Chapter 32 午後の雑談①
長かった始業式が終わった。
(暑いし早く帰りたいな)
清掃当番に当たらなかった僕は、だらだらとした足取りで校舎を出た。
久しぶりの学校ということもあってか、非常にだるい足取り。暑さも加わり、さらに重さがかかっているように感じる。それ以外にも、この異様な倦怠感の要因はあるのだが。
「帰りたい」
そうつぶやいたあとに、大きなため息をついた。一歩歩くだけでもものすごくエネルギーを使う。
「もう嫌だ」
大きなため息をもう一つついて校門を出ようとしたときに、
「誠じゃんか」
九条に声をかけられた。隣には葛城さんもいる。
「東条くん、久しぶり」
笑顔で手を振る葛城さん。
「久しぶり」
僕はそう言って、手を振り返す。
「今から歩いてマック行くんだけど、よかったら誠も一緒に行かないか?」
「今日はそんな気分じゃないから辞めとく。あと、今回はちゃんと親に言ってるの?」
僕は断った。
「えー、せっかくみんな揃ったのに。行こうよ。どうせ暇なんでしょ? 帰っても」
「まあ、そうだけど。でも、今日はそんな気分じゃないって言うか」
「だろうと思った。あと、心配するな。今日は早上がりだから、昼飯の駄賃はもらってるんだ。それに、勉強する、って言ってあるから、心配しなくていいぞ」
頼もしそうな口調で、九条は言った。
「せっかくみんな揃ってるんだし、行きましょうよ。明もそう言ってることだし。それに、嫌なことがあったときは、溜め込むよりも吐き出した方がいいよ」
そう言って葛城さんは、眩しい笑みを僕に向けて言った。
正直僕は帰りたい。暑いしだるいし。でも、葛城さんには、九条との仲立ちをしてもらった借りがある。だから、逆らおうにも逆らえない。この神々しい笑みで言われたらなおさら。でも、何としても帰りたい。この暑さの中ずっといたら、溶けてしまいそうになる。
苦し紛れに僕は、
「そ、そうだよね。溜め込むのはよくない」
と返した。彼女の意見に賛同しただけで、昼食の誘いには載っていない。
「じゃあ、行くしかないな」
肩を叩いて、無理やり同行させようとする九条。
「九条、僕は葛城さんの──」
溜め込むよりも吐き出した方がいいよ、という言葉に同調しただけと僕が言おうしたときに、
「えー、東条くんひどい。せっかくみんな揃ったのに」
恨めしそうな口調で葛城さんは言った。
「せっかく帰ろうと思ったのに」
九条と葛城さんがかけてくる感情の圧力のせいで、断りづらくなってしまった。仕方ない。
またため息を1つついて、
「行くよ、行けばいいんでしょ」
と面倒そうに言った。
「それじゃあ、出発!」
勢いある九条の号令とともに、僕たちは歩き始めた。
僕と九条、葛城さんの3人は、駅と商店街との間にあるマックまで歩いた。
湿っぽさと熱、そしてまぶしさを伴った日射しが、忙しない街の中を照らす。終わろうとしている夏からしてみれば、これが最後の抵抗なのだろう。これから来ようとしている秋への。
注文を済ませ、二階にあるイートインへと向かった。
カラフルでホップな内装の空間の中では、ワイシャツ姿の高校生が、お昼ごはんを食べながら楽しそうに会話している。静かにしているのは、スーツ姿で、ノートPCとにらめっこをしている会社員ぐらいだろうか。
「ふぅ……。涼しい」
数十分ぶりにエアコンの風を受けて、生き返った心地になる僕。いくら晩夏だとはいえ、外なんて出てられるものではない。
「青葉、そっちのクラス出し物何やるんだ?」
不快な咀嚼音を出しながら、九条は聞いてきた。
「わたしのクラスはお化け屋敷かな」
「いいなぁ……。おれなんて『たい焼き屋』提案したけど、0票だったんだぜ」
「あら、そう」
「さっきからしけた面してるな、誠、文化祭実行委員になったこと、よっぽど嫌だったんだな」
「うん」
先ほどから元気のなかった理由。暑さや久々の学校というのもあるけれど、一番の理由は、文化祭実行委員に任命されたことだ。




