↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/44

第21話 中衛が前に立つとき

「なんや、うるさいの!」

 耳を塞ぎながら、堂本が音源を睨みつけて言った。

「アラームビートル。なんでここに」

 樫村も同じように言った。


 天井にしがみついているアラームビートルは、羽を小刻みに震わせて大きな音を鳴らしている。

 そこに拳大ほどの光弾が直撃する。成瀬が放った《魔弾》マジックボルトだ。

 アラームビートルは羽を砕かれ、足を痙攣させてそのまま地面に落下した。そこに朔がすかさずナイフを刺す。アラームビートルは少しだけ足を動かした後、そのまま動かなくなった。


 朔はそれを確認した後、先ほど叩き落としたアーマービートルの方に駆け出し、外殻の隙間にナイフを差し込む。ギーギーという音を放ち、足をバタつかせるアーマービートル。

 その音を聞いた他の2匹のアーマービートルが、羽を広げて地面から飛び立つ。

 一匹を堂本が剣で薙ぎ払い、地面に落とした後、剣を突き立てる。もう一匹の方には、成瀬がマジックボルトを放つが避けられ、そのまま奥に向かって飛んでいった。


「どういうこっちゃ。あんな音出すカナブン、俺初めて見たわ」

 堂本がそう言うのも無理はない。アラームビートルは一般開放区では出現しない。アラームビートルがいる時点で、条件付き開放区へとランクが格上げされる。


「あの教官、相当性格が悪いですね」

「学校のカリキュラムで、そこまでする必要があるんですか?」

 成瀬に続いて樫村も言った。このお二人は状況を把握しているようだ。


 朔は目を閉じ、索敵を行う。

「なんやなんや、どういうこっちゃ?」

 堂本がそう言うと、成瀬が堂本の前に手をかざし、唇の前に人差し指を立てて静かに黙るようにジェスチャーをする。堂本は眉をひそめて、何かを言おうとしたが、索敵を行ってるのを察して、それをやめる。

「さっき逃げた一匹を入れて、前から3匹アーマービートルが来ます」


 今度、正確な数を言えたのは、アーマービートルが飛んでいるからだ。飛んでるアーマービートルの羽音は確認しやすい。


「大げさにしとるから、もっとおるんかなと思ったら、たった3匹かいな。ほんなら、俺がちゃちゃっと片付けてきてやるわ。先手必勝や!」

 そう言って堂本は肩を回しながら、前方へと歩いていく。

「ちょっと待ってください、堂本さん」

 朔がそう言って止めたが、堂本はいつもの笑顔を向けた。

「心配するな。カナブン3匹くらい楽勝や。後からゆっくりしてきたらええ」

 と言って、そのまま歩みを止めずに前方へと向かう。


「そういう意味じゃなくて……」

 朔が堂本を止めようと前へ出ると、肩を掴まれた。振り返ると真剣な顔をした成瀬が、まっすぐ朔を見据えている。

「後ろからも来てるんですね。何体ですか?」


 朔が堂本を止めるために言おうとしていたことを、成瀬がそのまま口にしたので、少し驚いた。


「アーマービートルが3体、それとゴブリンが2体です」

 そう言うと、成瀬は考えるように朔から少し視線を外し、また朔に向ける。

「ゴブリンがいるんだったら、倒しておかなければいけませんね」


 成瀬の言葉に朔は驚いた。本来なら、そのことを説明しなければいけなかった。だが、それは朔が苦手とする部分だった。成瀬は、その部分を省いてくれた。


「それなら堂本さんを止めて一緒に倒すべきじゃないんでしょうか?」

 樫村が言った。その通りだと、朔も思った。そうするのが一番いい。


 こういう状況では、最大火力で片方を殲滅する方が手っ取り早い。しかし、このまま堂本を追って説得してる間に挟撃されるきけんもある。感覚的に堂本に説明するより、成瀬たちと動く方が早い気がする。

 ゴブリン2体くらいなら、朔と成瀬で十分対応できる。


 朔が頭を切り替えてそう提案しようと思った時、羽音が聞こえた。後方のアーマービートルの方が早かった。その羽音を朔は無視するわけにはいかなかった。


 成瀬は魔術師、樫村はエンチャンター、二人とも後衛職だ。スカウトは前衛ではない。だが、少なくともこの2人よりは前にいる。中衛職だ。

 この三人の間では朔が前衛になる。コンバットナイフを握る手に力を込める。


 朔は音源に向かって前に出た。


 音から察するに、ゴブリンとアーマービートルの間には距離がある。手早くアーマービートルを倒す必要があった。

 樫村さんを直接火力として数えるのは難しい。成瀬はどうだろうか。先ほど止まっているアラームビートルを撃った。しかし、飛行するアーマービートルへの攻撃は外した。それが成瀬の実力のすべてではないが、一つの判断材料にはなる。

 多分、成瀬は実戦経験が少ないのだろう。実際に動く的を狙う経験なんて、日常生活では積むことがない。


 一人でやる。もしくは、動きをとめた後の処理を任せる。朔はそうして、成瀬の役割を自分の中で整理した。


「落とします。仕留めてください」

 なるべく少ない言葉で朔は言った。


 自分で言っておいて不思議な感覚だが、朔は成瀬と共有してる何かを感じ始めていた。

 成瀬は何も言わずうなずき、姿を現したアーマービートルに視線を向けた。


「私は何をしたらいいでしょうか?」

 樫村が聞いてきた。


 朔自身は付与魔術を受けた事がない。多分、効果はあるのだろうが、それによって感覚が狂うリスクの方が大きい。


「成瀬君の射線を邪魔しないように、守ってあげてくれますか?」

 そう言うと樫村は頷き、成瀬の前に立って、持っていたメイスを握り直した。


「どれくらいの距離だったら確実に当てられますか?」

「10mくらいなら、あの大きさの的には当てられると思います。……動かなければですが」

 成瀬の回答は早かった。実戦経験は少ないが練習を積んでいたのだろう。

「頼みます」とぼそりと言って、前方のアーマービートルを見据えて待った。

 10mなら、これ以上前に出るわけにはいかない。二匹が同じくらいの距離で近づいてくる。


 騒がしい羽音と共に近寄ってきたアーマービートルを一匹、朔はナイフで叩き落とし、次の一匹に向かう。

 落ちたアーマービートルを、成瀬のマジックボルトが襲う。一発目は外れたが、二発目でトドメをさした。

 朔はそれを横目に確認しながら、叩き落としたもう一匹に自らトドメを刺した。


 残るは、朔の反撃を見てゴブリンの方に逃げた一匹と、ゴブリン2匹だけ。


 少し待ち時間ができた。

 堂本と合流した方がいいだろうか?

 そんな考えが一瞬浮かんで消えるくらいの時間。


 その考えを消したのは再び大きくなってきた羽音だった。しかし、姿はまだ見えない。代わりに見えたのは小学生低学年ほどの背丈の人影が二つ。

 その姿を見て、朔は眉根を寄せた。


 運が悪い。盾持ちと槍持ちだ。しかも、羽音はゴブリン達の後ろから聞こえてくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。