散花
「変わった名前ですね」
「華と散るために、生きている訳ではない…散る華はあっても宿命、散る事の出来ぬ華のためにこそ…」
「私は今を生きている」
「それが、この名前に宿された命、業であり、そして意味であると、私は考えているのだよ」
「少年」
やはり円乗羽女に彼女は似ている。
ただ真っ直ぐで曇りない。直向きな眼差しが、とてもよく似ている。
たとえ、この世界が僕の事を愛してくれなくても。円乗羽女。
彼女の瞳に映る世界。
僕はとても好きだ。
彼女がこの世界を愛しているのが、僕にも分かるから。
だから僕はこの世界に留まりたい。
心からそう願う。
円乗さんによく似た女。
彼女にあるもの。
醸し出すオーラ。
それはまるで真逆なもの。
悲しみと憎しみの宿る瞳。
彼女にあって円乗羽女にないもの、それはこの世界への深く暗い憎悪。
「この世界に弾き出されてから」
指折り数えるように女は呟いた。
「私もずっと1人だよ少年」
「愛人、知人、友人…君の好きに呼んでくれて構わないよ!」
おそらく僕が初めて会った時。
化粧で円乗さんの姿に似せた。
よく見れば、瓜二つという訳ではない。しかし陰陽五行の対極のように対。
「あんたの目を見てると、私は切なくなっちまうのさ。あんたは…私と同じで、この世界を憎んでいる」
「さあ、一緒においで少年。あんたの居場所は此処でも、まして賽の河原なんてとこでもない!」
甘い毒が体を痺れさせる。
言葉が染みるように響く。
真実を含んでいるせいか。
「あんた妹より私に似て…」
優し気に、僕に向かって差し伸べられる。たおやかな指先。
しかし瞬時にその表情が一変した。すぐにその場から飛び退く。
目の前を矢のように通り過ぎた。
玉串が路上に突き刺さる。
榊に巻かれた紙垂が風に揺れる。
それを僕は茫然と眺めていた。
「その人に触れないで!」
声の主は円乗羽女だった。
「大姉様」
彼女は喪服の女にそう言った。




