第10話 真夜中の訪問者
「とりあえず、ここを借りましょう」
ノルベルトが案内してくれたのは、黄色い屋根が眩しい家だった。どうやら借家らしく、大きくはないものの、二人で暮らすには十分である。
近くの不動産屋で手続きを済ませ、中へ入る。二階建ての家で、一階はリビングと台所と風呂、二階には二部屋ある。
家具も備え付けで、今から暮らすのに何の不自由もなさそうだ。
「ねえ、ノルベルト。二階の二部屋はどうする? 一部屋は寝室でしょう?」
「一部屋がお嬢様の寝室で、もう一部屋が俺の寝室です」
「ええっ!? 夫婦なのに!?」
「夫婦じゃありません」
ノルベルトはわざとらしく溜息を吐いた。
もう少しごねたいけれど、宿屋でもなく、安全な一軒家で寝室を同室にする主張はなかなかに難しい。
「……分かったわ……」
「……なにかあったら、すぐにきていいですから」
「本当!?」
ぱあっと目を輝かせたルアーナを見て、ノルベルトはもう一度溜息を吐いたのだった。
◆
「ここが、職業案内所です」
翌日、ノルベルトが連れてきてくれたのは、街の中央にある大きな平屋だった。左半分のスペースには冒険者ギルドがあり、右半分のスペースには職業案内所がある。
壁いっぱいに、様々な仕事の求人情報が貼られていた。
レストランのウェイターや調理員、宿の清掃員、農作業の手伝い、子供の家庭教師……等々、様々である。
「なにか気になるものはありますか?」
「そうね……」
今まで、ルアーナは一度も働いたことがない。だから、どんな職業が向いているのか、なにが得意なのか、正直なところ分からないのだ。
「子供の家庭教師ならできるかもしれないわ。一応、教育は受けているから」
「なるほど。よさそうですね」
頷くと、ノルベルトは『家庭教師募集』と書かれた複数の紙の内容を全てメモし始めた。
「……ノルベルト? カウンターへ行って、申し込むんじゃないの?」
「いいですか、お嬢様。仕事いうのは、簡単に決めてはいけません」
そう言うと、ノルベルトは少し声を潜めた。
「家庭教師なら、その家の評判・近所づきあいはどうなっているか。指導することになる子供の性別や性格、得意科目や苦手科目……あらゆることを調べ、自分にとっていい条件の仕事を探すべきです」
「な、なるほど……」
家庭教師の募集は何件かあった。けれどノルベルトに言われるまで、それらをどう比較するかすら考えていなかった。
(やっぱり私って、世間知らずなんだわ……)
しゅん、とルアーナが下を向いてしまうと、ノルベルトが優しく微笑む。
「俺が心配性なだけかもしれませんけどね」
「そっ、それって、私が心配だってこと!?」
「さあ、そうかもしれません」
「ちょっと、そこっ、詳しく教えてくれないかしら!?」
顔を上げたルアーナがぴょんぴょんと跳ねても、ノルベルトは相手にしてくれない。
「焦る必要はないんですから、ゆっくり仕事を探しましょう」
◆
夜中、ぐっすり眠っていると、ゴンゴン! と玄関の扉を叩く音がルアーナの部屋にまで聞こえてきた。
少しして、ノルベルトの部屋の扉が開く音が聞こえる。
ルアーナも部屋を出ると、ノルベルトと目が合った。
「お嬢様、起きてしまいましたか」
「ええ、大きな音がしたもの」
「怪しい者だと危険ですから、ここで待っていてください」
本当は一緒へ行きたいけれど、ノルベルトに迷惑をかけるわけにはいかない。頷いて、ルアーナはそのまま二階の廊下で待機することにした。
ノルベルトが1階へ下りてすぐ、ゴンゴン! という音が止んだ。彼が扉を開けたのだろう。
(こんな夜更けに訪ねてくるなんて、一体誰かしら……?)
耳を澄ませる。すると、年老いた男の声がした。
「ノルベルト坊ちゃん! 今すぐきてください! ミルコ陛下が、坊ちゃんをお呼びです!」




