↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/42

大団円


高砂祭と白鷺武踏会は終わり。

その喧騒もやがては遠ざかり。


季節は秋を迎えた。


この街もこの世界も、未だ滅亡の時を迎えず。今もここにある。


変わった事と言えば、コンビニの棚にチョコの数が増えた事や。そろそろおでんが売られ始めた事くらい。


「もうそんな時期か」


体感気温以外そんな風に思う程度。今も世の中は変わりなく動いてる。


あの日、沿岸警備隊の到着を待つ間。僕たちは、白鷺達によっていち早く救出され、付近の埠頭へと運ばれた。


そんな僕らの映像は、寡婦のテレビカメラにより、国中に中継されていた。そのためか、思ったより警察や、救急車両の到着は早かった。


それよりも、埠頭で僕達を待ち受けていたのは…テレビや新聞や、雑誌のマイクやカメラを抱えた人たち。


大勢の報道人達であった。


生きてるのが不思議な、奇跡の体現者である僕は、シ-トに寝かされ、容易に起き上がる事が出来ない。


そんな有様だった。


高砂神社の関係者は、僕と円乗さんの周囲にテントのような幕を張り、報道人から遠ざけようとした。


「よい、今日は空が青い」


「空を眺めたい」


円乗さんの一言で、幕は張られる事はなく。代わりに、白鷺の円陣の中に僕達は囲われた。


白鷺たちは、手に弓や剣を持って武装していたので、ちゃちな覆いよりかは余程堅牢だ。


確かにその日は彼女が言う通り。

今年一番のよく晴れ日だった。


祭日和の夏空がそこにあった。


先程までの戦いが嘘のようだ。それにしても、円乗さんの不死身ぶりには恐れ入る。さすが、あの巫女たちを束ねる祭主だけの事はある。


僕は自分の傍らに横たわる。

彼女の横顔を眺めていた。


「見世物ではないぞ。何をじろじろ見るか。こう見えてうら若き乙女…手弱女だ!」


「手弱女か」


僕の喉から変な空気が漏れる。


「笑い過ぎると体に響くぞ!」

「この無礼者が!」


「今、何を考えている?」


「瞿麦と相生弟…裕君の事だ。二人には気の毒な事をした。姉様は裁かれねばなるまい」


そう言って円乗さんは起き上がる。


あまりに突然現れて、あまりに呆気無く消えてしまった。


今もあの二人が死んだなんて。

僕にはとても信じられない。


「責任は私にもある」


「大丈夫か!?無理するなよ!」


彼女は軽く首を振って応える。


ついと空気を切り裂くように。見たこともない、金色の美しい小鳥が、目の前を横切る。今は彼女の肩にとまり。静かに羽を休めている。


彼女は微笑んで。

掌で小鳥を包む。


彼女が掌を広げると。

小鳥の姿はなかった。


「心配するには及ばない」


円乗さんは僕に向かって頷いた。


「あれは、私の妹だからな」


埠頭には微塵で繋がれたまま、記者達に囲まれ、インタビューに応じる散華の姿があった。


最初は、大犯罪者の一声や姿を、カメラに納めようと集まった報道人。


すっかり彼女に魅せられた様子で、

メモを片手に話に聞き入る。


「ああ…!あの八咫烏の兵器か?あれは、アストラル帯という霊素を生体エネルギーとして…あの世や、黄泉を渡る。元々八咫烏は、黄泉渡の舟。その、アストラル帯を量子変換した後、一端八基の鏡に集積増幅し…武器として放つ!謂わば次元転移砲…いやいや…アストラルバスターと書き直してくれ!」


