Chapter 33 午後の雑談②
僕が文化祭実行委員の仕事を押し付けられた経緯はこうだ。
宿題の提出などが終わったあと、担任の先生が、11月にある文化祭の出し物についての話題を出してきた。
出し物を決める話し合いでは、クラスの男子の中心的存在今村はお化け屋敷、今村の仲良しで僕と同じ小中の同級生浩太は演劇という案を出した。女子の方は、佐野さんがタピオカ屋さん、山内さんがクレープ屋さんといった感じだった。
学級委員長の沢村が聞き、副委員長の紺野さんが出てきた案を書いてゆく。
そして最後に九条がどや顔で、
「たい焼き屋さん。今たい焼きが食べたいから!」
と教室中に響き渡る声で答え、僕の方を向いてウィンクを飛ばした。
きょとんとするクラスメート一同。その中には僕も含まれている。
苦々しい表情で担任の先生は注意する。
「九条くん、あまり大きな声を出さないでくれるかな。他のクラスにも聞こえるから迷惑なんだけど」
「えぇ……」
先ほどまでの妙な強気はどこへやら。九条は沈みゆく船のように、徐々に机の上に沈んでゆく。
「さっき出した案を元に、出し物を決めていきます」
学級委員長の沢村は、黒板に書かれた案を読み上げてゆく。
アンケートの結果は、お化け屋敷が8票、演劇が1票、タピオカ屋さんが11票、クレープ屋さんが10票、九条が提案したたい焼き屋さんは0票で、タピオカ屋さんに決まった。やはり文化祭の定番である食べ物・飲み物系は強い。僕はお化け屋敷に入れた。食べ物系も悪くないけど、みんなで何かを作ってやってみるというのも悪くはないなと思ったからだ。
「なんでたい焼き屋は0票なんだ……」
そうつぶやいて、九条は机の下から床下に倒れた。見事な爆沈、と言いたいところだが、頭部にぶつからないように落ちたため、かなり芝居臭さを感じてしまう。
紺野さんが黒板を消し終えたあと、男女に別れて文化祭実行委員を選ぶことになった。
「やりたいやついる?」
シャーペンを持ちながら、沢村は聞いてきた。
九条が手を上げた。
「はい!」
「おう、明やるのか?」
茶色い髪を額の真ん中で分け、白い卵型の顔に笑みを浮かべながら、今村は聞いた。
首を横に振った九条は僕の方へ近づき、僕の腕を持ち上げて、
「誠くんがやってくれるそうです!」
と言った。
「確かに東条はまじめだしな」
白ぶち眼鏡のブリッジを上げて、柳原は九条の案に賛成する。
「ちょっと待って、それはあまりにも勝手すぎはしないかな?」
あまりに突然のことに、僕は抗議した。
「ごめん、誠、勝手に決めちゃって」
手を合わせながら謝る今村。
困り顔の沢村は、
「確かに押し付けは良くないな。だから、じゃんけんで決めようか。といっても、この14人でじゃんけんをしても時間の無駄だから隣同士でやって、負けたら負けた人、また負けたらまた負けた人同士でやろうか。そして最後に負け残った人がやるみたいな感じで」
と提案した。
「それはいい。輝はどうなんだ?」
柳原は今村の方を向いて聞いてきた。
「いいね! じゃあ、やろっか」
男子同士のじゃんけん大会が始まった。1回戦は沢村、柳原ら7人が勝ったので退場。2回戦では浅野をはじめとした4人が勝ったので抜けた感じだ。
「おいなんで俺が負けなきゃならないんだよ!」
悔しさを前面に出して僕の方を見る九条。
「明、これは俺たちが東条に実行委員の仕事を押し付けた罰が当たったんだ。因果応報だよ」
同じく悔しそうに言う今村。僕の言いたいことを代弁してくれて、非常に助かる。
「じゃあ、始めようか」
最後のじゃんけんが始まった。
結果、九条と今村がチョキ、僕がパーを出して、実行委員の仕事は僕に決まってしまった。
「こうなる運命だったんだよ、東条」
僕の右肩を叩いて、柳原は言った。
「そうだぞ、誠くん」
柳原の真似をするかのように、僕の背中を思いっきり叩く九条。
「それじゃあ、よろしくな、誠」
笑顔で今村は声をかけ、自分の席へと戻っていった。
「はぁ……。嫌だな」
みんなが席へ戻りはじめたとき、大きなため息を僕はついた。
正直僕は、こんな面倒なことはやりたくない。だけど、誰かがやらなければ成り立たない。よく小説やドラマで描かれる、「私情と公」との間で葛藤しているキャラクターの気持ちがよくわかる。
実行委員の任命とそれによるストレスという重荷を背負いながら、僕は自分の席へと戻っていった。




