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第四話

 基本的に自給自足を余儀なくされている島に、料理屋はわかるとしても、出前まで存在するとは。

 口約束とは言え俺は上等な食事と部屋が約束されていたのだ。

 上等な部屋は兄の家で我慢するとしても上等な食事をも我慢する必要性が何処にあるだろうか。

 それでは何の為に学園長に会いに行ったのかわからなくなってしまう。

 寿司の特上を注文し、兄の財布から代金を支払った。

 兄の財布は実に肥え太っていた。俺は財布のダイエットに協力する事にして、数枚抜いておいた。

 寿司を貪る俺を見て兄は感情を読み取れない微妙な表情をしつつ、あの約束は金銭的な理由で一回しか機能しないから、と言った。

 それから、兄の家はなるほどまさに金持ちといった風体だった。豪奢な装飾が施されているわけではないが、周囲の家と比べると明らかに大きい上に使用人が居た。少なくとも、かつて俺の家にあった布団よりいくらか高級な布団が備え付けられていたのである。

 それが昨晩の話であり、今はもう朝が来ている。

 目が覚めると枕元に勉強道具が詰められているらしい鞄と制服が置かれていた。

 白ひげの赤いおじいさん気分なのか、ご丁寧な事に靴下を模した赤い袋へ入れられている。

 何度も通りがかってはニヤニヤしている兄に軽く腹が立つ。奴の計らいだろうか。

「制服、似合っているぞ」

 食卓に着くと何故か布武崎が居た。

 既に奴の前の料理はかなり減っている。

 朝食の献立はご飯と味噌汁を基調とした和食のようだ。疑惑の意味を込めて見ていると、布武崎は味噌汁を飲み干した。

「いやなに、警備について話し忘れてしまったからな。説明と、学校への案内をしようと思ったんだが」

 個人的にはサボりたいところだ。しかし、さすがに初日からそんな事をしてしまったら幽閉という名のVIP待遇が確定するだろう。

 とりあえず話を聞くだけ聞く事にしよう。

「・・・・・・・頼む」

「まずは―――」妙に長かったので要約すると、とりあえず怪しい奴は取り締まれ。

 魔女の万華鏡(リディクルー)の効果で乱れ狂った力場が生じてしまっているので、それへの対処を行う際に生じる魔力を感知したら駆けつけろというような事を布武崎は言った。

 そもそも不自然に海上へ向かう者も対象になるという。

 兄はどうか知らないが、布武崎は多分真面目に働くだろう。

 近くに脱出を目論む奴が出ない限りは放っておいても問題ないな。いざとなったら気がつかなかったで白を切るつもりだ。というより、脱出に成功された所で俺は何も困らない。

 いつのまにか使用人が運んできていた料理を平らげにかかる為、食卓に着いた。

「学校はここから近いところにあるのか?」

 そう質問しつつ何気なく焼き魚を口に運んだ瞬間、衝撃が走った。

 焼き加減が絶妙すぎたのだった。

 焦げすぎず、生すぎず、まさにスパゲティでいうアルデンテの状態。使用人は間違い無く優秀だ。どこの宮廷料理人だろうか。

「昨日学園長と会いに塔に行っただろう。あの塔の近くにある」

 なるほど、たしかに塔はこの家の近くにある。

 やはり学園長が居た場所の近くに学校があるらしい。というより、学園の長と名乗るからには当然なのかもしれないが。

「より正確に言うと、あの塔は学校の一部になるな」

 いや、むしろ学校が塔の一部なのか、顎に手を当てつつ布武崎がそう言ったがしかしそんな事より、味噌汁までもが絶品だ。

 今まで俺が飲んでいた味噌汁は実は汚水だったのでは無いかと、いや、それは言いすぎだが、ともかく味噌汁以外の何かだったのではないかと思えてくる。まさに味噌汁の完成形と言えるだろう空前絶後の味である。

