白鷺舞闘会 前夜祭 狂騒曲Ⅲ
「なるほどな」
弟裕|(仮)の告白。それは僕にとって。ミントちゃんの話よりもさらに。俄に信じ難く衝撃的だった。
しかし辻褄は合う。
裕の話は、鉄で出来たジグソーパズルみたいに、音を立てて嵌り出す。
僕の欠落した記憶を埋めて行く。
やはり…僕は散華の言うように、彼女の夫同様この世界に流れついた。
稀人だったのか。
父親は大手出版社勤務。裕の話では文芸誌の編集長らしい。
母親は専業主婦。父とは大学時代、登山サ-クルで知り合った。
夫婦共通の趣味は山登りとスキー。子供の頃は両親が買ってくる土産。
アルペンのチ-ズケ-キ。
すごく楽しみだったな。
何処に出かけても「アルペンは?」と聞いてしまい。両親を困らせた。
父親の右脛には、若い頃登山中に岩場で転んで負傷した。三日月状の傷跡がある。
母が教えてくれたらしい。
「裕の二の腕にあるホクロ…裕太と位置も大きさも同じね」
裕が口をへの字にして、僕に見せつける。兄弟の証らしい。
母さんは「私の首筋には、母と同じ黒子があるの」よく僕や裕に話していた、らしい。
失われて朧だった記憶が。
徐々に鮮明によみがえる。
「昔から、母さんは、母親との折り合いが悪くてね…私は、昔からその話を聞くのがすごく嫌だったの!」
家族しか知り得ない話。
何より裕の声。僕より、父親にそっくりだ。裕の話。その全てが、僕の心の隙間を埋めていく。
僕は頷くか唸るしかなかった。
なぜ僕は今まで、家族の存在を忘れるどころか、思い出そうとすらしなかったのか。
「父さんと母さんには…親不孝な息子だ。弟のお前にも…苦労をかけてしまったみたいだな!」
裕は首を振る。
「いいんです!こうしてまた兄さんに会う事も出来たし…本当に僕…ずっと…兄さんに会いたかったんですよ!」
胸に込み上げて来るものはあった。けど僕は裕に言った。
「夜が明けるまでに、ミントちゃんと2人で、お前の住む町に帰れ!」
「でも兄さんは」
「今は、ここが僕のいるべき場所だから、僕は帰れない!」
「でもでも…ウチが残らないと…お兄ちゃまが!」
「それも神様が決めた事かい?なら、好きな2人が手を繋いで、一緒にいたいと願うのは、それよりもっと大事な…宇宙の法則だと僕は思う!」
僕は思うのだ。
「1人だと思ってた、僕に弟と妹が同時に現れるなんてな!こんな幸せな事はないと思う。急な話で…祝ってやれないけど」
2人を元いた場所に帰さなくては。
今すぐにだ!躊躇してる暇はない。
「お前達はそもそも、ここまでどうやって来た?」
「巫女さん達に連れられて、こ-んな大きな!Ωをひっくり返した、注連縄を潜るように言われてえ」
身振り手振りで、ミントちゃんが説明した。
「僕もミントちゃんを追いかけて、その注連縄を潜って来ました」
その仕組みはよくわからないが。
「なら自分達で帰れるよな、裕!」
「はい」
「父さんと母さんを頼む!」
「兄さん」
「ミントちゃんと幸せにな」
「兄さんはそれで…いや!ダメですよ!兄さん1人が…」
僕はちらりと、ミントちゃんの胸元に目をやる。見た目はミニマムだけど。なかなかのものだった。
「こう見えて貧乳好きなんだ」
暗闇の中ではっきりそれと分かる。
舌打ちが響いた。




