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ルアーナ嬢の執事~夜逃げした伯爵令嬢と元『剣聖』が始める国家運営~  作者: 八星 こはく


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第18話『剣聖』オレンジ

「ブランド化……とは?」

「あのね、社交界の――特に貴族の女性の間では、同じ品物でも、広告によって売上が変わることがよくあるらしいの」


 ルアーナは家に閉じ込められてばかりで、ろくに社交界に出たことはない。

 しかし、オルガによく自慢話をされていたから、社交界についてそれなりに知識はある。


「たとえば……社交界には、女性からすごく人気の婦人がいるらしいのよ。お洒落で、美人で、家柄もよくて頭のいい人。その方が愛用している香水が、すごく売れたことがあったの」

「……香水、ですか」

「ええ。元々は、庶民でも買える一般的な物だったわ。たまたま彼女が気に入って使っていたの。そうすると、今まで見向きもしなかった令嬢達が、こぞってその香水を買ったのよ」


 結果として、その香水は売り切れが続出し、最終的にはかなり値上がりして、高級品として扱われるようになったのだ。


「物の質はもちろん大切だけど、それ以上に誰が使うか、どう宣伝するかが大事だと思うの」

「……確かにそうかもしれません」

「でね、今って、『剣聖』がどうしているかは知られてないでしょう? でも、ノルベルトが即位すれば、どうせ今『剣聖』がどうしているかは分かるわ。だから、先んじて『剣聖』にちなんだオレンジを発売するのはどうかと思ったの」


『剣聖』の存在は世間でも幅広く知られている。きっと、『剣聖』を英雄視し、憧れている者も少なくないだろう。


「ただのオレンジでも、『剣聖』の名前をつけるだけで売れると思うの。なにより、費用がかからないわ。名前を変えて売るだけだもの」


 目立ちたくない、と言っていたノルベルトにとっては、望ましくない提案かもしれない。

 だが、即位すれば、どのみち目立つのだ。だとすれば、その知名度を存分に使う方が得なのではないだろうか。


「どうかしら、ノルベルト!」

「……お嬢様」


 目が合うと、ノルベルトは優しく微笑んだ。


「やってみましょうか。お嬢様がいなかったら、思いつかなかったやり方ですから」





「……なるほど。『剣聖オレンジ』と称して、ただのオレンジを販売する……か」

「はい。永続的な効果はないかもしれませんが、シルヴェストル王国産のオレンジが美味しいことを知ってもらうきっかけにもなるかと思いましたわ」


 城に戻ったルアーナ達の報告を聞くと、なるほどね、とミルコが頷いた。


 成功したとしても、おそらく『剣聖』という名前の効果は一時的な話題を作るだけだ。だがそもそも、シルヴェストル王国産のオレンジは美味しい。


 これをきっかけに、オレンジそのものの人気を高めることだってできるはずである。


「ルアーナ嬢は面白い発想をするね。私やノルベルトなら思いつかなかっただろう」


 少し考え込んだ後、ミルコはにっこりと笑った。


「物は試しだ。費用もたいしてかからないし、一度やってみようか」


 ミルコの言葉に安心する。


(自分のアイディアが形になるのって、こんなに嬉しいのね……!)


「それと、君達に一つ報告があるんだ」

「……報告、ですか?」

「嫌そうな顔しないでよ、ノルベルト」


 くすりと笑うと、ミルコはノルベルトの肩にぽん、と手を置いた。


「1月後、君の即位式を行うことになった。同時に、レーゲンボーク帝国からも客人を招いて、派手にパーティーをするつもりだ」


 ミルコが、ゆっくりとルアーナに視線を移す。


「ルアーナ嬢。君とノルベルトの婚約も、そこで発表しようと思っている。いいね?」

「もちろんですわっ!」


 飛び跳ねて頷いたルアーナを見て、ミルコは満足そうに笑った。

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