「急がなくても遅刻はしないだろうから安心しろ」

 布武崎が苦笑する。急がなければ消えるという幻想に捕われてしまう程の絶品なのだから仕方ない。

 そう言えば布武崎はどうして匠の料理を平常心で食べられるのか。

「ごちそうさまでした」

 欠片ひとつ残さず平らげた。

 各種おかずからご飯、一片の隙もなく、まさに筆舌に尽くしがたい美味さだった。

 どんなに優れた批評家も一口食べれば絶句するであろう。たしかにこれは上等な食事と言っても過言ではない。

 使用人は一体何者なのか。

 敬意を込めて人間かどうかを疑う事にしようと思う。

 家主である兄に学校へ行ってくる事を伝えようと思ったが、肝心の兄が見つからなかった。

 さっきまでうろうろニヤニヤしていたのが嘘のようである。殴っておけば良かったか。

 布武崎に聞くと、おそらく地下室だろう、と返ってきた。


 親睦を深めようと雑談を交えながら、女男もとい布武崎の後に付いていった。

 どちらかというと布武崎の方から話しかけていたように思う。

 ところで、布武崎はどうにも有名な人物らしい。ここが閉鎖的な島であるという事実を差し引いても、知人が多すぎる。

 学校へ辿り着くまでに四肢の指の数を超越する人数と挨拶を交わしていた。

 挨拶を交わさない人達も布武崎を知っている様子だった。俺の価値観が間違っているのか、と疑いたくなる程だ。

「ほら、着いたぞ」

 布武崎が指し示した方向には巨大な塔が建っていた。上空から島を見た時にあったあの塔だろう。

 塔と隣接するようにして校舎らしき建物がある。俺の制服と同じものを着た子供がうじゃうじゃしている事から、あそこが学校だという事が分かる。

 大きな島とは言え、こんなに子供がいるものなのだろうかと思ったら子供ばかりがいるわけではないらしい。

 明らかに年齢層がバラバラなのだ。本来なら幼稚園に入っているべき年齢の子供から、どこぞで働いていないとニート扱いされてしまいそうな中年まで揃い踏みのようだ。まさに老若男女が選り取りみどり。

 それらが皆して同じ制服を着ているのだから奇妙この上ない。

 布武崎は職員室のある場所を大雑把に説明してから人混みにまぎれて行った。

 曰く、そのあたりに行けば職員室と書かれた札が見えるはずだという。

 さて、学校に来るなど何年ぶりかも覚えていない。知識はあるものの義務教育を終えたかどうか怪しい。

 終えていたとしても、そんな余計な記憶は忘却の彼方だ。

 冒頭で留学と言ったが、あれは学校関係ではなく、自主的な冒険の旅へ行っていたのである。もしかしたら最近の学校は老若男女関わりなく通う事が普通なのだろうか。

 学生らしき奴らが入っていく門へ何気ない風を装って入る。学生証のチェックは無いらしい。

 この場で妙に重い学生鞄をひっくり返す羽目にはならないようだ。

 おおよそ指示された場所を目指しながら廊下を曲がると、途端に人の数が減った。他の生徒は階段を上がっていく。教室はその方向にあるのか。

 少し歩くと職員室と書かれている札を見つけた。

 閉鎖的な島だから特殊な言語体系や文字を作り上げていても可笑しくないと思ったが、漢字、アルファベット、ハングルなど、複数の文字で書かれていて実に国際的だ。

 そう言えば店の看板には絵が多用されていたような気がする。

 さて、職員室には挨拶をしながら入った方がいいのだろうか。何と言えば良いのか分からないので扉を開けた。考えたとしても何一つ思いつかなかっただろう。

 中には職員室というからには先生だろう人物が居た。一人はスーツを着ていて、残りの一人は白色眩しいタンクトップが印象的だ。合計二人である。

「あなたが、転入生なのね?」

 スーツがこちらを向き、駆け寄ってきた。

「・・・・・・はい、そうです」

「えっとね、私は百瀬 百合子っていうの。君の担任なのよ」

 小柄だ。向こうの筋肉の塊ことタンクトップとはえらい違いだ。

 そんなに固くならなくて良いのに、と柔和な笑みを浮かべながら言う百瀬。

 やけに跳んだり跳ねたりしている。

 そのおかげで栗色の髪がはためいて小型犬に見えてしまうが錯覚に違いない。白色タンクトップの代わりに笑顔が眩しい女だ。

「大丈夫、ここに転入生なんて珍しくないのよ。特別な学校だし、それに日本語を使う生徒が私のクラスには多いから、そのおかげもあってかクラスの皆は日本語が達者なの。何も気負わなくて良いの、安心してね!」

 いずれこの女は踊りだすのかもしれない。そう思わせんばかりのはしゃぎ様だ。

 百瀬が、案内するから付いて来ると良いのです、と手を掴む。

 突然、先程までこちらに視線すら向けなかったタンクトップ野郎が近づいてきた。百瀬も驚いたように目を見開いている。

「おい貴様、『先生』への挨拶はどうした? 生徒のくせに」

 外見筋骨隆々、ボディビルダーのようだ。違う点は妙に青筋が立っている事と人間か怪しい異臭がする事くらいで、特にない。

 挨拶は前述通り、内容が思いつかなかったから仕方ない。やはり挨拶は必要だったようだ。だとしたら筋肉の発言も尤もだがその異臭をどうにかしろ。

 滴るそれは汗か? それとも新物質か?

