白鷺舞闘会 前夜祭 狂騒曲Ⅱ
「そうなんですよ~ウチだって、彼色に染まろうと、色々ファッションだって…お勉強したりしてですね。なのに彼ったら、メイドコスばっかりウチに要求して!そもそも、メイドで四六時中いたら、夫婦生活だけでなく、色々と御近所の目もありますし~日常生活のバランスに支障を来すと言いますか~」
「確かに!夫婦も最初の3年が肝心って聞くしなあ」
「さっすが!お兄ちゃまは分かってらっしゃいます!!それに比べて、アイツったら!甘えて来るばっかで、御主人様とメイドの設定だって…テメエから言ってんのに、こっちだって、そうそうアドリブのネタなんか出ないつ-の!あ-!もうイラつくのです!!!」
ミントちゃんはベッドに腰かけて、足をバタバタさせている。
「でも幸せなんだね」
そう言うとミントちゃんは俯いて。
「はい、幸せです!」
噛み締めるように答えた。
僕は、ギャルとかヤンキーとか、まして、大人過ぎるお姉さんとか、ほとんど免疫がない。
女性に免疫がないのだ。
でもミントちゃんはすごくいい子だ。
女の子を、外観や肩書や、自分の好みだけで判断したらいけないんだ。
そう、神の鎧の如き神官服で武装した娘。あの祭主がいい例だ。
何か…嫁というより、本当の妹の恋愛相談を聞いているような。
そんな不思議な気持ちになる。
「君はやっぱり、好きな人のいる場所に、すぐ帰るべきなんだと思うよ」
そこに好きな人がいて。
待っていてくれるなら。
この際その幸せな男が誰かなんて、あえて僕が知る必要はないことだ。
「だけど…そしたら…お兄ちゃんが賽の河原に送られちゃうって…鬼が飛び跳ねてるような、とっても寂しくて…物凄く恐い場所だって…」
「生きたまま臓物を!」
「その話誰に聞いたの?」
「夜中に『神様のお使い』って名乗る巫女さん達が訪ねて来て」
高砂神社の巫女達だろうか。
「他に、その人達は何か言ってなかったかい?」
『祭主様は心あるお方。【一月の間に、速やかに身辺を整理した後、必ず件の方に嫁ぐように!】…との事です。さすれば、共に禁を破った男の罪も問わない。そう申されております』
「そう言ってました」
「猶予や酌量は情」
なるほどそういう事か。
「そんなの無視してさ、二人で逃げちゃえばよかったのに!」
「そしたら…お兄ちゃんが!?」
星とか、ネコとか、ニコニコしたのとか。めいっぱい描いたネ-ルの指先を握りしめた。小さな手に涙の粒がポタポタ落ちた。
「それで僕のために…」
戻って来てくれたのか。
僕は彼女の首を抱え。
細い体を引き寄せた。
彼女はそのままこてんと。
僕の膝の上に頭をのせた。
「大丈夫だから」
「でも」
「僕も好きな人がいるんだ」
彼女が顔を上げて僕を見る。
「頑固で!全然融通とか利かなくて!嘘とかつけないくせに!人に言えない秘密ばっかり抱え込んで…本当に何て言うか…」
僕は膝をひとつ叩いて。
彼女にもう一度言った。
「だから僕は大丈夫だから!」
多分、ね。
「その人は…私の知っている人に、よく似ていると思います…です」
「多分君の知っている人だよ」
「やっぱり!?裕太さんは、私のお兄ちゃんになる人です!!!」
「相生ミントは…君が嫁いだ後の名前だよね?」
「はい。旧姓は円乗です」
やっぱりそうか。実の妹に何を…町金ばりの追い込みかけてんだよ!
円乗羽女!
「そ、その新婚初夜!ちょっと待ったあ!?待って下さい!!お願いします!!!」
見知らぬ若い男が、叫びながら寝室に飛び込んで来た。
この部屋セキュリティ笊。
「ミントちゃん!!」
「ヒロッピ!?」
部屋の空気が限りない三文芝居と、そして茶番の匂いに変わる。
僕と同い年くらいのその男。
拳を握りしめ。
肩をいからせ。
僕を睨みつけている。
「お前…誰だよ!?」
大体想像はつくが。
僕から嫁を奪ったと思わしき。
この男に全く見覚えがない。
全くの初対面だった。
「僕は裕です」
「名乗られても、お前なんか知らねえし!」
「父の名前は裕太朗」
男の目がくわっと涙で滲む。
「兄さん!兄さんの嫁を奪ったのは…この僕です!ずっとずっと!!罪の意識に苦しんで来ました!!!」
「お前に…兄さん呼ばわりされる覚えはない!俺は一人っ子!」
土下座するように。
僕の膝にすがり。
泣きついて来た。
「兄さん!兄さん!兄さん!僕は、貴方の実の弟…裕です!!」
「ごめん、ミントちゃん。そこにある、僕の携帯取ってくれるかな?」
「お兄ちゃん。こんな夜中にどこに電話するのですか?」
「通報するの」
「どうして!?ミントは良くて、僕はダメなんですか!?」
「気色悪いからに決まってる!」
即座に裕とか言う男を蹴り飛ばす。
「お兄ちゃん男には厳しいです」
ミントが僕から携帯を取り上げる。
「お願い…裕君の話聞いて上げて。ミントのお願いだよ!」
ならば仕方ない。
「ほざいてみろ不審者!」
「ええ!?」
この嫁泥棒が!
もしこいつが僕の弟なら。
弟に嫁を寝取られていた。
「お前の話が…納得行くものなら、弟と認めるし、ミントちゃんを奪った事も許してやるよ!」
さあ!性根を入れて話してみせろ!
裕と名のる男は、唇を固く結び。
決意を込めた瞳を僕に向けると。
やがて話し始めた。




