白鷺舞舞闘会 前夜祭 狂騒曲Ⅳ
「明かりぐらい点けたらどうだ?」
部屋の隅の壁に腕組して。
凭れかかる円乗花女。
「いつからそこにいた?」
「一月前に…部屋の前で君に会った時、私は君に言ったはずだ」
「日頃から、足音を立てぬように、そういう所作を身につけている」
「私は何処にもいないし」
「何処にでもいる」
ああ確かにその記憶は鮮明だ。
「それに…私は君の大家だ!」
目の前に鍵を翳して見せる。
「悪かったな…頑固で!全然融通が利かなくて!!おまけに貧乳で!!!」
悪口しか聞いてない!?
最後は好みだって言ったよね!?
それに円乗さんは別に貧乳では…
いやこれ以上言っても焼け石に水。
「僕の好みは円乗さん」
そう言えたらいいのに。
この状況では到底無理。
彼女の指先がパネルに触れて。
部屋に明かりが点る。
奇しくも「私達は、お互いの立場を明確にしなくてはならない」そう言った彼女の言葉通りに。
「簡単な話だ。瞿麦!」
円乗さんはミントちゃんを睨む。
瞿麦…なでしこ。
「先程から聞いておれば、お前は、自分の事を、ミントちゃんとか呼ばせているが…私の妹は円乗瞿麦はずだが?」
「カレPの好みで〜」
あわわ。
「みんなには〜ミントで通ってます!瞿麦はもはやステハンみたいなものでっす!HN以外で呼ばれるのって、ミント的にはある意味〜んだね〜素っぴんと同じくらい超超超恥ずいのでっス!オスオス!」
「神様から与えられた…その由緒あるご奉芳名を嫌うのは血筋か…」
美しいお顔に青筋が。
「もっとも…何でもかんでも、血筋だけで片付けてもらっては、こっちは堪ったもんではないが!」
正論であり本音。
「瞿麦なんて…ださいのです!漢字で書くのめんどくさいし、可愛くないから!ミントちゃんがいいのです!漢字も自分で考えて、美無天にしたのです!」
「それから、その化粧!話言葉!言いたい事は…もう山程あるが!」
突っ込みどころとも言う。
そんな突っ込みはしない。
こっちも我が身が可愛い。
「しゃびばせん…姉様…」
下の身内には厳しい家風なのか。
彼女の顔が散華に見えて来た。
「まあしかし、姉との約束を守り、嫁となるべく戻った事、そこは評価してやる」
「あ姉様それは」
「ミントちゃんのお姉さん!どうか僕たちの話も聞いて下さい!」
「ミントちゃんのお姉さん?」
やめろばか裕!
空気読めないとこだけ似るな!
円乗さんの片眉がつり上がる。
「貴様か…何故ここにいる?貴様のような嫁盗人が!よくもぬけぬけと…私や、彼の前に顔を出せたものだな!?命が惜しくば、早々にこの場から立ち去れ!」
「この山犬の仔が!!」
一応僕の弟なんだけど。
「僕…ミントちゃんの事を!本気で愛してます!!必ず必ず幸せにしてみせます!!!」
「ひろきゅん!?」
よく言ったぞ弟。
よび方コロ変わるが。
兄として助け舟の一つも出してやりたいが。ここは黙って静観しよう。
「ただの惚れたはれたで、引っつくなら、サカリのついた犬猫と変わらんと、そう言っておるのだ!君は、そんな事も分からない愚か者なのか?君は、今の君の兄上を見て何を思った。己の分や、立場を少しは弁えたらどうだ?相生弟よ!」
「それでも僕は」
「それでもとは、実の兄を地獄に落としても、そういう意味だぞ!」
僕の行き先が地獄に昇格してる。
「それでも…ミントちゃんと…」
握りしめた裕の拳や肩が。
小刻みに震えている。
やはり酷か…助け舟を。
「お兄ちゃんを地獄に落としても!ウチは、裕君と一緒のがいいのです!!」
ミントちゃんが、裕と円乗さんの前に立ちはだかる。
いいぞ!ミントちゃん。
「僕も…」
「裕君は、それ言ったらダメなの!言えないのが正解なの!それが私の好きな裕君なんだから!」
「ミントちゃん、今からでも僕の嫁にならないか?こんなヘタレ弟より…」
「イヤです!」
「だってさ…羽女姉さん。僕は完璧にフラれたみたいだぜ」
「そんな…夫婦となるべき縁の者同士が顔を合わせて…こんな事が起こりうるのか!?お前達、お互いにお互いを見て何とも思わぬのか!?」
「全然!」
「なあんとも…お兄ちゃんはお義兄ちゃんです」
「大体僕は貧乳」
円乗さんに睨まれたので、黙る。
「ふむ」
