夏の思い出Ⅳ
夫婦おしどりばかりが目白押し(別にシャレではない)そんなこの世界。僕は教訓と学びを得た。
店に入るのは色々気まずい。
食事や水分補給は店に留まらず。
コンビニなど迅速に利用すべし。
「ごめんね~この暑さでしょ?かき氷全部売れちゃって…氷売りが氷切れだよ~」
一休みしようと立ち寄った、公園の出店のおじさんは、すまなそうに頭を掻いた。
「ああ、じゃソフトでいいです」
「ソフト2つね!はいよ!ありがとうね~」
「1つ」
「嫁は?」
「嫁の分だけでいいです!」
僕も少しは学習した。
「はい!二人でひとつなんて、新婚さんだね!もう熱々でソフトが溶けちゃうよね!」
そう言って、おじさんは僕にソフトを1つ手渡した。
「明日から氷増やさないと」
「おじさん」
僕は、スマホ端末の待ち受け画面をおじさんに見せて言った。
「僕の嫁です」
液晶の画面を覗き込んだおじさん。
たちまち大爆笑した。
「お兄さん!冗談上手いね~それ、ぎりぎりだよ!でも罰当たり呼ばわりされるから、他の人に見せちゃ駄目だよ~」
僕は頷いて端末をポケットにしまった。
「今は僕一人なんですけどね」
店の中に飾られた、フォトスタンドに収まる。仲睦まじい夫婦の写真。
「美人でしょ!?うちの奥さん」
「はい。ほどよく熟れた感じと、ツヤツヤが素敵です!」
幸せそうに頬笑む夫婦の写真。見ているだけで気持ちが温かくなる。
「だからね~君も全然大丈夫!!OKだよ~!!必ず出会えるからね!!!」
おじさんは、ソフトをもう1つオマケしてくれると言った。
「今は1つで充分です」
僕は、おじさんに礼を言ってから、少し離れた公園のベンチに腰掛けた。
容赦ない日差しに溶ける前にと、
僕は無造作ソフトを口に運ぶ。
ふと視線を感じ顔を上げる。
チワワみたいな目をした男の子。
じっと僕を見つめている。
僕じゃなくて、僕が持ってるソフトクリームを涙目で見つめている。
見てすぐ園児と分かる。薄い青色の半袖の上着に、茶色い半ズボン。黄色い帽子からは、夏向けに短く刈り込んだ髪の毛が覗いていた。
それはともかく…僕のアイスを見る目がどんどんうるうる大きくなる。
「お母さんは?」
うるうるうる。
アイスしか見てない。
うるうるうるうる。
妖怪アイスほしい。
「アイス食べたいの?でも、お母さんに黙っては…ダメだよね」
うるうるうるうるうるうる。
やばい、もう泣く寸前だぞ。
ここで泣かれたら不審者。
通報されたら発覚独身者。
ただでさえ危うい立場が。
僕は根負けした。微笑んでアイスをその子の前に差し出す。
「お母さんに内緒だぞ!」
こ-ゆ-のって本当は駄目って言うか、分かってるんだけどね。
アイスを求めるひたむきさというか、ピュアな瞳が嫁を求め歩く、今の自分と妙にシンクロしてしまう。
男同士ってやつだ!
食べてくれ同士!
男の子は、アイスを受け取ろうと、両手を広げた。輝く笑顔に変わる。
「吾郎ちゃんダメよ!」
突然1人の女性が目の前を遮る。
「あ、お母さんですか?すいません…僕余計な事をして!」
恐縮して僕は立ち上がる。
頭に葉っぱを沢山のせた女性。
「こちらこそです」
すまなそうに頭を下げる。
「こちらこそ、ごめんなさい!この子アイスアイスって食べ過ぎなの…さっきも、お店の前で駄々こねるものだから『置いてきますよ』と言って、そこの草むらか様子を伺ってましたの!」
お行儀の躾の途中だったらしい。
「それは申し訳ない事をしました」
「いいんですよ」
男の子の母親とおぼしき女性。
鈴を鳴らすような声で笑った。
「それよりもアイス…溶けちゃいましたね」
「あ…ああ」
「それ私が頂きます」
屈んで…僕の手からコ-ンを受け取る。白いブラウスの隙間から、ふくよかな胸の谷間が覗いた。
首元の真珠のネックレスも、左手の薬指にはめたマリッジリングも、上品な顔立ちの女性を引き立てていた。こういう落ち着いた年上の女性も、いいなあ。実にいい!
僕から受け取った、溶けかけのアイスを舌先でペロリと舐めて「美味しい!」子供みたいな笑顔で笑う。
「素敵なネックレスですね」
「養殖の淡水パールですよ」
仄かに香水の香りがする。レ-スのハンカチを手渡され。僕は1人ベンチで親子を待つ。
「どうぞ」
新しく買ったソフトクリーム。
彼女の手から差し出された。
「あ、ありがとうございます!」
男の子の手にもソフトクリーム。
「吾郎ちゃん良かったわね…優しいお兄さんに会えて、でも、これからは知らない人から食べ物もらっちゃダメよ!」
吾郎君という名前のなんだね。
アイスで顔がべちゃべちゃだ。
お母さんの言葉にうなずいた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「約束よ」
僕は彼女に礼を言って。
吾郎君の頭を撫でた。
「可愛いお子さんですね」
彼女は首を振ると言った。
「夫です」
「早く大きくなってね吾郎ちゃん」
夫の手を引いて公園を後にした。
「すぐに指輪なくすから」
「させられないんですよ」
僕はベンチに腰掛け。
雲1つない色を眺めて思う。
空は何も答えてはくれなかった。
もし僕に嫁が見つからず。
送られる先はもしかしたら。
空の上の荒涼とした惑星。
惑星がいいな。
そこで僕は出会うんだ。
遠い昔嫁に恵まれず。
流刑の憂き目に合った男達。
同胞スペース・ロンリ-ズ。
地球にて惰眠を貪る!
色ボケした人類に今こそ鉄槌を!
孤独の重さとは!
このコロニ-の重さ!!
人類よ知るがいい!!!
コロニ-を地球に落としてやる。
泣け!喚け!そして絶望しろ!
アイスみたいにこの世界!!
溶けてなくなっちまえ!!!
ハンカチ返すの忘れた。
淑女の香り。成熟した大人の女性の胸の谷間。僕はただ目を閉じて。
ハンカチをそっと鼻先に近づける。むせる香りにふがふが鼻息が漏れる。これくらい許されるはず。
だってハンカチもらったし!
「アイスが溶けちゃうんだよお」
目を開けると…
目の前に円乗羽女の顔があった。
鼻が唇が触れるくらい近い!
近いってば!




