をえぐり斬る。
ぐ、と体が一瞬だけ重くなった。
その隙を隠すように立ち回るため、スライムを始末するペースは上がらない。
──リアさんは、これをいっていたんだ。
ベルは正しく理解した。
スキルには弱点がある。だからこそ、補えるようにしておかないといけない。
ぴょんぴょんと跳ねとびながら乱雑に踊ってくるスライムたちを回避しつつ、ベルは脳内のスキルを思い浮かべる。
「料理人スキルが全部使えるなら……」
何も、《屠殺》に拘る必要はない。
「《焼く》」
手を突き出し、スキルを発動させる。
直後、地面が赤熱して熱を膨大に放ち、スライムどもを焼き上げる!
スライムどもはあっという間に水分を蒸発させ核を熱でやられて朽ち果てる。一度に十匹近くを屠った。
「おお、おにいちゃんすごい!」
チャコが目を大きくさせて誉める。
威力も範囲も、チャコの《狐火》とはケタ違いだからだ。
──でも、地面に接地してる敵にしか効果がないのか。
ベルは冷静に観察しつつ、とっさに飛び退くようにして跳躍し、ベルに向かってくるスライムたちを睨み付けた。
ぐ、と包丁を握りしめる。
包丁には、色々なスキルがある。
微塵切り、乱切り、いちょう切り、短冊切り……。ベルはほぼ全てを習熟している。
縦横無尽、好きなように鉈を振るって暴れるブランをちらりと見てかた、ベルはスキルを選んだ。
「《乱切り》」
とん、と踏みこみ、包丁を美しく振るう。乱雑に切っていくようで、大きさは揃っている。綺麗な軌跡は鋭く、美しくスライムどもを切り裂いていった。
スライムの中枢にある核を切るように意識したおかげか、五匹を同時に始末できた。
とはいえ、少し不安定だ。
「《いちょう切り》」
軌跡がまた駆け抜ける。
スライムどもを十文字に切り裂き、一定幅に切断していく。こちらは三匹。
こっちは確実性が高いが、少し時間がかかる。
「《千切り》」
バラバラと地面に落ちていくスライムどもを縫いくぐり、ベルはまた襲ってくるスライムどもの上空を取った。
腕が、高速で走る。
スライムどもを僅かに重ね並べ、瞬時にして千切りスライスしていく。
こっちは、七匹。
「《微塵切り》」
縦、横に瞬間の軌跡が駆け抜け、ベルの正面から飛び付いてくるスライムどもまとめて細切れにした。
これは、四匹。
──腕が、疲れる。
乳酸がたまってだるくなった腕を自覚し、ベルは一呼吸置いて下がった。
だが、すでに三十匹近くを屠っていた。
「す、すごい……!」
「あれが、A級の実力……!」
「おにいちゃん、すっごーい!」
唖然とするプリムとブランに、飛び跳ねるチャコ。
ベルは照れ隠しで頷きつつも、静かに息を整える。これなら、いける。スライムは核さえ潰せば倒せる。食材としての価値は失うが、今は気にしなくていい。
腕を軽く揉みほぐし、ベルはまた包丁を構えた。
本格的にベルがスキル使いだしました。
細かい違いはありますが、おおむね威力は極大です。
次回は明日更新です。
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