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第三話

Main Side


兄である。

「布武崎、そいつは俺の知り合いだよ」

 兄はフブザキというらしい女もどき男に向かってそう言った。

顔を見るのはいつぶりだろうか。久しぶりに見た兄は、汗にまみれ木の葉にまみれて散々な上に、こちらを向きつつ世の終わりを目撃したかのような表情をしているがそんな事は関係ない。体の内側から何かが込み上げてくる感覚に襲われる。

俺は、たとえ兄と対面しようともある程度は冷静でいられると思っていた。結論を言うとそれは無理だった。女だか男だかよくわからない野郎の事が瞬時にどうでもよくなる。

「よう」

|叫び声に覆われた枝分かれのク・リトル・リトルをしまう。

「俺の家がビルになってたんだけど」

和やかな顔を作って兄に近づく。兄が何やら安心したような表情を浮かべている。「ああ、あれはな」何かを言おうとしているが今はそれも関係無い。

以前にも四度くらい宣言したように、対面→殴る、この順序は俺によって守られる。始めはふざけながらの宣言だった。しかし今では義務のようなものすら感じてしまっている。

「訳を教えてもらおうか。人為的にボコボコにした後にな!」

安心しきった兄の腹に拳がめり込んだ。兄が何かをうめく。発音が不明瞭でほとんど聞き取れない。だが、もとから聞く気など無い。続けて魔力で強化した打撃を人体の急所へ放っていく。

なかなかの打撃を兄に与えたように見えるし、実際そうだろうが、残念な事に兄の魔力量は俺の魔力量をはるかに凌駕している。その差のおかげで俺の打撃の威力は軽減されているはずだ。その証拠にしこたまボコボコになっている割に兄の顔は余裕綽綽である。

少なくとも反省はしていないだろう。

「|叫びは狂気となり凶器とする愚者の触志ジェ・ティス・トゥルド

 グローブを取り出し、装備する。

「お前は半分くらい死んだ方がいいな」

今度は腹や顔ではなく、足を、殺意を込めて殴る。逃がさないようにだ。途端、殴った箇所を中心として嫌な音を立てながら、足が捩れた。平然とグロテスクなので直視に耐えない。視界の端の布武崎が驚いたように目を見開いた。

今度こそ兄の顔から余裕が消え、汗が吹き出る。ざまあ。

「ま、待て、弁明くらいさせろ」

 続けようとする俺を手で制し、兄は言った。捩れた足では立つ事が出来ない為、地べたに尻を付けている。

「たしかに恵まれない子供達に寄付という可能性もあるな」

たとえそうでも許す理由にはならない。しかし、ある程度なら罪状を軽くしてもいいだろう。俺の腹は煮えたぎったままになるから多少の嫌がらせは必要だが、まあ、殴る事をやめるのもやぶさかではない。

兄は回復系の魔法を行使して、こちらを見た。

「ああ、研究の為の資金が枯渇してな」

「ROUND2」


何が起きたかというと、兄が大層捩れた。極めて物理的な意味で。

海に沈めようとしたところで布武崎から静止を受けた。

たしかに今夜の宿がなくなっては困ってしまう。兄が何処に住んでいるのかなんてわかるわけがない。

「ところでお前、許可証持ってないだろう」

それらしいものが感知できないからわかると、さっきまで捩れていたくせして何事も無かったかのように会話を始めるあたり兄は相当のタフネスガイだ。横の布武崎が素早くこっちを向く。そんなに速く顔を動かしたら片眼鏡が宙を舞うのではないだろうか。

「それなら学園長の所まで来てもらおうか」

布武崎がこちらを睨みつつ言ってきた。しかし拒否した。

俺が出て行った後に制度が変わったのなら知らないが、たしか学園長はこの島の最高責任者も兼ねていたはずだ。誰が好き好んでそんな危険を犯すというのだろう。自ら首を差し出すようなものだ。

