乙女の吊り橋Ⅱ
「これが改變!?」
「単なる目眩ましだ」
散華は鼻で笑う。
「逆に私は君に問いたい!君は何故、この世の中で1人なのだ?分かりやすいくらいに孤独なのだ?」
そんなことは言われたって。
ごにょごにょ言うしかない。
「自分で考えた事はあるか?」
「考えたさ」
しかし答えなんて。
見つからなかった。
「君が孤独であるように、祭主という存在もまた、孤独なものだ。神に身を捧げた身とはいえ…寄り添う連れ合いもなく、その生涯を終える」
その言葉は真実だと思う。
世の求道者は孤独なもの。
嫁急募者の僕も孤独な者。
「この私も、同じ立場にいた人間、だからこそ妹の心情は理解出来る」
「しかし姉様は良き人に!」
「良き人に巡り逢いました」
確かそんな話を聞いたな。
円乗さんの言葉の響き。
切ない乙女心を感じた。
それは隠しきれない。
恋への憧れだろうか。
連れ合いとなる男性が現れて。
円乗さんに祭主の座が譲られ。
そんなことも起こりうるのか。
ならば円乗さんにだって。
「私の夫は稀人であった」
「稀人?」
「海で遭難し、浜辺に打ち上げられていたのを助けられ…神社に運ばれたのだ」
広大な高砂神社の敷地エリア。
国立総合病院もあったはず。
かつてのバチカンのようだ。
「古来より、海より流れつく異郷の神、それを稀人と言うのです」
嫁のいない僕も稀人と呼ばれた。
多分別の意味でだけど。
「名前もマレ人に改名したら?」
「まれひとりとか…いんじゃね?」
なんてクラスメートに揶揄われた。あいつら…絶対許さん!
「もっとも、彼は単たる遭難者で、神などではなかった。治療を受けたが、三日三晩目を覚まさなかった」
眠る彼の横顔を見て恋に落ち。
「目覚めて初めて、彼の声を聞いた時には、もう愛していた」
なんか腹立つ。
恋バナ腹立つ。
散々聞かせられた罵詈雑言。
その中でも一番癪に障るぞ。
「貴女みたいな人でも、人を愛する心が…」
そんな皮肉を言いたくなる。
でもうっかり言おうものなら。
骨ごとばらばらにされかねない。
せっかく拾ったこの命だ。
円乗さんにも迷惑がかかる。
円乗さんの横顔を見て思う。
「ほどなく、私に神託が降り…姉様は祭主の座を辞し、その方と共に神社を去りました」
なるほど一連の経緯はわかった。
それがなぜ国を滅ぼすとか。
骨肉の争いに発展したのか。
「彼が一向に目を覚まさぬその間、私はずっと側に就いて、こう思っていた」
目を覚ましても、この私だけを見てくれないか。もしそうでないなら。
やがて何処かに行ってしまうなら。
このまま目を覚まさないで。
「それと、吊り橋が何か関係が」
「鈍い男だ!」
すんません!
「この世界で、唯一無二の孤独な心を抱えた男女が、吊り橋の上で出逢った」
僕と円乗さんを見て言った。
「私は、お前たち2人にとっては、宛ら橋の上を吹き荒れる暴風。風に吹かれ、揺れに揺れる吊り橋の上で、お互いに思いを寄せるようになった、お前達二人の絆もさぞや深まった事であろう…」
「別に礼など要らぬ」
「誰が礼なんてするか!」
「言いませんからね!」
「だがな少年」
「私は、吊り橋なんて揺らしていない」
「何が言いたい」
「自ら吊り橋を掴んで、揺らしているのはこの女だからさ!」
「そして吊り橋を拵えて、君をそこに立たせたのは…君の横で、今でも清ました顔をしているその女だ!」
「そんな馬鹿な」
「出来るのだよ!羽女の改變ならば…君を、世界で唯一、連れ合いを持たぬ、孤独で哀れな男に。それが羽女の改變能力さ!そんな事が、この世で出来るのは、許されるは…」
散華はきっぱりと糾弾するように、
円乗さんを指差してそう言った。
「祭主円乗羽女ただ1人!」
「理由は私が言った通りだ!」
「以上!」
円乗さんが僕にそんな事を…
そんな神の力まで使って。
「あり得ないだろ!?そんな事!!!」
「結構な揺れであろう」
風の中で揺れる吊り橋。
散華は一際に咲き誇り。
笑っていた。




