白鷺舞闘会 前夜祭 狂騒曲
「君が僕の嫁?」
月明かりに佇む白無垢。
液晶の光に照らされた。
小悪魔メイク。
ギャル専門誌のグラビアにしたって、些かシュ-ルが過ぎる。
その光景に僕は息をのむ。
深夜に白無垢を着た花嫁に出逢う、それ自体もうかなりの恐怖体験だ。
「はいです。ウチは貴方様の嫁にございます!」
最近やっと、円乗さんとの交流などで。女性慣れして来た。だが、しかし、ぼっちの僕に…ギャルは!
あまりにハ-ドルが高い。
やっぱ結婚したら、朝ご飯とか僕が早起きして作るのだろうか。
友達に紹介されて「マジコレなワケ!?」「ちょ-ウケるんですけど?」とか何とか言われちゃうのか。想像しただけで震える。
ていうか、この知識や、語用がもう化石。ギャルの人とか、小悪魔とか、ナチュラルとか姫とか…
もう全然わかんない。
それに、この子の話言葉とか。
幼女みたいだし。ちびっ子だし。
「お兄ちゃん」
僕にはハ―ドルが高すぎる。こんなじゃじゃ馬乗りこなせないよ!
「ごめんなさい!お兄ちゃん!!ウチと離婚して下さい!!!」
そしてそっこ-でフラれる超展開。もはや全然脳みそが追いつかない。
「あにょですね~ウチお兄ちゃんと結婚してえ、いい奥さんにならないといけないのに〜好きな人が他にいて…えっとお…それから!それから!むき―っ!!!」
「まあ落ち着いて」
こうも、予期せぬ事態ばかりが続くと。さすがに、こっちの肝は正座する。自分にいい聞かせる意味でも。
「いったん落ち着こうか」
こんな言葉の一つも言いたくなるものだ。彼女が落ち着くのを待って。
もう一度訊ねてみた。
「君が僕の嫁なんだね?」
「ひゃい」
「ごめんね。僕は、そこら辺りの記憶が曖昧なんで…よければ詳しく教えて欲しいんだ」
ミントという名前の自称僕の嫁。
白無垢の袖で、げしげし涙を拭きながら。こくりと頷いた。
「それ角隠しって言うんだよね。重かったら取っていいから」
僕は彼女に座るように勧めた。
きちんと結っていない。彼女の髪が腰まで下りて。暗闇に淡く香る。
柑橘の香りを振り撒いた。
僕の隣に腰を降ろす。
彼女の重さの分だけ。
ベッドが軋むがする。
「お兄ちゃんは…優しいのです!」
ミントは鼻を啜る。
「泣いたりしたら…せっかくのお化粧が台無しだよ!」
彼女がさらに落ち着くまで待って。僕は一つずつ質問した。
「君は、僕の嫁と言ったけど…僕達は、その…正式な夫婦でいいのかな?」
これ正式というのか。
記憶そのものがない。
「神主様と、御両親がいる前でえ、お式を挙げました」
「じゃ…婚姻届けとかも…」
「婚姻届けって何ですか?」
僕の嫁は婚姻届すら知らない。
「僕達は、何処で出逢って、いつ結婚したんだろう」
「神社で…それ以前は、お会いした記憶は…ミントにはありません。結婚は、親や神様のご縁で決まるものと、昔から決まっています」
政略結婚とまで行かないものの…
お見合い結婚というやつなのか。
「さっきの君の話だと、僕と夫婦の契りを結んだものの、君に他に好きな人が出来たって」
「チギリ?」
それで、今現在、僕に嫁がいない理由は、一往一来納得出来る。
何より、円乗さんが僕に対して。
特別な何かをした訳じゃない。
彼女の疑いは完全に晴れた訳だ。
最初から疑ってなどいないけど。
「婚礼のお式の場でウチ、いえ私はイマ彼と出逢いました」
「それはまた!随分と劇的な出逢いだね!?」
自分の事なのに、今一つ実感がわいて来ない。映画や、小説やドラマの中でしか、そんな事は起こり得ないと思っていた。
僕の人生そのものがだけど。
というか、僕は式に訪れた身内の誰かに、嫁を略奪された男!?
そのショックとかで?
その後の事故が原因で?
記憶が欠落してしまった?
可能性は充分ある。
希人と呼ばれる、ワ―ルドワイドぼっちで。嫁なしの僕に新たにNTR。
男の不名誉な勲章がさらに。
「お兄ちゃんと、初めて会った日の事、ウチは覚えてます!『優しそうな素敵な人』って思いました!『こんな素敵な人の、ウチはお嫁さんになるんだあって』一瞬思いました!!」
一瞬…ね。
「でもでも!ウチは…別の場所から自分の事を見ている、熱っい視線に気がついて…その人と…目が合った途端に、ミントは真実のLUVに目覚めてしまったんです!!」
なるほど。NTRまでもいってない。
「なら今日で僕とは離婚だね、ミントちゃん」
「お兄ちゃん!?」
「自分にはこの人しかいない。そんな相手に巡り逢えるなんて…本当に奇跡的な事だと思うんだ!相思相愛なら尚更だ。誰が何と言おうと、自分の気持ちに、嘘なんてついたらダメなんだ!…最近になって、僕もようやくそれが分かったんだ!」
「お兄ちゃん…ミントや彼よりも、とってもとっても大人ですう!!」
実は恋愛経験0なんだけどね。
「ミント…ミント…お兄ちゃんに色々相談に乗って欲しいですゥ!!…カレPの事とか…」
「ははは…彼の事ね」
嫁を奪った相手の恋愛相談って…
おいおい!なんなんだこれ!?




