ジグ対アニエス
(ここまでは順調ね、私の力は通用してるわ。)
アニエスはモンスターを薙ぎ払い、剣を収める。
今撃退したのは中級モンスターだったが正直余裕で倒す事ができた。
(油断してはいけないけど、やっぱり嬉しい!努力してきたかいがあったわ!)
「さすがですね、姫様。」
フィーナがアニエスの元に歩み寄る。今日はメイド服ではなく騎士の鎧を装備している。
「皆のおかげよ、それにまだ十三階層。このぐらい出来て当然じゃないと。」
「ガハハっ!そうだぜ、フィーナ!姫の目標は三十階層だぜ!」
トッドのその発言を聞いてジグは思わず頭を抱える。
(三十階だぁ!?まじ頭湧いてんのかこいつら!姫さんが狙われてるって気づいてねーの?この姫さん頭も切れると思ったんだけどなぁ、ただの脳筋かよ。)
成人の儀式が暗殺の温床である事は王家の人間なら当然知っているだろう。しかも王が病に臥せっていて次の王が誰かはまだ決まっていないという状況だ。
(普通なら警戒して当然のはず。まさか、わざと反乱分子炙り出そうとでもしてんのか?まぁそうだとしてもそれはあんたの仕事じゃねー。俺の仕事だ。)
ジグは魔法を発動する。
(まぁ何にせよ、あんたの冒険はここまでだ。大人しく帰ってもらうぜ。)
*
「さぁ、皆行くわよ!くれぐれも油断はしないで!」
「はっ!」「おうよ!」
アニエスの号令でパーティーが動き出そうとした時だった。
アニエスの身体がブルっと震える。
「…?」
ふっとアニエスは笑顔を浮かべる。
(何?今さら、武者震い…?)
しかしアニエスはすぐに気づいた、これは武者震いではなかった。
(これは…?温度が急激に下がっている?)
「皆、下がって!」
アニエスが叫びながら剣を抜き構える。
(最初に気づいたのは姫さんか。十五歳で本当たいしたもんだぜ。でももう遅え。ダンジョンは何があるか分からんのよ!)
ゴォォォ!!
いきなりすさまじい吹雪がアニエス達を包みこんだ。
「…っ!?」
さすがのアニエスもこれには面食らった。
ありとあらゆるダンジョンの文献を読み漁り、冒険譚を聞いてきた、アニエスだがこの試練の迷宮で吹雪を操るモンスターは見たことも聞いたこともなかった。
(まさか、新種?)
一瞬戸惑ったアニエスだったが直ぐに冷静さを取り戻す。
(面白い!!これが私の求めてたダンジョンよ!)
アニエスの闘志は一向に衰えていないが、それにしても目も開けられない程のすさまじい吹雪だった。無理矢理目を開けてもほぼ視界は吹雪に遮られている。
幸いこの吹雪から直接ダメージを受ける事はないが、このまま視界が遮られているのは非常にまずい。
「はぁっ!」
アニエスは剣に魔力を込めると炎が燃え上がり前方の視界が多少開けるが敵の姿は確認出きない。
「皆っ!無事っ!?」
「はいっ!アニエス様もご無事で!?」
「私は、大丈夫!エマっ!マジックバリアいける!?
」
アニエスは皆の無事を確認してすぐに僧侶のエマに指示を出す。
「はいっ!」エマ指示を受けては直ぐに呪文の詠唱を始めた。
「魔力よっ!我を守る障壁となれ!マジックバリア!」
僧侶のマジックバリアが展開してアニエス達の周りをバリアが包み込む。
「よしっ!さすがエマね!」
マジックバリアで視界は開けたが、相変わらず敵の姿は見えなかった。
バリアの周りは相変わらずはすさまじい吹雪に包まれている。
(へえ、やるじゃねぇかあの僧侶、俺の吹雪を防ぐとは。でもそう甘くはねーぜ、俺の魔法はよ!)
ジグは吹雪の勢いを一気に強める。
「くそっ!姿見せねぇか!こらぁ!」 「落ち着け、トッド!」 フィーナが戦士をたしなめる。
「確かにこれではどうしようもないわ…、一体この敵は…。」
「アニエス様…!」
そこでマジックバリアを発動している僧侶のエマが苦しそうに声をあげる。
「エマ?どうしたの?」
「この吹雪はただの吹雪じゃありません…!ものすごい魔力が…。」
「…!?」
「も、もう…これ以上は!」
アニエスは驚きを隠せなかった。
エマは一流の僧侶だ。
まだマジックバリアを展開してから30秒も経っていないがエマの消耗具合は尋常ではなかった。
「アニエス様!ここは退きましょう!」
エマの様子を見てフィーナが叫ぶ。
「フィーナてめぇ!分かってんのか!?姫がこの日の為にどんだけ頑張ってきたか…!」
「分かっている!そんな事!一番近くで見てきたのは私だ!私だぞ!!」
「…ぐっ!」
フィーナがトッドの反論に言葉を遮るように叫ぶ。
そのすさまじい迫力にトッドも気圧されて黙ってしまった。
(…あの騎士は分かってるじゃねえか、姫さんの一番の忠臣ってやつか?戦士はただの脳筋馬鹿だな。)
ジグは探索魔法を使い、アニエス達の様子を見ている。
魔法の二重詠唱。
超高等技術だがジグの得意技の一つであった。
(頼むからさっさと退いてくれ。未知の脅威にさらされたらとにかく退く。それがダンジョンの鉄則だぜ。)
正直ジグにも焦りはあった。アニエスを狙う刺客が二階層下にいるのはほぼ確定的だ、最早何を仕掛けて来るかは分からない状況なのだ。
「アニエス様、この敵は危険です。撤退のご決断を。」
アニエスはぶつけようのない悔しさに襲われていた。
しかしアニエス自身、今自分が落ちいっている窮地は十分に理解している。
(ここで終わり…、あんなに努力したのに目標の半分も達成していない。でも。)
アニエスはすぐに決心した。
(何を言ってるの私は!?どうかしてた!私の夢なんて仲間の命には変えられないじゃない!)
