大団円
高砂祭と白鷺武踏会は終わり。
その喧騒もやがては遠ざかり。
季節は秋を迎えた。
この街もこの世界も、未だ滅亡の時を迎えず。今もここにある。
変わった事と言えば、コンビニの棚にチョコの数が増えた事や。そろそろおでんが売られ始めた事くらい。
「もうそんな時期か」
体感気温以外そんな風に思う程度。今も世の中は変わりなく動いてる。
あの日、沿岸警備隊の到着を待つ間。僕たちは、白鷺達によっていち早く救出され、付近の埠頭へと運ばれた。
そんな僕らの映像は、寡婦のテレビカメラにより、国中に中継されていた。そのためか、思ったより警察や、救急車両の到着は早かった。
それよりも、埠頭で僕達を待ち受けていたのは…テレビや新聞や、雑誌のマイクやカメラを抱えた人たち。
大勢の報道人達であった。
生きてるのが不思議な、奇跡の体現者である僕は、シ-トに寝かされ、容易に起き上がる事が出来ない。
そんな有様だった。
高砂神社の関係者は、僕と円乗さんの周囲にテントのような幕を張り、報道人から遠ざけようとした。
「よい、今日は空が青い」
「空を眺めたい」
円乗さんの一言で、幕は張られる事はなく。代わりに、白鷺の円陣の中に僕達は囲われた。
白鷺たちは、手に弓や剣を持って武装していたので、ちゃちな覆いよりかは余程堅牢だ。
確かにその日は彼女が言う通り。
今年一番のよく晴れ日だった。
祭日和の夏空がそこにあった。
先程までの戦いが嘘のようだ。それにしても、円乗さんの不死身ぶりには恐れ入る。さすが、あの巫女たちを束ねる祭主だけの事はある。
僕は自分の傍らに横たわる。
彼女の横顔を眺めていた。
「見世物ではないぞ。何をじろじろ見るか。こう見えてうら若き乙女…手弱女だ!」
「手弱女か」
僕の喉から変な空気が漏れる。
「笑い過ぎると体に響くぞ!」
「この無礼者が!」
「今、何を考えている?」
「瞿麦と相生弟…裕君の事だ。二人には気の毒な事をした。姉様は裁かれねばなるまい」
そう言って円乗さんは起き上がる。
あまりに突然現れて、あまりに呆気無く消えてしまった。
今もあの二人が死んだなんて。
僕にはとても信じられない。
「責任は私にもある」
「大丈夫か!?無理するなよ!」
彼女は軽く首を振って応える。
ついと空気を切り裂くように。見たこともない、金色の美しい小鳥が、目の前を横切る。今は彼女の肩にとまり。静かに羽を休めている。
彼女は微笑んで。
掌で小鳥を包む。
彼女が掌を広げると。
小鳥の姿はなかった。
「心配するには及ばない」
円乗さんは僕に向かって頷いた。
「あれは、私の妹だからな」
埠頭には微塵で繋がれたまま、記者達に囲まれ、インタビューに応じる散華の姿があった。
最初は、大犯罪者の一声や姿を、カメラに納めようと集まった報道人。
すっかり彼女に魅せられた様子で、
メモを片手に話に聞き入る。
「ああ…!あの八咫烏の兵器か?あれは、アストラル帯という霊素を生体エネルギーとして…あの世や、黄泉を渡る。元々八咫烏は、黄泉渡の舟。その、アストラル帯を量子変換した後、一端八基の鏡に集積増幅し…武器として放つ!謂わば次元転移砲…いやいや…アストラルバスターと書き直してくれ!」
「姉様」
「アストラル・ブラスタ-」
テレビカメラを鷲掴みにして。
散華は全国民に向けて叫んだ。
「ユ ートピアン・ブラスター!」
「こっちの方がよいか?」
「姉様!!」
「なんだ?お前羽女とか言ったな、お前の顔はしばらく見たくない。あっちへ行って!自分の男と、好きなだけせいぜいチチクリ合うがよい」
散華の言葉に報道人がざわめく。
実の姉によって、みんなの祭主様、神嫁の初スキャンダルが暴露。
円乗さんは動じることなく。
カメラに笑顔で応えている。
「なんだ?否定せんのかあ」
「私たちの事はよいのです!それよりこれを…」
円乗さんは、彼女の後ろに付き添う薫さんから、巻き物を受け取る。
それを散華の鼻先につき出す。
「お読み下さい!」
生野菜を差し出された犬みたいに、散華はぷいぷいと横を向く。
「そんなもの…物漢字ばかりで面白くない!」
「お読み下さい」
「い・や・だ」
なんだかバカ殿様に見えて来た。
円乗さんはしつこく食い下がる。
散華は近くの寡婦に目配せする。
【只今】
恭しく巻物を広げる。
「煙草」
【気がつきませんで】
「姉様、縁起書に灰が!」
世界創成の書だとか。
「灰皿」
【只今】
もしかして寡婦達を虐げてるのは、むしろこの人なんじゃないか。
「み、皆さん姉様は生まれついての女王体質ゆえに…皆さんにご迷惑おかけしてませんか?」
カンペをプラカードみたいに抱えた寡婦達が。羽女の元に殺到する。
やっぱり。
「皆さんには…私どもの手違いで、島から出られなくなった事…深くお詫び致します」
寡婦たちに深々と頭を下げた。
「それから…皆さんスケッチブックに文字を書かなくても、もうちゃんと喋れます。声出ますから!」
【こうでもしないと】
【私たちは】
【ただのモブ】
【だからこれでいい】
「なるほど…そうであったか」
巻物に目を通通す散華。
怒りも悪巫山戯もない。
「では…あの人は神社の思惑で、神の生け贄となった訳ではないのだな…」
「最初からそう言ってます」
そうだそうだ。とにかく思い込みがやたら激しい。姉妹の血筋なのか。
そんなこと口にしたら。
生贄にされそうだから。
僕は黙って頷くばかり。
「来るべき時が来れば。人は何れ旅立ちます。しかし姉様が言うように、私が祭主となった事で、予期せぬ改變が起こり、白鷺武踏会がシステム化してしまった」
「良い人はすぐに逝ってしまう。私や、特にお前のように?性根の悪い人間ばかりが残るという事か…そう考えれば合点が行く!」
性根が腐った人で合点が行く。
「大切な連れ合いを…突然失った姉様が…私や、神社に疑惑や怨みを抱くのは仕方ない事…しかしその縁起書は、祭主が最初に読むマニュアルのようなものですから」
「最初に読んでおれば…申し訳ない」
「私達は、瞿麦と裕君、前途ある二人の若者の、尊い命を散らしてしまいました」
円乗さんの悔恨の言葉は重い。
妹の力を信じると言ったけど。
あの攻撃をまともに受けては。
無傷や無事で済むわけがない…
「ああ、それなら大丈夫」
「大丈夫って!?」
「次元転移砲と…先程マスゴミ共に説明したではないか!あれらは元来た場所に吹き飛ばしただけだ。上手く帰れたかどうかはまあ知らんが…何処に着いても二人だ!」
「姉様に罪を科す事は私には…」
円乗さんの声には、幾分安堵の響きがあった。姉妹だからな、当然だ。
【散華様!!】
「なんだ?」
【成層圏上に待機させたカフカ島が!?地球に落下しています!】
【大気圏に突入しました】
「しまった忘れてた」
それ忘れていいこと?
「姉様?」
「切り札…回収するの忘れてた!」
島を落とすつもりだったのか?
その巻物読んでなかったら。
この地球に!?
て言うか…もう落ちて来る!?
全然幕切れ…大団円になってねえ!