円乗さんは考え込むように押し黙る。
「大体、私は普段はサラシを巻いておるのだ!これでも脱いだら結構すんごいのよ~」
円乗さんがミントちゃんを睨む。
「お前…今度…変なアフレコしたら…舌を引き抜く!」
「ハイ!ハイ!ハイ!姉様!ミントからご提案があります!!」
「却下」
「そんなあ…まだ話とか全然聞いてくれちゃってないに~なぜ却下ですか?!」
「少し黙れ。この寸足らずの舌足らずが!」
「ミントは、こう見えて声優さんに憧れてます」
「もはや聞く耳持たん」
「話す舌もなき!」
「お義兄ちゃんが地獄に送られず、ミント達もLUV2でいられる。そんな方法があるんです!!」
もう地獄行きは確定事項なのか。
「黙れと言っても、どうせ話すのであろうが」
「姉様、私達は白鷺武踏会に出場致します…です!」
ここに来て、円乗散華の予言的中率が半端ねえ。最後の、世界の破滅だけはどうにか外れて欲しいが。
やな事は全部当たる。
「私達は、白鷺武踏で優勝を果たし!三國一の夫婦となります!それならカチコチ石頭の姉様だって!私達を認めざるを得ないのです!!けだし名案なのです!!!」
「ちょっと待て…ちょっとだけ、私の話を聞いてくれ瞿麦…」
話す舌はないと。
自分で言いました。
「報奨として、私達はお義兄ちゃんの特赦を要求します!勝ったら何でも望みを聞いてくれるんでしょ?」
「そういう事では…ないのだ」
「もはや、ウチらを止める事は誰にも出来ないのです。ね?裕君!」
「ミントちゃんと一緒にいられて、兄さんも助かるなら僕も出るよ!その舞踏会ってダンスの大会?」
「パンクラチオンなみの…命の取り合いなるぞ」
「死ぬ気で踊ります!」
「ウチがリ-ドするから大丈夫」
死の舞踏とはこの事だ。
「お前達が優勝しても、望むものは多分得られないであろう」
円乗さんの言葉と散華の言葉。
生け贄という不穏不吉な言葉。
どうしてもそれが脳裏を過る。
「そんなに姉様が自分の我を通したいなら、ミント提案があります!」
「ミントちゃん、おこりんぼモ-ドはダメだよ!」
なんだ?おこりんぼモ-ドって。
「そんなに、ウチらの仲を裂きたいのなら、姉様も白鷺武踏会に出場するのです!!」
むちゃくちゃだ。
「ウチらが、ギッタギッタにしてやるのです!!!」
「瞿麦」
「ウチの名前はミントちゃんだって、さっきから言ってるのです。イラつくのです!」
もうめんどくさいから。
ミントちゃんでいいよ。
「夫婦ではない者は、単独では出場する事は出来ない」
「じゃじゃ~ん!?姉様のお相手はそこに!」
ミントちゃんは僕を指差した。
もし出場したら、僕もミントちゃんにギタギタにされるのだろうか?
「ミントちゃん…実は、今日は大変な事態になるかも知れないから、祭やイベントどころじゃ…」
「相生君、高砂祭も白鷺武踏会も、中止にはならない。何故なら円乗家は、賊の恫喝にも卑劣なテロリストにもけして屈しはしないからだ!」
「流石姉様です」
「無論、お前達二人の参加も認めない」
「はい?」
「相生弟は、この世界の住人ではない。よって参加資格はないと見なす、以上だ!」
「分からず屋のかちかち石頭!」
「下らん挑発だ」
「言っても分からない!石頭には〜力押しなのです!」
ミントちゃんは、力比べを要求するように。右手を差し上げる。
「寸足らずでも、舌足らずでも、このミントの剛力は、円乗3姉妹随一なのです!」
円乗さんは鼻で軽く一笑する。
そして右手を差し上げた。
その動きに呼応するように。
禰宜達が室内になだれ込む。
「単一電池の馬鹿力に、勝る力があるとすれば、それは権力なのだよ、よくぞ知れ!この単細胞女!」
完全に悪役の台詞。
「神に仇なす造反者共だ。直ちに拘束しろ」
得物を手にした禰宜たち。
僕達にじりじり詰め寄る。
「交渉決裂ですわ」
ミントちゃんは飛び退いて。背中から武器を取り出そうとしている。
「交渉?不当で違法な要求の間違いだ。この!ごり押しゴリラの馬鹿妹が!」
ゴリラなの馬なの鹿なの。
「その石頭、今から粉粉パウダーにしてくれるのです!!」
粉粉とパウダーは同じ意味だよ。
「粉砕パウダーなのです!」
「貴様など、この小指一本で充分だ」
なんか夕方も見たぞ…こんな風景。




