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ルアーナ嬢の執事~夜逃げした伯爵令嬢と元『剣聖』が始める国家運営~  作者: 八星 こはく


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22/23

第22話 みんな、見て!

 パーティーは、城の広間で行われる。大勢の客をもてなすために、大量の酒と料理が用意され、いつもの倍以上の使用人達が広間を動き回っていた。


「お嬢様、そろそろ客人が入ってきます」

「……え、ええ」

「ですので――パーティーの間は、お嬢様、と呼ぶのはやめます」


 客を招く側のシルヴェストル王国の人間は、客人より先に広間で待機している。入ってきた客人の一人ひとりと目を合わせ、歓迎するのがルアーナ達の役目だ。


「よろしく頼む、ルアーナ」

「ひゃっ、ひゃい……っ!」


 冷静に返事をしなければ、と分かっているのに、ノルベルトからの『ルアーナ』呼びに我慢できなかった。


(だって初めてだもの、ルアーナ、なんて呼ばれるのは!)


 とはいえ、ノルベルトのためにも醜態を晒すわけにはいかない。

 深呼吸をし、ルアーナは心を落ち着かせた。


「……よっ、よろしくお願いしますわ、陛下」





 客の過半数が入場を済ませた頃、広間にアメーリア伯爵家一行が入ってきた。

 父を先頭に歩く彼らの姿は、悔しい程度には洗練されている。


「お久しぶりです、アメーリア伯爵」


 ノルベルトが頭を下げる。すると父も丁寧に頭を下げた。


「お久しぶりです。まさか……このような形で、再会することになるとは」


 アメーリア伯爵家にいた頃、ノルベルトは素性を隠し、ただの執事として働いていた。

 そんな彼が実は小国の王族だったというのだから、普通は戸惑いそうなものである。


 しかし父は冷静で、落ち着いている。変に偉そうにもしないし、へりくだることもない。


(……まるで、感情がないみたいだわ)


 そっと父から目を逸らすと、後ろにいたオルガと目が合った。彼女は分かりやすい。苛烈な眼差しを、真っ直ぐルアーナに向けている。


「久しぶりね、オルガ」


 ルアーナから声をかけたのは、もうあの頃の自分ではない、と伝えるためだ。


「……ずいぶん元気そうね、お姉様」

「ええ。とても幸せだもの、今は」


 にっこりと笑みを浮かべる。オルガは悔しそうに歯ぎしりするが、さすがにこの場でわめいたりはしない。


 父がオルガの家での横暴を認めていたのは、アメーリア伯爵家にとって害がないから。

 この場で暴れるような真似をすれば、父は容赦なくオルガを叱るだろう。


(今の私は、シルヴェストル国の国王の婚約者。下手なことはできないはずよ)


「貴女も元気そうでよかったわ」


 そう口にし、挨拶を早々に終わらせてノルベルトと腕を組む。普段なら、お嬢様、と窘めてくるノルベルトも、今日は笑顔で腰に手を回してくれた。


「アメーリア伯爵。婚約を認めていただき、ありがとうございます」

「……いえ。こちらこそ、娘を気に入っていただき光栄ですよ」

「彼女ほど素晴らしい女性はいませんから」


(ねえ、ちょっと、聞いた!? 聞いたわよね今の!)


 と大声で叫びたい気持ちをなんとかおさえ、まあ……と淑女らしい声を漏らしてみる。


 ノルベルトが笑顔で頭を下げ、アメーリア伯爵家との邂逅は終わった。

 ずいぶんとあっさりしているが、人の目が多いパーティーであれば、この程度なのだろう。


「ルアーナ」


 耳元で囁かれる。慌てて顔を上げると、甘い笑みを浮かべたノルベルトと目が合った。


「一曲踊ってくれるか?」

「もちろん! ですわ!」


 元気よく応じ、ノルベルトと両手を重ねる。


(みんな、見て! 私が愛するノルベルトと踊っている姿を……!)


 心の中で騒ぎながらステップを踏む。練習の甲斐あって、ルアーナは完璧なダンスを披露することができたのだった。

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