白鷺舞武闘会 前夜祭 狂騒曲Ⅴ
「さてと」
僕は禰宜達の前に進み出た。
「縛るなり何なり好きにしてれ!」
「お義兄ちゃん!?」
「ミントちゃんに、物騒なものは似合わないよ」
僕はそう言って彼女の頭を撫でた。
「でもでも」
「大丈夫だから」
「お兄ちゃんがそう言うなら」
背中に隠した武器?それが何かは知らないが。ミントちゃんは、とりあえず怒りの矛をおさめてくれた。
根拠はある。
「姉様、着物は歩きくいので…普段着のメイド服に着替えたいのです」
「メイド服!?瞿麦、お前は何時から、あんな露出の多い、なおかつ生地が少ない、扇情的なフリルや、レ―スのついた服を、普段着にしているのか!?」
「へえ旦那の趣味でして」
「破廉恥な!」
「破廉恥ねえ」
「なんだ、相生君、な何を笑っている!?」
「別に」
「今度は目を閉じて…何を!?」
「何も思い出してません」
「お、思い出してる!絶対いやらしい私の姿を、今思い浮かべておるのであろう!?」
「別に〜」
「なんか…いちゃいちゃし始めたのです」
僕達は全員身柄を拘束され。
明け方近くにマンションを出た。
その時円乗さんは僕に呟いた。
「何故だ」
「何故、君は一人だけ、そんな風に平然としていられるんだ?ただでさえ、あの畜弟の話を…聞いた後だというのに」
円乗さんの怒りの半分。
僕の境遇を思ってのことだった。
「別に僕は、一人で何処に送られても平気なんだ。だから、裕とミントちゃんだけは、何とかして欲しい。僕がいいなら問題はないだろ?」
「賽の河原は、何時果てるとも知れぬ無間の領域だぞ!そんな場所に、一人で行って平気だと言うのか!?」
「別に一人じゃない」
「一人じゃないって」
「いつも、円乗さんの事思ってるから」
僕は一人じゃない。
「バカ者が」
根拠はそれではない。けれど僕は、円乗さんといつも繋がっていたい。
目を閉じなくても。
空想なんてなくても。
いつも彼女のことを思う。
何処にいても出来るはず。
どんな場所にも根を下ろしても。
そこで生きていける。
そんな気がするんだ。
それは思いつく限り。
最悪の結末だけど。
彼女がいない。そんな世界。
僕にはもう考えられない。
あの時、ミントちゃんと円乗さんが、一触即発になった時。
彼女はこっそり、僕のシャツの袖を何回も引っ張ったんだ。
ほんの一瞬。彼女と視線を交わした。僕はそれを信じた。
それが僕の確信。
ミントちゃん、裕。
もし外れだったら。
ゴメン。
必ずお前達だけは何とかするから。僕は君たちのお兄ちゃんだからな。
長い神社の階段を上る。
広大な境内の社の裏にそれはあった。鎮守の森の奥にある石牢。
巫女達は元々は向去山という、霊山で修行を積んだ、修験者達の子孫であるという。
その修験者達が修行に使った。天然の洞窟を利用して造られた石牢。
今でも断食の行などに使われるらしい。
その巫女達も震え上がる石牢。
そこに僕達は放り込まれた。
やがて朝になり、遠くから花火が空で破裂する音や、近くから祭囃子が聞こえ始めた。
街の外を歩く人々が、祭の装いに身を包む。女達は、白無垢にウェディングドレス、綿帽子に角隠し。ブ-ケ。
男達は白の洋装に同じく白の和装、紋付き袴。高砂祭は夫婦の祭。
出逢う前の魂に戻る。その意味合いから男女共に白い仮面を被り手を繋ぐのが習わしだ。
けして離れぬように。
けして離さぬように。
繋いだ手を何時までも。
そう願い神に祈る祭。
街中が無垢な白一色に染まる。
高砂祭と白鷺武踏会。
今年も幕を開けた。




