第6話 お買い物へ
「……お嬢様が自由に生きることには、俺も賛成です」
「結婚してくれるってこと!?」
「違います。いいですか、お嬢様。お嬢様は勘違いしてるんですよ。俺以外の男とろくに関わっていないから、恋愛的な意味で俺が好きだと思っているだけです」
溜息を吐くと、ノルベルトは頭をかいた。
確かに彼の言う通り、ルアーナはノルベルト以外の男性とほとんど関わったことがない。
けれど、恋心を勘違いするほど子供でもない。
「……分かったわ」
「分かってくれましたか」
「これからいろんな人と関わって、それでも貴方が好きだってこと、証明してみせるから!」
両手の拳をぎゅっと握り、高らかに宣言する。満面の笑みを浮かべたルアーナを見て、ノルベルトはまた溜息を吐いた。
「……俺なんて、ちょっと剣が得意なおっさんですよ」
「私にとっては王子様よ!」
ノルベルトは困ったような顔で笑い、やれやれ、と小さく呟いた。そして、立ち上がってルアーナの手を引いてくれる。
「……じゃあとりあえず、俺と買い物にでもいきますか、姫様?」
あまりの格好良さに、ルアーナは呼吸をとめて固まってしまったのだった。
◆
「とりあえず服を買いましょう。動きやすくて、目立たない物にしてください」
ノルベルトに連れられて向かったのは服屋だった。旅人用の服屋なのか、馬に乗れるような動きやすそうな物ばかりが並んでいる。
可愛いデザインの物はないけれど、機能性はどれも十分だ。
「ねえ、ノルベルトも買うの?」
「そうですね。適当に見繕いますよ」
「私に選ばせてくれない!?」
前のめりになって頼むと、ノルベルトはあっさり頷いてくれた。どうやら、服にはあまりこだわりがないらしい。
(どうしよう!? どんな服でも似合うわよね。ていうか、私が選んだ服をノルベルトが着るっていう事実だけで幸せだわ!)
とびきり格好良くしたい気持ちもあるが、そうするとすれ違う人全員がノルベルトに惚れてしまうかもしれない。
負けるつもりはないが、ライバルはあまり増やしたくない。
(じゃあいっそ、ノルベルトをダサく……? 無理よ! こんなに格好いい人、なに着せたってダサくなんてならないわよ!)
ノルベルトは整った顔立ちをしているが、それだけではない。身長も高く、身体つきも立派だ。どんなものを着ても様になってしまう。
「……お嬢様。なにをそんなに悩んでいるんですか」
「だって大事な大事なノルベルトの服よ!?」
これでもない、あれでもない……と頭を抱えるルアーナを見て、ノルベルトはくすりと笑った。
そしてノルベルトの笑顔を見て、ルアーナはときめき過多で意識を失いかけたのだった。
◆
「じゃあ、飯にしましょう」
「ええ!」
購入したばかりの服に着替え、二人は近くのレストランへ向かった。
一晩何も食べていないせいでかなり腹が減っているのだ。
注文を済ませると、ノルベルトが立ち上がった。
「厠へ行ってきます。お嬢様、お気をつけて」
「あら? 大丈夫よ。少しだもの」
「……念のため、これを置いておきます」
ノルベルトは懐から短剣を取り出すと、テーブルの上に置いた。
厠はすぐそこで、なにかあれば音も聞こえる距離だ。にもかかわらず、ノルベルトが心配してくれたことが嬉しい。
「ありがとう、待ってるわ」
頭を軽く下げ、ノルベルトが厠へ向かう。
(私も行きたいけれど、ノルベルトに言うのはなんだか恥ずかしいわね……)
とルアーナが考えていると、ねえ、といきなり声をかけられた。顔を上げると、20代半ばの男が二人立っている。
服装から察するに、冒険者だろう。
「可愛いね。俺達と一緒に食事しない? 御馳走するしさ」
「あんなおっさんと一緒じゃ、君も退屈でしょ」
軽薄な笑みを浮かべながら、男達が近づいてくる。
反射的に、は? と低い声で返してしまった。
「世界一格好いい私の旦那様を悪く言う人は許さないわ!!」




