ギルド長リーナとミルムの覚悟
ルーゼン王国城下町。
その往来は、冒険者、商人、労働者等様々な人々が行き交っており賑わっていた。
様々な出店の売り子の掛け声がその賑わいにさらに拍車をかけている。
「相変わらず活気があるね、ここは。」
ミルムが先程出店で買った串焼きを頬張りながら感想を述べる。
「けっ、金だけはありやがるからな、この国は。」
ルーゼン王国は豊潤な大地、鉱山等の豊富な資源、そして何よりも未踏破のダンジョンを複数有していた。
未踏破のダンジョンには未知の財宝やアイテムが眠っており自然と人々が集まり栄えていく。
「そして勘違い糞貴族どもはバカ高え税金を課して肥えていきやがる。てめーの実力でもないのによ。」
「ジグ、心の声が漏れてる。あっ、あそこの焼き鳥おいしそう。買ってくる。」
「まだ食うのかよ…、もう着くぜ。」
「すぐ戻る。」
パタパタと走っていくミルムをジグは半ば呆れつつ見送りながら酒瓶を取り出し一口飲んだ。
(緊張感ねえなぁ、あれが俺の初めての相棒か。)
元々ジグは相棒を作るつもり気などサラサラなかった。
ミルムの実力はジグも十二分に認めているが、
正直ミルムの強引さとしつこさにジグが折れた形だった。
とは言ってもジグの正式な雇い主の仕事はまだ一度も受けた事はないし、二人で仕事をする許可が出るかどうかも分からなかった。
そもそも根本的にジグには一人で仕事ができるという自信がある。
(ミルムはああ言ってるけど、多分リーナは反対するだろうな。そうなったら諦めてもらうしかないわな。)
「お待たせ。」
ミルムが焼き鳥を大量に購入して戻ってきた。
「お前、どんだけ食うんだよ。」
「いつも酒のんでる人に言われたくない、あとお前禁止。」
そこから少し歩いたところで、豪奢な建物が多い城下町の中でも一際目立つ大きな建物の前でジグは立ち止まる。
ルーゼン王国冒険者ギルド本部、二人の目的地だった。
「行くぞ。」
「ほーい。」
ミルムは口に串焼きを頬張りながら答える。
「本当緊張感ねえなぁ、全く。」
半ば呆れつつジグ達は扉を開けギルドに入る。
中は様々な冒険者達で溢れかえっており熱気が立ち込めていた。
その冒険者達がジグとミルムを品定めする様に一瞥する。
そして皆嘲笑の表情を浮かべた。
無理もなかった。
冒険者達は皆屈強でそれぞれ武器や防具を身に着けているがジグ達のそれはほぼ一般人と変わらない。
見た目もジグは痩せ型で、ミルムは小柄な少女、おまけに串焼きの包みを抱えていた。
「おい、兄ちゃん達、何しに来た?ここはお前らみたいのが来るとこじゃねーぞ。」
「てめーにゃ関係ねーだろ。」
ジグは因縁をつけてきた冒険者を軽くあしらって受け付けに向かう。
「今日はどういったご要件ですか?」
「これを。」
ジグは受け付け嬢に名刺を渡す。それを見た受け付け嬢の眉がピクリと動いた。
「…どうぞこちらへ。」
「おう。」
ジグ達は案内された部屋の扉を開ける。
質素ながらもまとまりのあるセンスのいい部屋だった。
その奥に一人の美しい女性が座っている。
ルーゼン王国初の女性ギルド長で元S級冒険者、下級貴族の出身ながらその実力で若くしてギルドの頂点に登り詰めた天才。
リーナ・マクマホン、ジグの保護者兼雇い主であった。
「待ってたわ、お二人さん。」
リーナが見事な金髪ブロンドの髪をなびかせながらジグとミルムに挨拶する。
「よう。」
「はぁい、ジグ!あんたは相変わらず素っ気ないわね〜。」
「リーナ、久し…ぶほっ!」
ミルムが挨拶しようとした瞬間、リーナがミルムとの距離を一瞬で詰めてミルムを抱きしめる。
「ミルムちゃん!大きくなったわねー!十年振りぐらいかしら!?」
リーナはミルムを抱きしめながらぐりぐりと頭を撫でる。
(縮地か。さすが元Sランク冒険者だな。あのミルムが避けきれんとは…。)
「リーナ、苦しい。」
「あら!ごめんなさいつい!あまりに可愛いかったものだから。」
「ロリコンかよ、リーナ。ギルド長の名が泣くぜ、ってうぉっ!」
リーナの放ったナイフをジグはかろじて避ける。
「リーナ!てめえっ!」
ズドン。
「ぐぉぉ…!」
ジグのみぞおちにミルムの拳が深々とめり込んでいた。
「誰がロリコンよ!」
「私は16歳、もう成人してる。」
「でめーら…、洒落になってねーぞ…。」
ジグは腹を押さえてうずくまりながら。かろうじて声を出す。
「ナイスミルムちゃん!」
「おー任せろ。」
苦しむジグを尻目にリーナとミルムはハイタッチを交わしていた。
「ったく、もうさっさと仕事の話、聞かせろよ。」
「それなんだけど、ミルムちゃんと話があるからジグは部屋の外で待っててくれる?」
「はぁ?面倒くせーな、さっさと話せって。」
「ジグ。」
「あん?」
「ルード・ノーランっていう貴族はご存知?」
リーナが満面の笑みを浮かべながらジグに質問する。
「ルード・ノーラン?」
(…何か最近聞いたような、…あ。)
ジグは昨日殺った貴族の事を思いだす。
「彼、今朝から行方不明なの、あなた何か知らない?」
「い、いや知らんなぁ。ま、まあ分かった、終わったら呼んでくれ。」
ジグは慌てて部屋を出る。
(相変わらず恐ろしい女だ、あれは疑ってるんじゃない確信してやがる。昨日の今日だぞ…。)
「はぁ、全くあの子は…。」
「リーナ、ジグは悪くない。やり過ぎかもだけど。」
「分かってるわよ、ミルムちゃん、私がこんな事言ったら駄目なんだけど、この国の貴族はねぇ…。」
リーナは確信していた、このままではこの国は滅ぶ。
この貴族至上主義のままでは。
だからこそ今回のジグに託す依頼は絶対に成功してもらわなければならない。
だから見極めなくてはならなかった、ミルムがジグの相棒として相応しいのか。
ミルムの事は調べ上げている、実力は十分だ。
問題はどこまで覚悟があるのかだ。
「ミルムちゃん、座って?」
「ほい。」
ミルムとリーナは机越しにソファに座った。
ミルムは飄々としていて掴みどころがない。
「ミルムちゃんはジグと一緒に仕事したいのね?」
「仕事というか、相棒になりたい。というか別にリーナの許可はいらない。」
ビクリとリーナの眉が動く。表情こそ変わらないが明らかに空気が先程とは変わる。
「ミルムちゃん、ジグの仕事はね。」
「分かってる、秘密裏の暗部の仕事。覚悟は出来ている。」
空気が変わったのはリーナだけではなかった。
ミルムはリーナの迫力にも一歩も引かずに真っすぐにリーナの目を見返して言い放った。
「私はジグを助けたい、一緒にいたい。私はジグを心から愛してるから。」




