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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと審判
35/61

01 ロッティング

「フウゥ―――――。」


 ガットは誰もいない砦の裏手で、ため息交じりに火を吹いていた。

 夕暮れの赤と、火の橙色が綺麗になじむ。


 ネオもマコもいなくなってから一週間が経つ。

 ガットは、砦からは余り離れずに休暇を過ごしていた。


 孤独がつらいという気持ちは無いが、近くに味方が居ないという意味では心許ない気もする。

 何せ、ここは魔王の居城として勇者達に場所が知れてしまっている。

 いつ人間の暗殺者が現れるか分からない。


 しかし、ここを離れるわけにはいかない。

 ネオは『帰りを待っていてくれ』と言っていたし、マコは『たまに様子見に来てあげる』と言っていた。

 どちらかが戻って来た時、誰も居ないというのは良くない。あの二人の機嫌を損なうのは、人間の暗殺者と戦うより危険。そんな気がする。


 それに、この辺りの森は水も食料も簡単に確保できるので住みやすい。

 山を越えて安住の地を探すのも危険だ。


 色々なリスクと自分の命を天秤にかけた結果、

 ガットは城砦の裏庭で伏せて、土くれに向かって火を吐いていた。




 土が良い具合に熱くなってきたころ、突然、背中に何かが落ちてきた。

 この重みにはおぼえがある。


「ただいまー。屋上に居ないと思ったらこんなところに。

 約束どおり、様子を見に来たわ。」


「おかえりなさいませ、マコ様。

 お元気そうでなによりです。人との暮らしはいかがですか?」


「どうも。ま、あんまり楽しくはないわね。」


「左様でございますか。」


 マコの様子を見て、街での生活は尋ねるのはやめた。

 ガットとしては、マコが帰ってきただけで十分である。

 もしネオが戻って来た時、『マコ様が人の街から戻ってきません』と報告するのは大変なリスクを伴う。なにせ、街に送ったのは自分である。


「ネオはまだ帰って来てないのね。

 日が沈む前にはまた街に戻るわ。


……ここで何してるの?」


「よくぞお聞きくださいました。」


 ガットは、背中に乗ったマコを落とさないように前足を上げ、鼻先にある土の塊を指した。

 マコよりも背が高い土塊には、丸い穴が開いており、中は空洞になっている。


「土器でございます。」


「ドキって、土を焼いて作る、あの土器?」


「その通りでございます。」


 ガットは、自信たっぷりにフンと鼻を鳴らした。


「粘土と岩石を砕いて混ぜてツボの形にこねたものが、この土の窯の中に入っております。

 後は、私のブレスで好きなだけ焼けます。」


「は~、なるほど!」


 マコはガットの背中から飛び降りると、土窯に開いた穴から中を覗き込んだ。

 窯のふちに手を置いて、まじまじと土器を見ている。

 ……窯はまだ相当熱いはずだが。



「でかいツボ。私がすっぽり入りそう。

 ドラゴンって結構器用なのね。

 何かに使うの?」


「ふふふ。

 これに果実などを入れてしまいこんで置くのです。」


 ガットはフフンと鼻を鳴らした。

 そして、尻尾を軽く持ち上げて伸ばし、城砦のある一画を指し示した。

 土を掘り返した跡が残っており、地面が大きくくぼんでいる。

 その先は、砦の地下の壁に開いた大きな穴へと繋がっているのだ。


 マコが近づいて行くのを確認してから、ガットは満を持して発表した。


「貯蔵庫でございます。」


「これ、怒られない?」


 ガットは少し焦った。


「いえ、私は土を掘っただけです。

 冷暗所を作るために、柔そうな地面を探して掘っただけ。

 果たして、城砦の地下に繋がったではありませんか。


 地下の壁は最初から壊れていました。本当ですよ。」


 所有者不明とは言え、いまはネオの城である。

 その壁に横穴を開ける勇気をガットは持ち合わせていない。


 地面のくぼみを降りていくマコを見て、ガットも追従した。

 暗い地下室に首を入れると甘い香りがする。

 薄暗い。


「あー、穴広げようか?」


「いえ、土器を出し入れするには十分です。」


 穴とはいっても、さすがにガットの全身は入らない。

 今は首を伸ばして届く範囲に、果実入りの土器を配置しているだけだ。


「まあ、それなら良いけど。


 ここは……なんだか狭くて、牢屋かしら。

 さすが砦。こういうのも作ってあるのね。

 あら、これが貯蔵している食料?」


 マコが暗がりのなかで、十数個も置いてある土器のうちの一つを軽く叩いた。


「ちょっと言いづらいんだけど、

 これ、腐るでしょ。」


「ええ、腐ります。

 ここにあるモノも腐ってはいますが、この場合はそうは呼びません。


 通常、発酵と呼びます。」


 暗い地下室に一瞬の沈黙が流れた。

 破ったのはマコの声だ。


「ああ、お酒か!」


「その通りでございます。


 そちら側はハチミツ酒、あちらはリンゴっぽい実の酒、こちらは山ぶどうらしき酒です。

 単純な造り方ですので、いくつかは本当に腐ってしまうと思いますが。」


「へえ~。すごいわ。

 よくここまでやったわね~。」


 素直に感心しているマコを見て、ガットは嬉しくなってきた。


「『ドラゴンたるもの、オタカラを貯め込ものである。』と聞いたことがあります。

 ドラゴンの本能がこうさせるのでしょうね。」


「お姫様や金銀財宝じゃなく、酒を守っているドラゴンってのは初めて見るわね。」


「そうですか?

 酒については、昔、食事中に人々がよく言うのを覚えておりました。


――『くうー!酒さえあれば生きていける!』と。


 これで私も安泰ですね!」


「信じちゃダメよ!

 みんな言ってるから正しい、とは限らないからね!?」



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