「失礼しました。これからよろしくお願いします、百瀬先生」

 会釈をして百瀬に微笑を向ける。いや、微笑ではなく異臭に顔が引き攣っただけで、申し訳ない結果だった。

「あ、わ、えと、こちらこそよろしくなのです」

 なにやら慌てたようにして高速で頭を下げてきた。腹に頭が突き刺さる。

 手を繋がれたままでは避けにくい。

 寧ろ頭を下げる行為と同時に手が引かれ、頭突きの威力を増進させた。

 より一層慌てながら百瀬は謝罪の言葉を叫んだ。

 その様子を見てか、タンクトップが顔を痙攣させた。こめかみに浮かぶ青筋は、今にも限界を迎えそうだ。

「貴様! 俺への挨拶は無しか! ニヤニヤしよって!」

 名前も言わずに挨拶を要求とか、何処の偉い人だ。

「わわわ、筋本先生、もうすぐ授業が始まっちゃいますので!」

 タンクトップもとい筋本が無駄な筋肉を膨れ上がらせたように見えた。

 それを見て筋本の視界から逃れるように、百瀬は俺の手を握ったまま職員室を出た。筋本はあと一歩で完全にクリーチャーになっただろう。

 通常の状態で半ばクリーチャーだが。


 さて、あれから筋本が追いかけてくる事は無かった。そのおかげで俺と百瀬が何事も無く教室までたどり着いたと言える。

 学校の中で教師と一緒に行動していてトラブルに巻き込まれるなど、クリーチャーに遭遇するくらいしか思いつかない。

 教室の扉の前に立つと百瀬が明らかに安堵した表情で振り向いた。

「えっと、筋本先生も私と同じ教師で、体育とか運動するような科目を担当しているの。ちょっと教育熱心だけど良い先生なのよ」

 微笑みながらも『ちょっと』と『良い先生』に疑問符が付いていたような気がする。しかし気のせいだろう。

「新物質生成を予期するような臭気がありましたが、あれは何だったのですか、百瀬先生?」

 そう言ってみると百瀬が盛大にむせた。その後軽く怒ってきたが、どう控えめに見ても満面笑いに溢れ、怒る台詞の合間合間に笑い声が混ざってしまっている。

 疑問符は気のせいでは無かったと確信した。

 百瀬が咳払いをする。

「それじゃあ、私が先に入って君を呼ぶから、それまで待っていてほしいの」

 真面目な顔をしてそう言い残し、教室へと入っていった。

 転入生を迎える為の演出はもしかして万国共通だったりするのだろうか。

 とりあえず偶然クリーチャーが歩いてくるとか、そういった不幸な状況にならないように祈った。

 それにしても階段を上がってからはひらがなや漢字が目立つ。ハングルや英語にあたる言葉は日本語に比べて小さく書かれている。教室から聞こえる号令や話も全て日本語である。

