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ルアーナ嬢の執事~夜逃げした伯爵令嬢と元『剣聖』が始める国家運営~  作者: 八星 こはく


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第12話 ノルベルトの覚悟

 シルヴェストル王国の城は、城というにはあまりにも質素な建物だった。アメーリア伯爵家の屋敷と同等、下手をすれば、それ以下の広さかもしれない。

 しかし、掃除は隅々まで行き届いている。ルアーナ達が案内された客間も、埃一つ残らぬほど磨き上げられていた。


 待つこと数分。セルジオに支えられて現れたのは、銀髪の男性だった。

 ノルベルトと同じ銀髪だが、彼と違って短く切っている。瞳は青く、ノルベルトと口元の雰囲気が似ていた。

 ノルベルトが歩く色気だとすれば、彼は歩く清涼感、といったところだろうか。


「久しぶりだね、ノルベルト」


 微笑んで挨拶をした直後に、けほけほ、と咳を繰り返す。顔色も悪く、セルジオの支えなしには立っていられないようだった。


「……兄上」

「ああ。君の兄上だよ、たった一人のね。薄情な弟は、もう何年も顔を見せてくれなかったけれど」


 からかうように笑うと、ノルベルトの兄――ミルコは、テーブルの上に置かれた水を飲んだ。


「彼女は君の恋人なんだって? ずいぶんと若い子だね」

「違います」

「そう? 残念だ。兄として、君には早く結婚をしてほしいから」


 顔は少し似ているものの、纏う雰囲気はまるで違う。


「早速だけど、本題に入ろうか。君には話したいことが沢山あるからね」


 そう言うと、ミルコはシルヴェストル王国の現状について話し始めた。





「――というわけで、君に後を継いでほしいんだ」


 ミルコによると、シルヴェストル王国は現在、かなり厳しい状況にあるようだ。

 端的に言ってしまえば、独立を保てなくなるかもしれない、ということだった。


 元々、シルヴェストル王国が独立を認められたのは、独立時のシルヴェストル公爵の功績によるもの。

 年々その功績が持つ重みは減っており、レーゲンボーク帝国に併合すべきだという声も大きいのだという。

 おまけに、シルヴェストル王国の財政状況もよくないらしい。


「シルヴェストル王国を、私の代で途絶えさせるわけにはいかない。だが見ての通り、私は病を患っている。しかも、子供もいない。今後、生まれることもないだろう」

「……兄上」

「剣聖である君が王になれば、レーゲンボーク帝国もすぐに我が国を併合しようとはしないはずだ。その間に、君には我が国の財政を立て直してほしい」


 真剣な眼差しで、ミルコがノルベルトを見つめる。


「頼むよ、ノルベルト。君にしかできないことだ」


 確かに、ミルコの言う通りだろう。『剣聖』というノルベルトの過去が重視されるのであれば、彼以外に適任はいない。


(……だけど)


 気づいたら、ルアーナは立ち上がっていた。


「陛下。失礼ですが言わせてくださいませ。ノルベルトには、ノルベルトの人生がありますわ。国のために、ノルベルトになにかを押しつけるのはやめてください」

「王族というのは国のために生きる者だよ、お嬢さん」

「……そうかもしれません。でも……」

「それに、ノルベルトが即位すれば君は王妃になるんだよ?」


 王妃。少し前まで虐げられていたルアーナにとって、縁遠すぎる言葉だ。


「私は、王妃になりたくてノルベルトと結婚したいわけではありません。ノルベルトの妻ならなんでもいいんです。どれほど貧しい暮らしだろうと、ノルベルトさえいてくれれば」


 旅の道中、ずっと快適な生活をしていたわけじゃない。ぼろい宿に泊まることも、質素な食事をすることもあった。

 けれど、ルアーナはずっと楽しかったのだ。


「……ノルベルト。君は、とてもいい奥さんを見つけたみたいだね」

「ですから、違います」


 はあ、とノルベルトは溜息を吐いた。


「今後のことについては、考える時間をください」

「うん、もちろん。いい返事を期待しているよ」


 そう言うと、ミルコはセルジオに支えられながら去っていった。彼らが客間からいなくなった後、ノルベルトが困ったように笑う。


「お嬢様。俺のことを考えてくれてありがとうございます」

「当たり前よ! 貴方が好きなんだもの」

「ただ、兄上を責めないでください。今までの間、俺が自由に生きてこられたのは、全部兄上のおかげなんです」


 ノルベルトの顔を見て、ルアーナは察した。


(……ノルベルトはとっくに、自由を失う覚悟ができてるんだわ)

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