第19話 ノルベルトの婚約者として
「ふふっ、ノルベルトって、ダンスは苦手だったのね!」
「……言ったでしょう。剣の訓練ばかりしていたと」
即位式の日程が決まり、ルアーナ達は城へ引っ越してきた。婚約者同士部屋は一つで構わないと主張したが、ノルベルトとは別室である。
そこについては抗議し続けるとして、城での暮らしは快適で、なおかつ忙しかった。
即位式後のパーティーでは、レーゲンボーク帝国の皇族や貴族を多数招いてパーティーが開催される。
主役であるノルベルトとその婚約者であるルアーナは、当然ダンスを披露しなくてはならない。
(私は小さい頃、かなり厳しくダンスについては教えられていたけれど……)
どうやらノルベルトは違うらしい。
「大丈夫よ、ノルベルト。練習すればきっと上達するわ」
「……だといいのですが」
「それに、パートナーは私だもの! 全力で貴方に合わせるわ!」
今まで、ノルベルトには助けられてばかりだった。だからこそ、少しでも恩返しができる機会があるのが嬉しい。
「ねえ、ノルベルト」
「なんです?」
「パーティーが楽しみよ。だって、いつもと違うノルベルトが見られるんだもの!」
正装姿のノルベルトを想像するだけで口元が緩む。
いけないいけない、と慌てて口を覆ったルアーナを見て、ノルベルトも笑った。
◆
「ルアーナ嬢が提案してくれた『剣聖オレンジ』だけど、かなり売上の調子はいいみたいだよ」
ミルコの報告に、ルアーナは飛び跳ねて喜んでしまう。慌てて頭を下げると、構わないよ、と優しく言われた。
(さすがはノルベルトの実の兄。やっぱり、顔がいいわね……!)
もちろん、顔だけでときめくわけではない。しかし、まあ、多少どきどきしてしまうのは、仕方がないことである。
「君の名声はまだまだ有効活用できそうだね、ノルベルト?」
「……もう過去のことですが」
「だとしても、使えるものは使っていこうよ。それに君、まだまだ実力は現役だろう?」
ミルコがくすりと笑う。ノルベルトは否定も肯定もせず、無言で話を終わらせた。
(実力を誇示しないところ、素敵だわ……! ああでも、強気に実力を誇るノルベルトも見てみたい……っ!)
「おかげで税収も少し増えた。これなら、なにか新しい政策ができるかもしれない」
「……あっ、あの!」
「どうかした? ルアーナ嬢」
「学校を建てるというのは、難しいのでしょうか……?」
ルアーナの問いかけに、なるほどね、とミルコが頷く。
「学校を建てるのには、時間も費用もかなりかかる。今回の一時的な収入では難しい」
「……ですよね」
「けれど、国を発展させていくにあたって、教育の強化は避けて通れない問題だ」
ミルコは微笑みを浮かべ、ルアーナに一つの提案をしてくれた。
「まずは週に一度。どこかの施設を借りて、勉強会を開いてみるのはどうだい?」
◆
「お嬢様、本当に一人でも大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。任せて! 私、立派に仕事をやり遂げてみせるから!」
ミルコの提案に従い、ルアーナは週に一度、子供を対象として無償の勉強会を開くことになった。
開催場所は、王都にある図書館の一室だ。
元々、識字率が低いシルヴェストル王国では図書館の利用率も低い。そのため、勉強会を開くためのスペースを借りられたのだ。
「ノルベルトはノルベルトでやらなきゃいけないことがあるもの。私も、自分にできることを精一杯、やってくるわ!」
勉強会には、全ての子供が参加できるわけではない。
近所に住む子供が中心になるだろうし、家業を手伝う必要のある子供は参加できないかもしれない。
(でもきっと、これは大事な一歩よ。ううん、私が、大事な一歩にしてみせるの!)
「分かりました。行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ。待っててね、ノルベルト!」
ノルベルトの婚約者として。ゆくゆくは妻として。
――自分も、この国を良くするために、いろんなことを頑張っていきたい。
(それに、頑張るって楽しいもの!)
大きく手を振って城を出る。ルアーナが馬車に乗り込んだ後も、ノルベルトはルアーナを見守り続けてくれた。




