Chapter 31 二学期の始まり
残暑がまだまだ厳しい8月の終わり。制服に着替えた僕は、自転車に乗って登校していた。早く起きたので、武蔵浦和から行こうと思い立ったからだ。
汗ばんだYシャツと体に当たる風が、爽やかで気持ちがいい。そろそろ夏も終わりか。
そう思いながら、自宅のある住宅街の小路から、大通りへと自転車を走らせた。
国道17号線と交わる交差点で信号待ちをしているときに、
(九条は元気にしてるだろうか……)
ふと九条のことが頭に浮かんだ。
九条の涙を見たあの日から、僕は会っていない。
彼からの連絡が全くないということもあるが、また誘おうとすると、前みたいに九条が無理して来ることが考えられるからだ。
本心では、九条ともっと遊びたいし、話したい。だけど、前みたいなことがあったら、さすがに母親が黙ってないだろう。あの口調からして、かなり気が強そうだったから、怒られたらたまったものではない。
「はぁ、どうすればいいんだ……」
大きなため息をついたとき、信号が青になったので、僕はゆっくりとペダルを漕いで渡った。
教室に入った僕は、自分の席にカバンをかけた。
周りのクラスメートたちは、夏休みの土産話、そして部活や補習の愚痴で盛り上がっている。
僕は九条を探した。
いつものように、九条は机に突っ伏して気持ちよさそうに眠っている。だが、普段の伏せ方とは違い、腕を枕にして臥せっている。それに、雨が降った日に道路にできる、小さな水たまりほどの大きさのヨダレを垂らしながら、気持ちよさそうに眠っている。なんだか危険な気がする。
爆睡する九条の身体を、僕は大きくゆすった。
目を覚ました九条は、叫んだあと、とぼけたような顔と口調で、
「ここはどこ? 私は誰?」
と聞いてきた。
突然九条が出した奇声に驚くクラスメートたち。声をかけた僕が恥ずかしい。
「ここは都立十条高校、そしてお前は1年3組九条明な」
耳元で語りかけるくらいの小さな声で、どこで誰なのかを教えると、九条は、はっとした表情になり。、
「君は愛しの誠くんではないか!」
と言って僕に抱き着いてきた。さっきよりも恥ずかしいから、正直辞めて欲しい。
「ちょ、お前辞めろよ!」
「だって、久しぶりなんだもん」
「ひさしぶりの再会は俺もうれしいよ。だけど、その前にお前夏休み中どうしてたんだよ。連絡もつかなかったから、心配してたんだぞ」
夏休み中に考えていたことを、僕は話した。
ポケットからティッシュを取り出し、ヨダレを拭きながら九条は暗い表情で語りはじめる。
「それはまあ、留置所に監禁されてたからな」
「って、一体お前何やったんだよ⁉」
「全裸で外を歩いてたら通報されて……。流れで捕まった感じかな」
「それは流れでも捕まるよ!」
「なんてね。嘘だよ!」
からかうような口調で、九条は言った。
「こっちは本気で──」
心配してたんだぞ! と僕が言おうとしたときに、
「みんな、席に着け。出席取るぞ」
先生が入ってきたので、席に着いた。
夏休みの間、連絡がつかなくてとても心配だったけど、あの様子を見る限りでは元気そうだったので、僕はホッとした。




