白鷺舞闘会
「こんな牢屋!ミントが簡単にぶち壊してくれる!…と思ったのですが無念です〜」
ミントちゃんは自らの力で奮起。
牢獄の錆びた鉄格子を掴み。無理やり抉じ開けようと奮闘した。一見は錆びて脆そうにも見えるのだか。
「小賢しい呪が!幾重にもかけられているのです!」
ふくれっ面で地べたに座り込む。
昨夜、部屋を出る時まで着ていた、白無垢は脱ぎ散らかされ。今は、裕が持参したメイド服に着替えていた。まあ白無垢よりは動きやすい。
「ミントちゃん、少し休もうよ」
裕はいそいそと白無垢を畳んで。
ナップザックにしまいこんだ。
「おなか空いた!綿あめ!焼きそば!いか焼き食べたいのです!」
ミントちゃんはそう言って、地面に足を投げ出した。
石牢にギャルメイクのメイド。
なんともそぐわないったらない。
ファンタジーの一場面みたいで、
これはこれでありかも…なんて。
俺は裕と顔を見合わせて頷く。
もう盛夏の太陽は、雲と常磐木の鎮守の杜の上にある。陽の光を浴びた梢と枝葉が、牢獄の中にまで影を落とす。
杜を通り過ぎる、風や木々のざわめき。祭りに集う人々の声にかき消される。
ゆらりと、見覚えのある神官服のシルエットが、鉄格子の前に現れる。
「独裁者!」
ミントちゃんが立ち上がり。格子の外に立つ、円乗羽女を指差す。
「祭り日和だな。晴れて良かった」
格子に背をあずけ空を眺めている。
「余裕ぶちかましてやがるのです。独裁者なら独裁者らしく、縁日の食べ物くらい差し入れるのです!姉様は器がちっちぇ-女なのです」
縁日の食べ物を差し入れてくれる、
独裁者なんてこの世にいない。
「またお前は、そのような服を着て!」
「姉様、メイド服は女の子の戦闘服なのです!」
「戦闘服?」
「はい!姉様の神衣と同じ、働く女の服なのです。私は好きな服を着て!自分で選んだ裕君と生きて行きたいのです!この神社で、神様から賜った名前も!今ここでキッパリ御返し致します!」
彼女は、ミントちゃんに「ダメだ」とも「好きにしろ」とも言わなかった。
「そうなのです!ミントは小粒でもぴりりと辛いのです!」
円乗さん顔を背けてる。
笑いをこらえてないか?
「縁日か」
竪琴のようにさらさら。
風が彼女の黒髪を鋤く。
それを僕は見ていた。
「祭主様が、こんな下手人共と居ていいのか?」
「私の出番は今少し先であろう…むしろ、このまま何事も起きなければ…」
「円乗様!」
「宮様!」
目の前に巫女達が駆け寄る。
彼女の瞳が物憂げに動く。
いつもの祭主の顔に戻り。
彼女は部下の前に立つ。
「…海岸線より76海里先に島影」
タブレットの画面を見ながら報告。
「やはり!盗み出した剣で、禁縄の結界を切ったか!」
つまり、散華が盗んだ宝剣で、島の結界である禁縄を切った。それまでは外界からは視覚化出来なかった…ということなのか。
「10時57分、島より黒き業雲…此方本土に接近しております!」
1海里確か、1850メートルだったっけ…ヨットでも行ける距離だ。
「現在寡婦帰島の所在は未確認…」
「忽然と消え失せました!」
そんな近海に散華の島はあるのか。
いや、島が消え失せたって!?
一体どういう事…何が起きてる!?
「島は消えましたが、なお上空に巨大な機影…これは、そんなまさか…鳥!?」
「鳳輦を」
瞬時に巫女達の顔に緊張が走る。
「私も直ぐにそちらに向かう」
巫女達の背中を見送った後、彼女は、巻きスカートのポケットから鍵を取り出し。錠前を開けた。
「有事の際には、罪人にも特赦が適用される」
「鳳輦って?」
僕は格子を潜りながら彼女に訪ねる。
「おみこし」
「おみこしって、あのお神輿?」
「羽女専用」
彼女は獄中の二人にも声をかける。
「何処へなりとも行くが良い。私が戻らぬうちにな!」
背を向けたまま。
彼女は言った。
「もし私が戻ったら」
「戻ったら?」
「杏子飴が食べたいな」
とたとたと駆け出す。
「な♪」
「まさかまさかの」
彼女は振り向いた。
「境内にある縁結びの樹…二股に別れた、ハ-トのかたちの御神木、その古代杉の前で…待っていて欲しい」
「姉様からの逆告白なのです!」
うん!りんご飴持って待ってる!
「お兄ちゃんは「君の愛はここです!」という看板とりんご飴を持って姉様の帰りを待つのですね!」
「なんかハチ公みたいだなあ!」
「ヒロ君!ウチ感動なのです!」
「ふざけるなあ!!!?」
全速力で彼女の背中を追いかける。
冗談じゃねえ!!!
そんな…こっ恥ずかしい真似が出来るか。それ何の羞恥プレイだ。
「待ちやがれ!!」
「この神デレのカルト娘!!」
「お兄ちゃん頑張るのです!」
何をどう頑張ったらいいのかすら。
皆目分からないまま。
とにかく、ひた走る。
僕は完全無欠•完璧にただの人間。
何の取り柄もない。
彼女は、背中に見えない羽根を持つ神速の巫女。神様の嫁だ。
だけど僕は捕まえたいんだ。
今ここで彼女を逃がしたら。
もう二度と会えない気がした。




