↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/47

第39話 Dランクに上がったら、知らないスキルが増えていた

 それから朔は、何度か同じ場所を往復した。縄跳びの線まで歩いて止まり、向きを変えて戻る。最初のうちは線を意識すると足に余計な力が入ったが、千尋の動きを真似るのをやめ、普段通りに身体を動かすようにすると少しずつ安定してきた。


 途中、遊具の方から転がってきたボールを避けた時も、身体は思ったより大きく横へ動いたものの、無理に踏ん張らず次の足を出せば自然に止まれた。


「今の感じ」

 千尋に言われ、朔もなんとなく分かった。ヘイストで速くなった身体を押さえ込むのではなく、その身体で普通に動く。まだ完全にできるわけではないが、昨日までとは考え方が違う。


「じゃあ、ちょっと走ってみよっか」

 千尋が広場の奥へ移動した。


 真琴に全力は禁止だと念を押され、朔は軽く走り出す。走ること自体はそれほど難しくなかった。問題は止まる時で、最初は足を強く踏んだせいで身体だけが前へ流れ、千尋の横を通り過ぎた。

 二度目は早めに減速して止まれたが、今度は止まることばかり考えて周囲を見られていない。


 千尋に一度走ってもらい、今度は足ではなく身体全体を見る。止まる直前、足を突っ張っていない。身体をわずかに沈め、残った勢いを次の一歩へ逃がしている。


 朔も同じように試した。合図を聞き、踏ん張りそうになった足から力を抜く。身体を少し沈め、そのまま次の足へ体重を移す。


 完全ではない。それでも、最初のように身体だけが前へ流れることはなかった。


「うん。ちょっと休憩ね?」

「もう少しやりたいです」

「いや、身体もたないでしょ」


 千尋に言われるまで気づかなかったが、胸が大きく上下している。上体をかがめると、玉の汗がポタポタと地面に落ちてシミをつくる。


「あれだね、あんたは精神が肉体を超えるタイプだよ。危ない、危ない。もっと適当にやりなさい」

 そう言って千尋はタオルを朔に渡す。


「真琴、ヒールかけてあげて、持たないよ、この子」

「あたしもう結構ヘイストを使って魔力限界近いから、自分で治しなさい」

 真琴はそう言うと、いつの間にか買ってきていたスポーツドリンクを朔に手渡す。


「なに、ヒール使えるの?スカウトでしょ」

「そうなの。しかも無詠唱スキル。凄いレアスキルなんだけど、元パーティのヒーラーの子に気を使って隠してるのよね。もったいない」

「あ~、あるあるね。ヒーラーはヒール以外いいスキルに恵まれない人も多いからね、ヒールだけで十分なんだけどね」


 朔は真琴と千尋が話をしている間に、サイレントヒールを自分にかける。ただ歩いて何回か小走りしただけなのに、これだけ息が上がる。


「でもヒール使えるの便利ね。私の場合は使えないからヒーラーの子によく文句言われてたもん」


 ヒールが効いてきて、胸の動きが次第に収まっていく。やはり足も少し痛い。


 トロルと戦った時は、少しでも早くこの速度を使いこなしたかった。

 今は逆のことをしている。でも速さを使う前に、まず普通に動けるようになる。ただ普通を行うだけでも消耗が激しい。


「後、2、3 回やったらおわりね」

「もっとやりたいです」

 朔が即答した。


「頑張ったって上手くなるようなもんじゃないね、こういうの。一回クールダウンする時間も必要なの」


 千尋に言われて仕方なく従った朔は、どうにかして何かを掴みたくて集中して取り組んだが、結局初めの方が出来が良かった。


「はい、終了」

 真琴がヘイストを解除する。


 一歩動くと、普段の身体へ戻っただけなのに妙に遅く感じた。


「……遅い」

「それが普通」

「その感覚がなくなるくらいまでは練習した方がいいよ」


「ありがとうございました」

「またね」

 走ってきた息子に手を引かれ、千尋は公園の出口へ向かっていった。


 それから三日後。仕事の昼休憩にスマホを開くと、昨夜届いていたギルドアプリの通知が残っていた。


『ギルドランク昇格審査結果』

 通知を開く。


『審査の結果、探索者・後藤朔のギルドランクをDへ更新します』


 Dランク。夜間学校へ入った目的の一つだった。


 先日、ほぼ間違いなく上がると言われていたので驚きはない。それでも、自分の名前の下に表示されたランクがEからDへ変わっているのを見ると、夜間学校へ申し込んだ日のことが一瞬だけ頭に浮かんだ。


 本当に上がったんだな。少しずつ実感が湧いてきた。


 通知には続きがあった。Dランクで利用可能になる制度の案内。その下に、能力情報更新のための再測定について表示されている。


 Eランクに上がった時に一度やってるので、内容は知っている。そういえば、あれ以来能力測定はしていなかった。


 一人で潜った第三階層、ダイアウルフとの戦闘、学校での実習、隠し通路の発見、そしてトロル。最初に測定を受けた頃とは随分違う。


 朔は一番早い予約枠を選んだ。


 測定は平日しか行われていないので、有給を取ってギルドへ向かい、指定された測定室へ入った。

 職員の案内に従って測定器の前に立つ。


「前回の記録と照合しますので、そのまま少し待ってください」


 部屋の中央には、一人分の円形の台と、それを囲む白い測定器が据えられていた。左右にグリップがあり、背後から伸びた縦長のセンサーが、頭上で半円を描いている。


「中央に立って、両手でグリップを握ってください」

 職員の指示に従って台へ乗り、左右のグリップを握る。ひんやりした感触が掌に返った直後、短い電子音が鳴った。

 頭上から白い光が降り、身体をなぞるように足元まで動いていく。正面のモニターには人型の輪郭が浮かび、その脇へ数値が一つずつ追加されていった。


 続いて、表示された指示に合わせて何度か踏み込み、グリップを強く握る。以前にもやった動作だが、視線を感じがら決められたことをやるのは、間違えてないだろうかと不安になってしまう。最後の動作を終えると、もう一度電子音が鳴った。


『測定完了』


「結果を前回の記録と照合しますので、待合でお待ちください」

「はい」

 グリップから手を離し、朔は測定室を出た。


 待合の椅子でしばらく時間を潰していると、廊下の向こうから端末を片手に歩いてくる見慣れた姿があった。


「朔」

「真琴さん」


「ちょうど結果が回ってきたから、持ってきた」

 真琴は隣へ腰を下ろすと、そのまま端末を差し出した。


「結構変わってるわよ」


 受け取って画面を見る。クラスはスカウトのまま。そこは以前と変わっていない。

 その下に並ぶ身体能力の数値へ目を移すと、いくつかの項目が前回よりはっきり上がっていた。


「思ったより上がってますね」


 第三階層へ入るようになってから、ダイアウルフとも戦った。学校へ通い始めて実習も重ねたし、この前はトロルともやり合った。身体が以前と同じなはずはないと思っていたが、こうして数字で見ると実感が違う。


「そりゃ、あれだけやってればね」

 真琴が少し呆れたように言う。


 朔は苦笑しながら、画面を下へ送った。次に出てきたのは取得済みスキルの一覧だった。《索敵》や《熱知覚》をはじめ、見慣れた名前が縦に並んでいる。


 ざっと目を通し、そのまま指を滑らせる。一番下まで来たところで、止まった。見覚えのない名前が増えている。


「……これ」


 隣から真琴が画面を覗き込み、

「あ」

 小さく声を漏らした。


「新しいスキル、増えてるわね」


 朔はもう一度、その文字へ目を落とす。


《係留(アンカー)》


「アンカー……?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。