12 勇者達の所懐
会話が途切れると、エルフの少女は手をヒラヒラさせながら城門の方へ歩いていき、そのまま消えていった。
比喩とかでは無く、本当に消えてしまった。
消える直前に光る魔法陣が見えたので、モージへ説明を求める目配せをすると、「瞬間移動の魔法『テレポート』、じゃろうのう。」とのことだった。
城門の前で待機させていた馬車の御者に帰りが無用になったことを告げると、当然御者は不思議そうな顔をしていた。ロランは「私も同じ気持ちだ。」と付け加えておいた。
そうして、ロラン達の見送りが一段落したところで、王の親衛隊の一人が現れた。
「王がお待ちです。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、皆はどう思う。」
王座の間は人払いがされ、親衛隊すら扉の外で待機である。
オリビア、アストル、モージの3人と一緒に、ロランはシャール王から短い質問をされた。
「すぐにでも、マコ様を軸にした対魔王作戦を練りましょう。」
オリビアは即答した。
「いや、あのエルフは信用できない。重要な役回りにすべきじゃない。予定通り、募集した魔王討伐隊だけでも魔王を追いつめられるように作戦を立てようぜ。」
アストルは即反論した。
ロランは、直ぐには言葉が出てこなかった。
はっきりとした根拠は無いが、マコが嘘を吐いているようには感じられなかった。だが、信頼できるかと言えば、肯定はできない。
モージも何か考えているのか、黙ったままだった。
そんな様子を見渡してから、シャール王は静かにうなずいた。
「余の感じた所を伝えておこう。
あのエルフの娘は信用できぬ。だが、嘘を吐いているようにも思えん。
人族も魔族も共存しよう、という博愛主義的な想いも嘘とは言い切れん。」
王も自身とほぼ同じ感想を抱いていたことに、ロランは少し驚いた。
王は、一呼吸置いてからアストルを見つめた。
「あの娘は、我らとも魔王とも違う意図を持って行動している。
あの態度、あのやり取り。どことなく芯の定まっていない様子を見るに、何か別の企みがあるのだと余は感じた。
どこか信用できない理由は、その意図を決して明かさなかったからだ。
だがな、あの強大な力を一時でも借りられるのであれば、その不信感には目をつぶるのもやむを得ない、と余は考えている。」
王の命令、いや、説得に対して、アストルは「はっ。」と承知の意を示した。
次に、シャール王はオリビアへ顔を向けた。
「しかし、だからこそ、彼女が欠けて瓦解するような連携の仕方をする訳にはいかぬ。
彼女の狙いが何か分からぬ以上、いつの間にか煙のように消えてしまう、ということもあり得るのだ。」
王の言葉に、オリビアも「かしこまりました。」と肯定の返事をした。
そして、ロランは王と目が合った。
「マコと言ったな。あのエルフの娘には、魔王をけん制し、あるいはその攻撃を受け止めさせ、場合によっては囮になってもらう。
そのつもりで戦いに臨むのだ。よいか。」
「……仰せのままに。」
ロランはそう答えるしか無かった。
あの魔王をけん制するのも、防御するのも、囮になるのも、彼女でなければ務まらない。そもそもロラン達では力不足なのだ。
「ほどなく、騎士団、ギルドや教会、国中から志願し、選び抜かれた精鋭たちによる魔王討伐隊が結成されるだろう。
ロランには、魔王討伐隊長を命ずる。覚悟しておくように。」
「はっ。
拝命いたします。」
隊長に任命されることは端から覚悟していた。
だが、マコとの共闘になる可能性を考えてはいなかった。
場合によっては、彼女を盾にしてでも魔王の討伐を。いや、そもそも彼女と連携が取れるのだろうか。
月並みだが、ロランは身が引き締まる思いにかられた。もっと具体的に言うと、胃が締め付けられるような感覚になった。
「図らずも、義父上がマコに傷を与えたことで、私の剣も魔王の首に届き得ることを確信いたしました。
必ずや、魔王を滅ぼして見せます。」
不安をかき消すように、ロランは決意を表明した。
「……。」
決意の言葉に王が反応しなかったので妙な沈黙が流れてしまった。
「……王よ。」
いつの間にか、モージが王にアイコンタクトを取っていたようで、ついには王へ呼びかけていた。
なんだか締まらない。
「我が国に協力してもらっている他のエルフたちと同様に、あのマコ殿とも、魔法についての談義をしても問題ないかのう。」
……モージはマコが操る魔法に興味深々のようだ。
道理で、先程からどこか上の空になっているような気がしていた。
目の前で高等な魔法を見せつけられてから気が気でなかったのだろう。
「う、うむ。
問題は無かろう。
今日の様子を見ても、あの娘が我らに危害を加えることは恐らく無い。
そのつもりであれば、今ごろ我らの命は無いはずだからな。
だが、まあ、ほどほどにな。」
あのシャール王がちょっと引いている。
ロランも、モージが魔法に注ぐ情熱は知っている。一生を捧げていると言ってもいい。
どうかその熱がマコの機嫌を損ねることがないように、と願うしかなかった。
「ごほん。」
シャール王は咳払いによって緊張感をいくらか取り戻した。
「魔王討伐隊結成と出立は同時になる。
エルフの娘の言葉の真偽にかかわらず、目的地は南西の要塞である。
準備を怠るでないぞ。
しかし、だ。
今日はだいぶ疲れているだろう。
各々ゆっくり休むようにな。」
王のねぎらいの言葉をもって、この場は解散となった。




