第16話 旅行!?
「ノルベルトなら、そう言ってくれると思っていた」
再び城に訪れたルアーナ達を見て、ミルコが微笑みを浮かべた。今日は先日よりも調子がいいのか、顔色がいい。
「実は、既に準備は進めてあるんだ。少しでも私が元気なうちに、きちんと後継を指名したかったからね」
「……兄上は今後、どうするんです?」
「すぐに君に全てを任せて隠居するつもりはないよ。けど、身体が持たなくてね。療養に専念させてもらえると助かる」
喋り終えると、ミルコはこほこほ、と咳をした。
「でね、ノルベルト」
「はい」
「即位する前に、君には今のシルヴェストル王国の実態を、改めて知ってもらいたいと思っている」
「……はい」
「というわけで、ルアーナ嬢と旅行にでも行ってきなよ」
そう言うと、ミルコはにっこりと笑ったのだった。
◆
「昔から兄はこうなんですよ。穏やかではあるんですが、一度決めたことに関しては、俺の意見なんて聞きません」
不貞腐れたような顔をするノルベルトは新鮮で、そうなのね、と頷きながらもときめいてしまう。
あの後、ミルコが手配した馬車に強制的に詰め込まれ、ルアーナ達の旅行が始まったのである。
旅行といっても、向かう先はシルヴェストル王国内だ。王都ではなく、少し離れた農村である。
シルヴェストル王国は、王都以外はほとんどが農村なのだという。昔は肥沃な大地のおかげで農業生産力が強かったが、近年は天候に恵まれず、厳しい状況が続いているそうだ。
「ノルベルトは、今から行く村にも行ったことがあるのよね?」
「一応は。ですがこの国にいた頃の俺は、基本的に毎日剣の修行に明け暮れていましたから」
「格好いい……!」
「ただ訓練していただけですよ」
「それが格好いいのよ! 一つのことをずっと鍛錬し続けるなんて、すごいもの!」
そして鍛錬し続けただけでなく、その結果、ノルベルトは見事『剣聖』となったのだ。
「努力もできて、その上結果も出せるなんて、格好いいに決まっているじゃない!」
「……ありがとうございます」
「わっ、もっ、もしかしてノルベルト、照れてるのっ!?」
ノルベルトの頬が、ほんの少し赤くなっているように見えた。
思わず指摘してしまうと、ノルベルトが顔を髪で隠すように俯く。
「ちょ、ちょっと、ノルベルト……」
「……なんですか」
「格好いい上に可愛いなんて、どこまで私を好きにさせれば気が済むのっ!?」
ルアーナの絶叫で、馬車は派手に揺れたのだった。
◆
目的地に到着後、ノルベルトにエスコートされて馬車を下りる。すると、のどかな光景が広がっていた。
点在する民家と、だだっぴろい畑。観光客らしき姿は見えず、農業に従事する人々ばかりだ。
(なんていうか、すごく田舎って感じだわ。でも、空気が澄んでいて、気持ちいい……!)
周りの景色を見つつ、ノルベルトに案内されて村を進む。
村で一番いい宿を手配してくれたらしい。街にある宿のように大きく立派な宿ではないものの、品のいい建物だった。
「一度宿で休んでから、村を散策してみますか?」
「そうね。でも、あまり疲れていないから、休まなくても大丈夫よ。荷物だけ置ければ」
答えながら、ルアーナは少しだけ違和感を覚えていた。
馬車を下りてからここへくるまでの間、ノルベルトではなく周りの景色を見るように心がけていたのだが、どこか違和感がある。
(でも、なにかしら……?)
もどかしくて、再度周りを見回す。
宿の周辺にはレストランや食料品店等、店が並んでいる。どうやら、住居以外の建物はこのあたりに密集しているらしい。
「……あっ!」
「どうかしましたか、お嬢様?」
「この村って、文字を書いた看板がないわよね!?」
どの店も、看板に描いてあるのはイラストだ。分かりやすいし、可愛いなとも思っていたけれど、ルアーナが見慣れているものとは違う。だから違和感があったのだ。
「……ああ」
呟くと、ノルベルトは少し気まずそうに言葉を続けた。
「この村は――シルヴェストル王国は、識字率がそれほど高くないんですよ」