「姉様」


「アストラル・ブラスタ-」


テレビカメラを鷲掴みにして。

散華は全国民に向けて叫んだ。


「ユ ートピアン・ブラスター!」


「こっちの方がよいか?」


「姉様!!」


「なんだ?お前羽女とか言ったな、お前の顔はしばらく見たくない。あっちへ行って!自分の男と、好きなだけせいぜいチチクリ合うがよい」


散華の言葉に報道人がざわめく。


実の姉によって、みんなの祭主様、神嫁の初スキャンダルが暴露。


円乗さんは動じることなく。

カメラに笑顔で応えている。


「なんだ?否定せんのかあ」


「私たちの事はよいのです!それよりこれを…」


円乗さんは、彼女の後ろに付き添う薫さんから、巻き物を受け取る。


それを散華の鼻先につき出す。


「お読み下さい!」


生野菜を差し出された犬みたいに、散華はぷいぷいと横を向く。


「そんなもの…物漢字ばかりで面白くない!」


「お読み下さい」


「い・や・だ」


なんだかバカ殿様に見えて来た。


円乗さんはしつこく食い下がる。

散華は近くの寡婦に目配せする。


【只今】


恭しく巻物を広げる。


「煙草」


【気がつきませんで】


「姉様、縁起書に灰が!」


世界創成の書だとか。


「灰皿」


【只今】


もしかして寡婦達を虐げてるのは、むしろこの人なんじゃないか。


「み、皆さん姉様は生まれついての女王体質ゆえに…皆さんにご迷惑おかけしてませんか?」


カンペをプラカードみたいに抱えた寡婦達が。羽女の元に殺到する。


やっぱり。


「皆さんには…私どもの手違いで、島から出られなくなった事…深くお詫び致します」


寡婦たちに深々と頭を下げた。


「それから…皆さんスケッチブックに文字を書かなくても、もうちゃんと喋れます。声出ますから!」


【こうでもしないと】


【私たちは】


【ただのモブ】


【だからこれでいい】



「なるほど…そうであったか」


巻物に目を通通す散華。

怒りも悪巫山戯《ふざけ》もない。


「では…あの人は神社の思惑で、神の生け贄となった訳ではないのだな…」


「最初からそう言ってます」


そうだそうだ。とにかく思い込みがやたら激しい。姉妹の血筋なのか。


そんなこと口にしたら。

生贄にされそうだから。

僕は黙って頷くばかり。


「来るべき時が来れば。人は何れ旅立ちます。しかし姉様が言うように、私が祭主となった事で、予期せぬ改變が起こり、白鷺武踏会がシステム化してしまった」


「良い人はすぐに逝ってしまう。私や、特にお前のように?性根の悪い人間ばかりが残るという事か…そう考えれば合点が行く!」


性根が腐った人で合点が行く。


「大切な連れ合いを…突然失った姉様が…私や、神社に疑惑や怨みを抱くのは仕方ない事…しかしその縁起書は、祭主が最初に読むマニュアルのようなものですから」


「最初に読んでおれば…申し訳ない」


「私達は、瞿麦と裕君、前途ある二人の若者の、尊い命を散らしてしまいました」


円乗さんの悔恨の言葉は重い。

妹の力を信じると言ったけど。

あの攻撃をまともに受けては。


無傷や無事で済むわけがない…


「ああ、それなら大丈夫」


「大丈夫って!?」


「次元転移砲と…先程マスゴミ共に説明したではないか!あれらは元来た場所に吹き飛ばしただけだ。上手く帰れたかどうかはまあ知らんが…何処に着いても二人だ!」


「姉様に罪を科す事は私には…」


円乗さんの声には、幾分安堵の響きがあった。姉妹だからな、当然だ。


【散華様!!】


「なんだ?」


【成層圏上に待機させたカフカ島が!?地球に落下しています!】


【大気圏に突入しました】


「しまった忘れてた」


それ忘れていいこと?


「姉様?」


「切り札…回収するの忘れてた!」


島を落とすつもりだったのか?


その巻物読んでなかったら。


この地球に!?


て言うか…もう落ちて来る!?

全然幕切れ…大団円になってねえ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。