任務開始
(聞こえるか?ミルム。)
(ばっちり。)
成人の儀式当日アニエスを見張りながら、ジグとミルムは念話で会話している。
念話石。
石を持って魔力を込めると対の石を持っている相手とテレパシーで会話が出来るという優れものだ。
(そろそろ護衛対象がダンジョンに入るな。不可視魔法。)
ジグが魔法をかけるとジグとミルムの姿が透明化される。
(おー。)
ミルムが感嘆の声を上げる。インビジブルはかなり高ランクの魔法だった。
(効果は十分ぐらいだから気をつけろよ。)
(分かってる。)
そしてジグ達はアニエスに続いてダンジョンに入る。
入口には監視の兵士がいたがなんなく素通りできた。
三日前からこの試練の迷宮は王家の関係者以外は立ち入り禁止になっていた。
(さてとこれからが本番だ。…ん?)
見るとアニエスは立ち止まって何度も深呼吸を繰り返していた。
(何だびびってんのか?その割には護衛の数が四人とは少ねえなぁ。これじゃ普通の冒険者パーティーと変わらんぜ。まぁそっちの方が好都合ではあるけどよ。)
ジグにとってダンジョンのモンスターはそれ程脅威ではなかった。
五階層までなら大したモンスターは出ないし先回りして倒す事もできる。一番厄介なのはアニエスの仲間に裏切り者がいる場合だ。
護衛は常に近くにいる、殺すチャンスは多いし防ぎづらかった。
成人の儀式は暗殺の温床でもある。
それは歴史が証明していた。
王家の関係者以外立ち入り禁止のダンジョン、
目撃者は少ないし、周りにはモンスターが徘徊してる。
これ程暗殺に適した場所と状況はないだろう。
そしてダンジョンは何が起こるか分からない。
何が起ころうが自己責任。
それがこの世界の不文律だった。
(リーナがわざわざ俺に依頼してくるぐれえだから、あの王女さんは確実に狙われてんだろな。)
「ここがダンジョン!とうとうこの日が来たのね…!」
アニエスが呟いてスラリと剣を抜く。
その赤い刀身は暗いダンジョンでもよく目立っていた。
(あれは魔剣?炎の魔剣か?けっ、いかにも貴族らしい趣味してやがる。あんなガキに魔剣が使いこなせる訳がねぇだろ。)
魔剣の扱いはかなり難しく高度な魔力の操作を必要とする。
剣術はもちろん、使用者がある程度魔法を使いこなせないと、その能力を引き出す事は出きないのだ。
魔剣自体が貴重ということも相まってレベルの高い魔剣使いはそうお目にはかかれない。
「アニエス・ルーゼン!行きますっ!!」
アニエスは突如叫んで一気に走り出した。
(はっ?)
「アニエス様っ!?」
護衛達も寝耳に水だったようだ。ジグと同様慌てて後を追う。
(せっかちな王女さんだな!)
ジグは身体強化の魔法を使ってすぐに追いつく、ミルムもすぐ後ろに着いてきていた。
するとアニエスの前方にゴブリンの群れが現れる。
(ゴブリンか、雑魚モンスターだな、このぐらいさすがに護衛達でなんとかするだろ。)
「うなれっ!イグニス!」
「…!?」
ゴォッ!!
アニエスの魔剣からすさまじい炎がほとばしり、一瞬でゴブリンを業火で包む。
「ぎゃああっ!」
ゴブリンの群れは断末魔を上げながら息絶えた。
思わずジグは目を見張る。
(あらー、これは驚いたな。完璧とは言えないが一丁前に魔剣を使いこなしてるぜ。)
(オーバーキル。)
ミルムが呟く。
(確かにな、いやでもやるなぁ、あの姫様。)
ジグは素直に感心した、先程の攻撃なら上位のモンスターにも十分通用するだろう。
「アニエス様!先行されては困ります!」
「そうですぜ姫様。」
フィーナ達護衛がアニエスに追いつきたしなめる。
「ごめんなさい、つい興奮しちゃって。」
「まぁ無理もないですな、ようやくダンジョンに入るっていう姫の夢が叶ったわけですからな!」
そう言って大男がガハハっと豪快に笑う。
見た目と装備から察するに戦士で間違いないだろう。
後は女の騎士、魔法使い、僧侶がアニエスの護衛で着いていた。バランスの取れたパーティーと言えるだろう。
(夢…?あの王女さんはダンジョンに入るのが夢だったのか?だから鍛えてきたって事か。)
(炎の姫。)
ミルムから唐突に念話が入る。
(あん?)
(あの姫様の呼び名。)
パチン!
アニエスが魔剣を鞘にしまう。
燃える様な赤い髪と眼、炎の魔剣イグニス。
(炎の姫か、中々様になってるじゃねーの。)




