姉妹と1人
「姉妹喧嘩はいけない」
それ以外の言葉はない。
僕は用意してなかった。
「相生君?」
この場で言うべき事じゃない。
空気読めなくても分かる…けど。
「円乗さん」
僕は深呼吸をひとつして。
円乗さんの肩に両手をのせた。
もう懐かしい。いつかソフトクリームを初めて口に含んだ時みたいに。
円乗さんは目をまんまるにして。
僕の顔を黙ってじっと見返した。
「今しかないんだ」
「相生君?」
「僕には今しかない!」
明日という日が終われば。
もうこの世界にはいない。
「初めて会った時から」
「僕は円乗さんの事が…」
「え」
映画やドラマの主人公みたいに。
相手の立場を思い幸せを願って。
何も告げず静かに消える。
それもありだと思う。
それが美しい終焉なのか。
その時の僕は、何処かで聞きかじったような絵空事を、口にしたり出来なかった。けして出来なかった。
「僕は円乗さんと、ずっと一緒にいたい。出来る事なら、夏祭りを一緒に過ごしたいと思ってるんだ!」
「待って、相生君!この状況…私と姉様の会話を聞いてたら…姉様は祭はおろかこの世界を破滅させると」
ならば僕と逃げて欲しい。
もし逃げるのがダメなら。
「そんなの、ちゃっちゃっと片付けてしまおうぜ。僕も手伝うからさ!」
だから僕と祭に行こう。
「相生君、私は…」
「吊り橋効果…というのは確かにあるそうだが」
間延びした声で、散華が口を挟む。
「ま、ぎりぎりセーフってとこか」
「ばちぱちばち」
人を小バカにしたような拍手。
神経を逆撫でする。
しかし彼女の表情は穏やか。
微笑みをすら湛えていた。
「少年よ、私の事は、これからは、お義姉さんと呼んでいいぞ!」
白か黒しかない人。
極端な性格みたいだ。
この人が口を開き。
何か言葉を発する度。
事態は混迷を深める。
それこそ取り返しのつかない。
遥か沖合いまで流されてしまう。
そんな気がする。
「どうやら妹も、君の事を心憎からず思っているようだ」
円乗さんの気持ちも考えずに!
無遠慮に動くその唇。
縫ってしまいたい。
「姉様!何を言って…私たちは別に、その…そんなんじゃ…」
「ありません」
「先程から、私の挑発にも、眉一つ動かさなかった氷女が、この狼狽てよう!はっはっは愉快愉快!!」
この女さっきから何を考えている。何が言いたいのか、したいのか。
さっぱり分からない。
「実はこの一月、二人の事は粒さに観察させて貰った!」
やってる事は、妹のストーカーじゃないか!?
「今や、怨讐の糸で結ばれた姉妹であっても、妹の良縁は喜ばしいものだ」
「姉様」
「今日のところは退こう」
彼女は僕たちに背を向けた。
「相生君と言ったか。羽女相手に、人並みの恋路は諦めよ。何しろ、この娘の信仰ルナティックは、神憑っておる。君の恋敵は文字通り、神そのものなのだから!」
欠伸を噛みしめるように。
彼女は尚も言葉を続けた。
「天罰の針山を歩く、その覚悟がないなら今のうちに、諦めるべきだ」
それは何度も自問自答して来た。
もっとも僕の気持ちがどうであれ。
僕はまだ円乗さんの気持ち。
答えを聞いてはいないのだ。
「若いというのはいいものだ」
彼女が僕の肩に手を添える。
「たとえ神が許さずとも…この私がお前たち二人の仲を祝福しよう!」
結婚式で絶対聞きたくない台詞。
「姉様」
「少し喋り過ぎた」
この人の少しは致死量。
「では行こうか?相生君」
「行くって何処へですか?」
「先に言っておいたはずだが…君は私が治めるカフカ島へと来るのだ。客人として存分にもてなそう!」
「散華さん何言って…!」
肩にのせた彼女の指先に力がこもる。爪が肉に食い込む。
痛みに抗おうとして。
僕は思わず身を捩る。
路上に放り出された桐の空箱。
彼女の左手には緑黴ふく銅の剣。
その剣の束が握られていた。
「祝福しよう。そうは言ったが…羽女!私はお前を許すとは1度たりとも、一言も言った覚えはない!」
「高砂神社より、草木一本持ち帰る事は禁じられております!その方に触れる事も…私は許しません!」
「命だけは恵んでやろうと言うのだ…無論慈悲ではないがな!」
「愚かな妹」




