第22話 みんな、見て!
パーティーは、城の広間で行われる。大勢の客をもてなすために、大量の酒と料理が用意され、いつもの倍以上の使用人達が広間を動き回っていた。
「お嬢様、そろそろ客人が入ってきます」
「……え、ええ」
「ですので――パーティーの間は、お嬢様、と呼ぶのはやめます」
客を招く側のシルヴェストル王国の人間は、客人より先に広間で待機している。入ってきた客人の一人ひとりと目を合わせ、歓迎するのがルアーナ達の役目だ。
「よろしく頼む、ルアーナ」
「ひゃっ、ひゃい……っ!」
冷静に返事をしなければ、と分かっているのに、ノルベルトからの『ルアーナ』呼びに我慢できなかった。
(だって初めてだもの、ルアーナ、なんて呼ばれるのは!)
とはいえ、ノルベルトのためにも醜態を晒すわけにはいかない。
深呼吸をし、ルアーナは心を落ち着かせた。
「……よっ、よろしくお願いしますわ、陛下」
◆
客の過半数が入場を済ませた頃、広間にアメーリア伯爵家一行が入ってきた。
父を先頭に歩く彼らの姿は、悔しい程度には洗練されている。
「お久しぶりです、アメーリア伯爵」
ノルベルトが頭を下げる。すると父も丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです。まさか……このような形で、再会することになるとは」
アメーリア伯爵家にいた頃、ノルベルトは素性を隠し、ただの執事として働いていた。
そんな彼が実は小国の王族だったというのだから、普通は戸惑いそうなものである。
しかし父は冷静で、落ち着いている。変に偉そうにもしないし、へりくだることもない。
(……まるで、感情がないみたいだわ)
そっと父から目を逸らすと、後ろにいたオルガと目が合った。彼女は分かりやすい。苛烈な眼差しを、真っ直ぐルアーナに向けている。
「久しぶりね、オルガ」
ルアーナから声をかけたのは、もうあの頃の自分ではない、と伝えるためだ。
「……ずいぶん元気そうね、お姉様」
「ええ。とても幸せだもの、今は」
にっこりと笑みを浮かべる。オルガは悔しそうに歯ぎしりするが、さすがにこの場でわめいたりはしない。
父がオルガの家での横暴を認めていたのは、アメーリア伯爵家にとって害がないから。
この場で暴れるような真似をすれば、父は容赦なくオルガを叱るだろう。
(今の私は、シルヴェストル国の国王の婚約者。下手なことはできないはずよ)
「貴女も元気そうでよかったわ」
そう口にし、挨拶を早々に終わらせてノルベルトと腕を組む。普段なら、お嬢様、と窘めてくるノルベルトも、今日は笑顔で腰に手を回してくれた。
「アメーリア伯爵。婚約を認めていただき、ありがとうございます」
「……いえ。こちらこそ、娘を気に入っていただき光栄ですよ」
「彼女ほど素晴らしい女性はいませんから」
(ねえ、ちょっと、聞いた!? 聞いたわよね今の!)
と大声で叫びたい気持ちをなんとかおさえ、まあ……と淑女らしい声を漏らしてみる。
ノルベルトが笑顔で頭を下げ、アメーリア伯爵家との邂逅は終わった。
ずいぶんとあっさりしているが、人の目が多いパーティーであれば、この程度なのだろう。
「ルアーナ」
耳元で囁かれる。慌てて顔を上げると、甘い笑みを浮かべたノルベルトと目が合った。
「一曲踊ってくれるか?」
「もちろん! ですわ!」
元気よく応じ、ノルベルトと両手を重ねる。
(みんな、見て! 私が愛するノルベルトと踊っている姿を……!)
心の中で騒ぎながらステップを踏む。練習の甲斐あって、ルアーナは完璧なダンスを披露することができたのだった。