布武崎と兄が視線を交錯させた。

改めて布武崎がこちらに顔を向ける。

「・・・・・・上等な食事と部屋を用意させよう」

「行く」

背に腹は代えられないとはよく出来た言葉だ。




この島はあらゆる異端―――魔法使いや人狼や錬金術師といった様な一般人が否定する存在の一切合切―――の個々の能力を制御させることを学ばせる機関であると言って差し支えない。

許可証とは自身の能力を制御しきったものに与えられるモノなのである。そして、一度島に入ってしまえば許可証を得るまで出ることを許されない。例え許されたとしても幻覚魔法付近の力場を正攻法で突破することなど不可能だろうから脱出できないが。

俺は過去に一度この島に入れられたのだが面白みが無いので脱出してしまったわけだ。今から考えれば普通に学んだ方が力量的に今よりも上には到達出来ていただろう。若気の至りというヤツである。

「お久し振りですね」

 目の前の老人―――学園長が俺の過去など気にもせず微笑みながらそう言った。

俺ならボコボコになるまで殴っているところである。いや、油断させるためにそうしているだけで、内心は俺と同じかもしれない。……油断しないでおこう。

俺が身構えた事に気づき学園長は気にしていないと言う旨を俺に伝えた。なら、何の用なのだろうか。

「貴方は許可証が無いですからね。流石に二度も脱出させるつもりはありませんからここにいて貰おうと思っているのですよ」

「巫山戯るなよ。俺は兄を殴る目的―――は果たしたからこれからのことを兄に保証して貰おうとしているだけなんだよ」

「無茶言うなよ!」

 後ろでミイラの様にギプスを装着した愚か者である兄が最後の力を振り絞って叫んだ。当然、最後の力を使い果たしたのだから叫んだ後は地面に尻を天に突き上げる形で突っ伏したので兄に対しての怒りが若干和らいだ。

 それ程面白かったのである。

 俺は布武崎に慌てて介抱される兄を無視し学園長に返答した。

「島を出た時の続きから出来るとしても許可証を得るまではあと5年はかかるだろうからパスだな」

 こんな所で過ごすのは本当にゴメンなのだ。俺からすれば許可証を敢えて貰わずに居座る兄の精神はとうに潰れてしまっているとしか思えないのだ。

「ええ、判っています。なので妥協案を提示させていただこうかと考えているのですよ」

 妥協案。願ったり叶ったりの展開かもしれない。

「内容は、貴方に当分の間、貴方の兄や布武崎の様にこの島と仲間を守る役割に付いて欲しいだけです。その間は学園の生徒として過ごしてもらう事になりますが、それでも5年よりかは格段に短い期間で許可証を差し上げることが出来ると思いますよ?」

 通常であれば、許可証を得る為に学ぶ所か、幽閉されて永久に許可証を貰えない程の事である。

 それに、島を守ることは兄と布武崎に押し付け、学園での授業も寝るなりサボるなりして受け流して過ごせば良いことだ。

 そう考えるとこれは破格の申し出である。

「いいだろう。その案を飲む」

 と、なると兄と布武崎は俺に最も接する人物という事になる。

「兄、残念ながら今から仲間という事になる。改めてだけれどよろしく、ってテメェ俺が挨拶してるのに面白い格好で寝てるんじゃねぇ」

「……お前がやったんだろうが」

 ああ、そういえばそうだったか。どう考えても兄の自業自得だが。

 しかし、このままでは挨拶は出来ないし布武崎の心象も最悪になるかもしれない。兄と仲の良いように見えたし。

完全無欠を作り出す蔓(アヤワスカ)