「…撤退します!フィーナ退路の確保をお願いっ!」
「はっ!」
それを、見て思わずジグはほっと一息つく。
(よし、いい判断だ姫さん。痛めつける必要もなかったな。)
ジグはそのやりとりを見てアニエス達が逃げやすいように吹雪の勢いを弱め、範囲も縮小する。
それもあって、アニエス達はすぐに吹雪からの脱出に成功した。
「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ。」
エマが吹雪から脱出した途端地面に手をついて肩で息をする。
「エマ!大丈夫?トッド、エマをお願い。」
「はいよ!」
トッドがアニエスの指示でエマを抱きかかえる。
「ぜぇっ、申し訳ありませんアニエス様。私が不甲斐ないばかりに…!」
「何を言ってるの、貴方のせいじゃないわ。」
アニエスがエマに優しく声をかける。
「アニエス様!行きましょう!」
フィーナがアニエスを、急かす。
(アニエス様は私が命に変えてもお守りする!)
「ええ、でもごめんなさいフィーナ。ちょっと待って。」
「フィーナ様!?」
アニエスはニコリと笑って、スラリと魔剣イグニスを抜き魔力を込め始める。
「私やられっぱなしって嫌いなの。お願い分かって。」
「アニエス様…!」
ジグはその様子を見てアニエスが何をしようとしているかすぐに理解する。
(…面白え、受けて立つぜ、来いよ姫さん。)
「魔剣イグニス、力を貸して。」
アニエスが魔剣イグニスを構えて集中する。
すると瞬く間に、アニエスの全身に炎の魔力が溜まっていくのが目に見えて分かる。
まるでアニエス自身が炎に包まれているようだった。
そしてその炎が徐々にイグニスに全て集まっていく。
アニエスの赤髪は逆立ち、眼は燃える様に赤く輝いている。その姿はまるで炎の化身だった。
(…あれ、これちょっと…。)
思わずジグも息をのむ。
「アニエス様…!」
フィーナ達はその様子を固唾を飲んで見守っている。
「これぞ我が秘剣!」
アニエスはゆっくりと魔剣イグニスを振り被る。
「唸れ!イグニス!ファイアーブレード!」
ゴォォォッ!!
凄まじい炎がジグの吹雪目掛けて飛んでいく。
(やべっ!!)
バシュウッ!!!
アニエスの放った炎は見事に吹雪を貫きかき消した。
「よし!」
「さすがです!アニエス様!」
「姫!やったじゃねぇか!」
アニエス達は歓喜に沸いたが残念ながらそれは一瞬だった。
ゴォォォッ!!
すぐさま吹雪は復活してアニエス達の前方で再び猛威を奮い始める。
「…そっ、そんな。」
フィーナが悲痛な声をあげ、トッド達は絶句している。
「…ごめんなさい皆、すぐに撤退します!」
「…はっ!」
アニエスは複雑な心境だった。
(吹雪を貫き、掻き消した。私の炎は通用したの…?でも敵の姿すら見れなかった。はぁ…これじゃ完全に不完全燃焼だわ。)
*
(と、とんでもねぇ、ガキだ。俺の吹雪を貫くとは…。)
ジグは何とか寸前でアニエスの炎を避けたが、かなりギリギリだった。
直撃していればジグもただでは済まなかっただろう。
(まぁ何にせよ、後は地上まで守り抜けば、任務完了だな。)
アニエス達が撤退していくのを確認して、ジグは吹雪を解除してすぐに後を追う。
(危なかったねジグ。)
いつの間にか、ジグの隣にはミルムがいた。
(…見てたのかよ、ミルム。)
(退路は確保した、てか姫さん達がほとんどモンスター倒してたから、直ぐ終わった。)
(ねぇジグ。さっき姫さんがボソッと言ってたんだけどさ。)
(何だよ、…てか何か嫌な予感がすんだけど…。)
(完敗だ、初戦は。だって。)
ジグは先程アニエスを認めた事を後悔した。
(…二戦目あんの?これ。)