 などと見ていると、教室の中からお呼びがかかった。

 教室の扉を開けて侵入する。見たところ年齢に幅があるものの、基本的に高校生くらいの年齢の人間が多かった。

 それはすなわち、俺と同年代くらい、という事だ。

 見知った顔は居らず、男女比はほぼ1:1。もしかすると俺と同じクラスだった人間がいるかも知れないが、俺が憶えていないので初対面のようなものだ。

 そうそう俺の事を憶えている奴もいないだろう。

 名前と趣味を言う。趣味は無難に読書とでもしておいた。文献も本の内、つまりそれを読む行為は読書の内だろう。

 ただし趣味という訳ではないのだが。

「よろしくお願いします」

 そう締めくくると百瀬が空いている席を指し示した。教室一番端の窓際という最高の位置であった。

 何にしろ寝るけれど。

 百瀬が朝の連絡を終えて教室を立ち去ると、隣にいる人物が話しかけてきた。

「やほー、私もここに転入してきたんだよ」

 極めて軽い調子で、たぶんおんなじ境遇だよねー、と言っている。

 なんというか、噂好き女子を体現していそうな見た目をしている。

「私の名前は反田 紅音。あ、君の名前はさっき聞いたから改めて言ってくれなくても大丈夫だよ。これからよろしくね」

 反田の流れるような自己紹介を皮切りにしたのか、俺の周りに人が集まってくる。寝れねえ。

 質問や自己紹介に適当に応じながら、ふと、視線を感じた。視線なんぞ至近距離から痛いほどぶつかって来るが、それとは違う。

 目をやると短髪の、またもや女子がいた。なにやら眉間にしわをよせてこちらを注視している。腹でも痛いのだろうか。

 質問がだいたい収束しだした頃、教師が入ってきた。クリーチャー筋本かと思ったが、幸いと違う教師だった。

 担当者の号令で授業が始まる。俺は寝る体勢に入った。



 どれぐらい経過したのか、それは俺にはわからない事だった。

 日の傾きがずいぶん変化していることから午前中は終ったのだろう。

 それだけの惰眠を貪っても未だに払拭できない睡魔にK.Oされそうになりつつも横の席を見た。

 先ほどから俺の腕をつつきながら誰かが―――おそらく反田だろうが、「おーい」と声をかけてきていた。

 最初は安眠妨害を不問として夢の一時停止を解除しようとしたのだが、どうやら徐々に声音が大きくなってきている。

 このまままでは安眠妨害どころか鼓膜の生存が危ぶまれるので致し方なく今に至る。

「何だこのやろう」―――と言いかけたところで暴言を吐くのはどうだろう。

 学校で嫌がらせを受けるかもしれない、と学校初心者ぶりの心配をしてみせ、「何だ、反田さん」と何とか台詞の軌道修正を行った。

「午後の授業いっぱい実技授業だからお昼食べたほうが良いと思ってね」

 辺りを見ると弁当を広げるものや、異常に転校生が出ていない限りは食堂にでも行ったのか席が多数空いていた。

「ふぅん。そっか」

 俺の腹の虫も「そろそろワシの家の収納スペースを有効活用したらどうだ?」と仰っているので従うことにしよう。

「昼はどこで入手するんだ?」

 と聞いてみると反田はどういう訳か「あちゃー」と言いつつ大仰なしぐさをして見せた。

「お昼は弁当組と購買組と食堂組の三種があるんだけどこの時間帯だと持参の弁当以外は絶望的だね。……私のお弁当少し分けようか?」

 と別段反田に非はある訳でもないのだが済まなさそうに上目遣いをとってみせた。

「いやいや、大丈夫だ」

 確かこの前購入した備蓄が残っていたはず。

 少量だが午後の授業を耐え切ることができる程度の量は残っていたはずだ。

 足りなければ兄から奪えば事足りるだろう。

 俺は備蓄を取り出す―――そうとして、そういや、能力ってバレて良いんだろうかと思い、よくわからないので鞄の中から取り出している様に見えるよう動作を付け加えて取り出した。

「肉の固まりとはこれまたワイルドですな」

 備蓄これしかなかったからな!

 本当はもう少しあっさりしたもの食べたいけれど午後に満腹度0%になって保健室に運び込まれる事は間違いなく回避できるだろう。

 不満度も不好評につき上昇するだろうが。

「ねえ、この島から脱走した人が過去に居るって知ってる?」

 沈黙を保ちつつ肉に齧り付いていると勝手に俺の机を半分占領した反田がそう切り出してきた。

 その内容は知っているも何も俺本人の事であったのだが、結構前のことにも関わらず今でも伝わっていることから名乗り出ることは芳しくないのは明白だ。

「いや、しらね」という雰囲気を醸した肉の齧り付き方をしてみせると反田は得心したのか口を動かし始めた。

 いや、勿論食事のほうにも動かしてはいるが、それを飲み込み、次を放り込むまでの間隔を空け、その猶予に語り始めたのだよ。

 もし、口の中をいっぱいにしつつくっちゃべってくるなら、殴り飛ばすか後で留守になっている前の机を俺の元へと練成する。無論、対価として少し汚れた俺の机は置いていく。

 なんて考え虚しく、虚しくて幸いなのだが、話は始まった。

 俺は話半分、いや、寧ろ知り尽くしていることなので話一割程度で聞いていたが。

「十年ぐらい前らしいんだけどね。当時、ピカピカの一年生だった4歳の子がどうやさぐれたのか入学三日目にして抜け出しちゃったんだって」

 悪かったな。入学三日でやさぐれて―――いや、確か二日だったぞ。

 やっぱり月日が経過しているから噂の様なおぼろげな話は背びれ尾びれついたり湾曲しちゃってるんだな。

 まあ、好都合っちゃ好都合なので歓迎するけれど。

「その頃は今みたいにあの布武崎さんみたいな警備員は居なかったとは言ってもここは完全に孤島でしょ? だからそれから色々な学生が抜け道が無いか捜索を繰り返したんだけど見つからなかったんだって」