手元に蔓の木の切れ端が現れた。それを兄の口に突っ込むと苦しそうにしたが強制的に飲み込ませた。

「お、おぇっ」

 そして、刹那を空けずにを霧散させギプスを魔力を込めた拳で殴打し破壊した。

「お前! 実の兄になんて事をするんだ!」

 布武崎はそう叫び俺に掴みかかり拳を握り締めて見せた。

「おいおい、よく見てみろよ。それともここじゃあ治療も悪とされるのか?」

「あ? 何をふざけた事を―――」

 布武崎が息を呑むのがわかった。目をコレでもかと見開いているその表情は既に見飽きたといっても良い。

 コイツは些細なことで驚きすぎだろうと思う。

「な、馬鹿な。全身の骨折だぞ?」

「簡単なことだ。治療しただけだよ」

 見てみると兄の全身骨折は完治し、調子に乗って後転して立ち上がっている最中だった。

「いきなりこれからを保障しろと言われてもだな・・・・・・」

 さすが厚顔無恥な兄は布武崎と違って冷静である。

そのまま転んで挨拶に差し支えの無い部分の骨が折れてしまえば良かったのに。腕とか腕とか、足とか。

「お前が俺の家を売らなければ問題など起きなかったはずだ」

世界各地を流浪していたので、金など無くなっている。そんなこんなで俺の生活を確かに保障するものはあの家だけだった。それももうこの兄のおかげでビルに成り果てているわけだが。

「それ相応の弁償は最早義務だな」

聞いて、兄は布武崎を見た。視線は先程のように交錯する事無くむしろ布武崎は呆れ果てたように、どこから金を手に入れたのかと思ったら、などと呟いている。学園長は微笑みを絶やさないもののただ静観しているだけだ。

この場に兄の味方は居ない。

「・・・・・・分かった」

苦虫を噛み潰したような顔というのはまさにこれ、この兄の顔を指すのだろう。

「俺の家の一室をお前に貸そう」

 改めて兄の神経を疑った。

「家一軒とボロ家の一室を貸す程度が釣り合うと思ってんのか?」

というか、そこまで俺と一緒に住みたくなかったのか。失礼もここまで極まると逆に清々しい。

もう諦めて拳で語り合おうかと思っていると、布武崎が間に割って入った。哀れに思ったのだろうか。

「おい待て、こいつは天才とも言われた錬金術師だ。おかげで生活は保障されているから、そこらよりよほど良い家にすんでいるぞ」

「なるほど」

それならそれで、何故俺の家を売ったのかという疑問が湧き出るが、研究と言いつつ別の何かに使ったのだろう。兄の生活を保障するお偉いさんも、娯楽費までは払いたくないに違いない。

あるいは規格外の価格を要求し、却下されたのか。何にせよ、また兄に何かを要求する際にでも問い詰める事にしよう。

「多少疑問はあるが、まあいいだろう」

兄が布武崎に感謝の念を伝えている。いずれ泣きを見るのだから一時の安心を味わっても良いだろう。俺はとても寛大である。

「それでは、転入は明日からでお願いしますね」

学園長は俺に微笑を向けた。

「制服や教科書など、必需品は明日の朝までに準備させましょう」

急な話だが、特に困る事も無いので頷いておいた。

この島の特殊なあり方からして、極めて少ない貿易以外は全て島の中でまかなっているのだろう。学生一人分の勉強道具など造作もなく揃うはずだ。

「島を守る事に関しては布武崎くんに聞いて下さい。私よりも実際に現場で働く彼の方が詳しく説明してくれるはずですから」

布武崎の方を見ると会釈していた。兄は嫌そうな顔をしてこちらを見ている。どうかと思う。

学園長が拍手を打った。

「用件はこれだけです。今日は疲れを癒したり、親睦を深めたりしても良いでしょう」

徹頭徹尾微笑を崩さない学園長は、やはり油断禁物な相手だろう。

学園長の部屋からぞろぞろと退出する。

脱出を試みる輩さえ現れなければ、課せられた責務は明日から開始する事になる。今日は久しぶりの布団をエンジョイするとしよう。

「そうだ、兄。一室を貸すだけでトイレや布団を貸さないなんて言い出すなら、覚悟しておけ」

帰りがけにそう言うと兄が舌打ちをした。

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