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ダンジョン好きの炎の姫

(ねえジグ。)

(言うな。)

(成人の儀式ってさ。)

(言うな。)

(地下五階層までだよね。)

(だから言うなっつってんだろ!)

(ジグ、強く念じ過ぎ。耳がキーンとする。)

ミルムが耳を押さえながら文句を言う。

念話だとどうやらこういう弊害があるようだ。

(…悪い。)

(よしよし、落ち着いて。どうどう。)

珍しく素直に謝るジグの頭をミルムが優しく撫でる。

(馬かよ俺は…。てか焚き付けたのミルムなんだけど。)


アニエス達は順調に階層を突破していった。五人の連携はほぼ完璧といって良かった。今日のために相当鍛えてきたのだろう。

そして何よりアニエス自身が強く強烈なリーダーシップを発揮していて、彼らはアニエスを中心にまとまりのある非常に優秀なパーティーだった。


そして今彼らは地下十三階層(・・・・)にいた。

アニエスの首には五階層踏破、成人の儀式達成の証明である豪奢な首飾りが光っている。

(どこまで行く気だ、こいつらは…。頼むからいい加減帰って…。)

ダンジョンは深く潜れば潜るほど、モンスターは強くなり、危険度は増していく。

そして一番厄介なのは深く潜ればその分帰り道も長くなる事だ。当たり前だが深く潜れば疲労も溜まるし多少なりとも傷ついていく。


深く潜りすぎていきなり強いモンスターに遭遇して傷を負い、慌てて引き返し帰り道でモンスターに遭遇して死ぬ。実はこれがダンジョンにおける一番多い死亡パターンだった。

そして暗殺者がいると仮定するならば、暗殺者にとってもチャンスは増えていくだろう。

そしてジグにのしかかる重圧も増えていく。


(くそがっ!まじ腹立ってきたぜ!ダンジョンの恐ろしさ分かってんのか?何が炎の姫だよ!ただのダンジョン馬鹿じゃねーか!)

(でも王女さん達まだ余裕そう。多分二十階層ぐらいなら普通に踏破する。ポーションもいっぱい持ってるみたいだし。)

ミルムが耳を押さえながら感想を述べる。

(…くそが。)

認めたくはなかったがジグ自身もそれは分かっていた。アニエス達はまだまだ余裕がありそうだったし、特にアニエスは眼を輝かせて、全身から力がみなぎっていた。実際彼女達の実力なら二十階層ぐらいなら余裕で踏破するだろう。

(てかダンジョンの事本当好きなんだな…。)

アニエスがダンジョン探索を心から楽しんでいるのが傍目から見てもよく分かった。


(どうするジグ?)

(どうするもこうするも見張るしかねーだろ。…ん?)

ジグは何か下の階層から異質な魔力を感じて動きを止める。

(これは…。)

(どしたの?ジグ。)

(悪いミルム、王女さん達の事少しの間任せていいか?)

(え?)

(なんか下から違和感を感じる。ちょっと集中して魔法使いたい。)

顔には出さないがミルムの心臓がバクンと鼓動する。

ジグにこんな事頼まれたのは初めての事だ。

信頼されている事が何より嬉しい、まさにこれがミルムが求めていた相棒の形だった。

(おー任せとけ。)

平然を装ってミルムは応え、ジグは目を閉じて集中する。

(頼んだぞ、探索魔法(サーチ))


探索魔法でジグは下の階層を探る、ジグが違和感を感じたのは二階層下の地下十五階層だった。


(…魔法使いがいるな…。何してる?あれは…召喚の魔法陣か!?)

ジグの違和感は嫌な方に的中してしまった。間違なくアニエスを狙ってる刺客だ。

何か強力なモンスターを召喚してアニエスを亡きものにする気だろう。

(ミルム。)

ジグは探索魔法を解除してミルムに声をかけた。

(どうだった?)

(二階層下に魔法使いが召喚の魔法陣を組んでる。奴らは恐らく強力なモンスターを召喚する気だ。)

(…!)

ミルムはその聞いた情報ではなくむしろジグの探索魔法の方に驚いていた。

普通の探索魔法は今いる階層の30メートル程度を探知するというのが一般的だ。

もちろんそのレベルによって範囲は広がっていくが、別の階層、しかも二階層を超えて探知できるなど聞いた事がなかった。


(こうなったら仕方ねぇ、もうあのダンジョン馬鹿はここで追い返す。)

(どうやって?)

ジグの表情が少し曇る。

(…ちょっと痛めつける。)

(ねぇジグ私達の任務って。)

(言うな。)

(ダンジョン馬鹿の護衛だよね。)

(だから言うなって!しょうがねーだろ!多少痛めつけねぇと止まらんぞ、あいつら!)


今もアニエス達の勢いは全く止まる気配はなくモンスターをなぎ払っていた。もう地下十三階層踏破は時間の問題だった。ちなみにほぼ全員無傷である。


(そうだね、よしよし。)

ミルムは耳鳴りを我慢しながら、優しくジグの頭を撫でる。

(それやめて、何か腹立つんだけど…。言っとくけど痛めつけるのは護衛の方だから、怪我人出ればさすがに退くだろ。 )

(じゃあ私は姫さん達の退路確保してくる。)

(分かってるじゃねーか。頼んだぞ。)

そう言ってジグは魔法を展開し始めた。


(おー、任せとけ。)

そしてミルムはアニエスパーティーの退路確保のために走り出す。胸の鼓動を抑えながら。

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