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第20話 救助訓練は順調……のはずだった

 課題は一般開放区の二階層で行われた。

「マップに表示されている場所に、負傷者に見立てたゴーレムがいる。それをここに連れてくること。A班は赤いピン、B班は青いピンを目指せ。以上」

 黒瀬はそう言って、その場の手頃な石に腰掛けてタバコに火をつけた。

 何人かの生徒が眉をひそめた。黒瀬は生徒たちの視線など気にもせず、「早く行け。始まってる」と言った。


 B班はすぐに反応して歩き出した。

「頑張りや!」

 そんなB班に、堂本は声をかける。

 久賀が愛想のよい笑顔を向けて手だけ振った。

「さて、俺らもやるで〜」

 堂本が先頭に立って歩き出した。


 朔は堂本の装備を見て、少し気になることがあった。

 重戦士のはずなのに、盾を持っていない。

「……盾は持たないんですか?」

「ああ、邪魔くさいからな。盾なんか持っとったら、思いっきり剣振られへんやろ」

 堂本はそう言って、笑いながら剣の柄を叩いた。

「重戦士なのに自分のクラススキル知らないんですか?」

 成瀬が眉根を寄せてそう言った。

「あれやろ、知っとる知っとる。防具の重量軽減やろ。でも性に合わんわ。俺はこのスタイルでいくんや」

 堂本がそう言うと、成瀬は大きくため息をついて堂本の後に続いた。

 朔と樫村も二人の後に続いた。

 歩きながら朔は、ギルドアプリのダンジョンマップで、先ほど登録した負傷者の場所を確認する。距離1.5キロ、徒歩20分と表示される。

 歩きながら、目を閉じて索敵を行う。目を閉じて歩くことには初めは不安があったが、索敵の精度が上がってからはそれも薄れていた。

 この階層の魔物の音は記憶している。だから、違和感にすぐ気づいた。いつもより魔物の音が多い。


「索敵しましたが、いつもより魔物が多いみたいです」

 朔は一応警告した。

「大丈夫でしょうか」

 いち早く反応したのは、ダンジョン経験二回目の樫村だった。

「そら、課題やしな。前の時も行きは大したことなかったけど、帰りが負傷者もおったし面倒やったわ」

 堂本は再履修組だ。前回もそうなら、魔物を呼び寄せる何かを施しているのだろう。


「でも、二階層の魔物なら楽勝でしょう」

 成瀬が興味がなさそうに言った。

「この先の広間にゴブリンがいます。数はたぶん二体です」

「ホンマか、凄いな後藤君。スカウトってそんなんできるんやな」

 そう言って、堂本は剣を抜く。


「戦うんですか、回り道ありますけど」

 成瀬が言う。

「さっき、いうたやろ。負傷者抱えてたら後々面倒やねん。先にやっといた方がえーねん」

 確かに一理ある。


「チャチャッと片付けるで」

 そう言って、堂本は広間に突っ込んでいった。

「ちょっと堂本さん、まだ付与魔法かけてません」

 樫村が慌てて止めようとするが、堂本は「大丈夫、大丈夫」と言って聞かない。


 実際の結果は、堂本の言う通り大丈夫だった。堂本がゴブリン一匹を簡単に倒し、もう一匹は成瀬が基本魔法のマジックボルトだけで倒した。時間のロスも大したものではなかった。


「ほら、すぐ終わったやろ?」

 堂本がそう言うと、樫村も安心したのか自然と表情が緩む。

「まだおるか、後藤君」

 堂本が振り返ってそう言った。少し得意げな印象を受ける。


 朔は言われるままに索敵を行う。

 何か擦れるような、小さな音が聞こえる。

 聞き覚えのある音だ。昆虫系の魔物。

 ただ、数はよくわからない。昆虫系の音は拾いにくい。二匹以上だということだけはわかる。

「この先の角を曲がったところに、昆虫系の魔物がいます。数は二匹以上としか言えません」


 この階層の昆虫系ならアーマービートルだろう。部位によっては硬くて攻撃が通りにくいが、それほど強い魔物ではない。

 速度がそれほど速くないからだ。ただし、しがみつかれるとかなり厄介ではある。Tシャツにしがみついたカブトムシのメスのように剥がすのが大変だ。


「あれやろ。でっかいカナブンやろ。ちゃちゃっとやってまおうで。そのほうが帰りが楽やしな」

 堂本がブレのない笑顔で言う。

「帰り道のことを考えたら、それもありかもしれませんね」

「拍子抜けですけど、学校の課題だったらこんなもんでしょうね」

 樫村や成瀬も同意見のようだ。


 間違ってはいないと思う。探索者の学校の実技はこれが初めてではあるが、安全に対する配慮はされているはずだから、淡々とこなせばいいのかもしれない。

 パーティー内にそんな空気が流れ始めた。

 ただ朔はどうしても引っかかるところがあった。それは堂本が再履修組だということだ。


「おっ、おったでカナブン。五匹や」

 五匹か。やっぱり昆虫系は索敵がしにくい。思っていたより数が多い。何かを捕食しているようで、こちらには気づいていない。


「かたまってくれてたら魔法でまとめて倒せるんですけどね」

「まあ、しゃあないわ、面倒やけど一匹ずつ片付けるか」

 アーマービートルは、雑魚キャラに分類されている。でも、それは倒し方が知れ渡っているからだ。

 アーマービートルはその名の通り、外殻が硬い。しかし、外殻の隙間に剣やナイフを差し込みさえすれば倒せる。


「ほないくで」

 堂本が、手近にいたアーマービートルを刺した。

 ブツッ、と鈍い音がした。続いて、ギィギィギギギッ、と脚をばたつかせながら、何かをすり合わせるような音を発する。


 他のアーマービートルが反応して、二匹が飛び立ち、残る二匹はこちらに向きを変えて後ずさった。飛んだ二匹のうち一匹が威嚇するように、ホバリングして堂本の前に立ちふさがる。

「なんや気合入ってるやんか」

 堂本が剣を引き抜きながらにやりと笑った。


「そいつじゃない!」

 急に上がった朔の声に、みんなが朔のほうを見る。三人が反応できないうちに、朔はホバリングする一匹をコンバットナイフで斬りつけて地面に落とし、天井へ逃げようとするもう一匹を追う。


 高くジャンプしてナイフを振るが、届かなかった。

 投げナイフをつかみ、そいつに投げつけるが、運悪く硬い外殻に当たり、弾き飛ばされた。

 そいつは天井にしがみついた。高さは四メートルくらいある。とても届く距離ではない。


「成瀬君、あいつを!」

 そう叫んだが、いまいち状況がつかめていない成瀬はすぐに反応できない。

「どうしたんや、後藤君?」

 堂本が首をかしげながら言った。


 次の瞬間。

「ジジジジジィィィ――ッ!」

 耳障りな振動音が通路いっぱいに響いた。


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