 そのお陰で布武崎が警備員になって更に難しくなっちゃったんだけど、と苦笑いする。

 ああ、確か布武崎は兄と同い年だからひとつ上か。

 まあ、確かに小学二年に警備員なんてモンはやらせるべきじゃないよな。

「あ! 当時4歳って事は私達と同い年ぐらいじゃない? 今は島の外で何やってるのかなぁ」

 と反田は明後日の方向を見つめて自分の世界に入り込んでしまった。

 俺としては興味が無いどころか悲しい現実を考えると更に悲しくなってしまうという自然発生する悪循環でしかない現実という現在が露呈してしまうのでこのまま話が終ってくれるか変わってくれるのが望ましく幸いだな、と感じつつ肉に齧り付いた。

「っは! 4歳で島の外に出ようなんて考える馬鹿野郎は今頃どころか大昔に野たれ死んでるだろうよ!」

 声の方向、概ね俺から黒板に向かって1時30分の方向にオールバックで銀の髪の少年が居た。

 確かに若気の至りで、抜け出していなかったら間違いなく今より自分は強くなっていただろうと理解もしていたが、知らない阿呆に罵られるとは面白くなかった。

 殴り飛ばしてやろうかと思ったが、周囲を見ると、この阿呆のせいで若干注目を浴びているので自粛する事にした。

 美少女なら特にストレスを溜めて若年性の禿か、中年頃に発生するかもしれない禿げに悩むことも無かったのに。

 こいつなんで産まれてんだ?

 そう、そんなだから苛ついていたのだ。

「そ、そんな事無いって!」と特に根拠も無く説得力も無い反論をして見せていたが俺が上から被せる様に口を動かしてしまったのは不可抗力だ。

 そうに違いない。

「それはお前の尺度だろ。今現在でもわからない方法を発見し実行し成功させた。少なくとも学園長は当時も学園長だったんだからその監視を潜り抜けたんだろう。なら、お前が外に出た場合とは違って生きてるかもな。案外、近くにいるかもしれんぞ?」

 まあ、目の前にいるんだが。

 俺が名乗り出たら早いんだろうが、名乗り出ても再現してみない限りは信じて貰えないだろうし、その愚考から笑いものにされるだけだろう。俺は笑いものにされて喜ぶ変態じゃあない。

「キ、貴様、この俺様を誰だと思ってる! そんな口を利いてもいいと思ってるのか!」

 俺の増援を予想していなかったのか、数瞬呆けた後に顔を真っ赤にして叫びだした、

「転校生だからと俺様が心配してグループに誘ってやろうと思ったが失礼な愚か者だったみたいだな!」

 そうやられる悪役よろしく捨て台詞を吐いてドンドンと擬音が聞こえそうな様子でどこかへ行ってしまった。

「ねえ、もしかして彼があのグラッタリン家の次期当主ファウゼン・グラッタリンだって知らなかった?」

 あり得ないだろうけれど、と言われそうだったので先手を打って「知らねえ。それどころかグラッタリンも知らねえな。

 ホワイトソースとマカロニの料理か?」と言って見せると大きく目を見開いていた。

「グラッタリンを知らないって……。グラッタリンには逆らうなって産まれたばかりの赤ん坊に聞いても言いそうなぐらい常識だよ」

 ほうほう。やべえな俺、いや全然やばいなんて本当は思ってないけれどね。

「でもお前もそのグラタンに反論してたじゃん」

 まあ、反論って言えるもんじゃなかったがな。

「……私は、能力が弱いから元々扱いは良くなかったからね。だからやりたい様にやっちゃおうかなーって」

 浮かべる笑顔が形だけなのは手に取るようにわかったが、俺は相槌を打って肉に噛り付く事を再開した。

 ……そういや、グラタンが言ってたグループって何だ?

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