第17話 ルアーナ嬢のひらめき
「識字率が高くない……?」
「ええ。農村が多いので、レーゲンボーク帝国よりもかなり低いかと」
レーゲンボーク帝国では、貴族の子女は学校ではなく家庭教師による教育を受けるのが一般的だ。
加えて、平民のための学校もあるし、最高教育機関としての大学も存在する。
(学力に差があるのは当たり前の認識だったけれど、そもそも文字が読めない人がいるなんて考えたこともなかったわ……)
文字の読み書きはルアーナにとって当たり前のスキルで、それができない人がいるなんて想像したこともなかった。
「……それって、かなり問題……よね?」
「はい。少なくとも、一人ひとりの人生を考えた時、選択肢を狭めているのは間違いありません」
ノルベルトの言葉を聞いて、遠くにある畑を眺める。
畑では、大人だけでなく、小さい子供も働いていた。
(あの子も、文字が読めないのかしら)
可哀想、なんて思ってしまうのはよくないのかもしれない。けれどどうしても、不憫に感じてしまった。
◆
「この村の特産品はオレンジなんです」
ルアーナ達を案内するためにやってきてくれたのは、この村の村長だという男性だった。
「甘みが強く、瑞々しいのが特徴なんですよ。宿の食事でも出ると思うので、ぜひ食べてみてください」
「ええ!」
村長の案内に従い、村中を練り歩く。
「わっ、綺麗なお姉さんだー!」
「初めまして!」
畑の近くを歩いていると、子供達が集まってきた。農作業の途中のため、皆動きやすそうな服を着ている。
「初めまして」
目線を合わせるようにしゃがんで挨拶を返す。すると、また子供達がはしゃいで声を上げる。
(客人が珍しいのかしら)
「今日はこの村のことを知りたくてきたの。教えてくれないかしら?」
「いいよー!」
かわるがわる、子供達はこの村について教えてくれた。
昔からずっとこの村に暮らしている家族ばかりで、客人や新しい住民は滅多にやってこないこと。
娯楽が少なく、退屈だということ。
この村から一歩も出ずに生涯を終える人も少なくないということ。
――そして当たり前のように、彼らは実家の畑を継ぐのだということ。
家業を継ぐのは素晴らしいことだ。しかし、それしか選択肢がないというのは辛いものだ。
(まあ、貴族だって、そんなものだけれど……)
貴族として生まれた以上、家を継ぐか、父親の望む相手と結婚するかだ。ルアーナはたまたま、運がいいことに自由な生き方を選び取れただけで。
「教えてくれてありがとう、みんな」
◆
「ねえ、ノルベルト」
「はい」
「この村に、学校を作ることはできないのかしら?」
村を見て回り、宿に戻った後、ルアーナはそう口にした。
「……その気持ちは分かりますが、現実的には厳しいんですよ」
「どうして?」
「財源の不足です。特に最近は天候に恵まれず、税収が落ちていますから。学校を建てる場合、建設費もかかりますし、教師の賃金も必要になります。それに、子供が学校へ通う時間、農家から労働力を奪うことになるんですよ」
財源の不足。おそらく、そのせいで色んな影響がこの国に出ているのだろう。
税収が少ないということは、国民一人あたりの収入も少ないということ。この村の人々も、苦しい生活をしているのかもしれない。
「……国を立て直すために、まずはどうにかしてお金を稼がなきゃ! ってわけよね?」
「ええ、そうなります。ですが、その政策のためにも金がかかるとなると、そもそもの予算をどこから持ってくるかが厄介で……」
つまり、金をかけずに利益をあげる方法が求められているということだ。
(なにかを新しく作ったり、時間のかかるものは駄目。もちろん、他国を襲ってお金を奪うのも駄目)
「……あっ!」
「どうかしましたか、お嬢様?」
「ただのオレンジに、『剣聖』と名前をつけてブランド化するのはどうかしら!?」
瞳を輝かせたルアーナを、ノルベルトはきょとんとした顔で見つめ返したのだった。




