第5話 ふたりの義姉はぴゅあぴゅあ?
ダイニングルームにて、ラヴィニア・カタヴルは正座をしていました。
「まったく。ラヴィニア姉さんはなんでいつもそうなんですか? いつもいつも落ち着きがない。それではいつまで経っても嫁のもらい先がみつかりませんよ?」
「……はい。すみません」
女は、義姉の顔を観察します。
シルクのように滑らかな銀髪に、雪よりも白い肌。目元は女騎士みたいに凛々しいです。
しかし、今は弟に叱られて、シュンと落ち込んでいる。
――すごくかっこいい見た目なのに、もったいない。
男装をすれば、あらゆる村娘の心を撃ち抜くほどなのに。女はそんな感想を抱きました。
「ルヴナン、大丈夫?」
キャダバーに問いかけられた女は、微笑んで頷きます。
「面白い体験でしたわ――っ!?!?」
ですが、わずかに傾いただけで頭部が取れかけてしまいました。
――危かった……。
「すぐに縫うから待っていて」
立ち上がろうとするキャダバー
「キャダバー様。使用人に任せてもよろしいのでは?」
彼は目を丸くした後、女に顔を近づけました。
「……ルヴナンは僕以外の人にされてもいいの?」
「いえ。食事の前に大変かと思いまして」
――私だったら絶対にウンザリするし。
「ルヴナン。いいかい? 僕以外の人には絶対にやらせないで」
キャダバーの表情を見た女は、不思議そうに目を細めました。
――あれ? なんか怒ってる?
「でも、大変ではありませんこと?」
「全然そんなことないから。むしろ癒しの時間になってるぐらいさ」
「指が傷だらけでも、ですの?」
「僕が望んでいることなんだ」
「わ、わかりましたわ」
女は納得がいってなさそうに、渋々と頷きました。
――キャダバー様も大概変な人ですわね。
「じゃあ。すぐに縫い付けるからね」
「あの……アタシはもういい?」
蚊帳の外になっていたラヴィニアが手を上げました。
「いいよ。先にご飯を食べていて」
「やったっ! 朝ごはん♪ 朝ごはん♪」
さっきまでのしおらしい態度は瞬時に吹き飛び、スキップを刻みはじめました。
キャダバーは呆れて額を押さえ、女は面食らってしまいます。
――まるでシベリアンハスキーですわね。
「それじゃあ、縫うね」
「よろしくお願いしますわ」
言うや否や、早速取り掛かるキャダバー。彼の表情は真剣そのもので、指の動きに迷いはありません。
しかし、首を縫われていくほどに、女の顔は真っ赤に染まっていきました。
――顔が近い。ずっと首、触られてる……。吐息がくすぐったいんだけどっ!
「ん? どうしたの? 痛かったのかい?」
女の様子がおかしいことに気付いたのか、キャダバーは不安そうに問いかけました。
「あ、あの……。首を触られるのは、ちょっと恥ずかしい、ですわ……」
やっと状況を理解したのか、キャダバーの頬も熱を帯びていきます。
「ご、ごめん!」
「い、いえ。キャダバー様は真剣に直してくださっているのに……」
「う、ううん。僕も配慮ができてなかったから……」
「わたくしの首なんか、見ても嬉しくはないでしょう?」
「何を言ってるの。とってもキレイだよ。ずっと見つめていたいぐらい」
「……そう、ですの」
ふたりが顔を背けながら無言になっていると、「ふふっ」と笑い声が響きました。
「何を見ているのですか? 姉さん」
ラヴィニアはニヤニヤしながら、頬杖をつきました。
「いや、新婚っていいものだなー、って思って」
「ご飯を食べながら喋らないでください。はしたないですよ」
「ねえ、キスでもしないの?」
「しませんわ!」「しないから!」
ラヴィニアがしれっと言うと、ふたりは同時に否定しました。
「息ぴったりじゃん。もう夫婦なんだし、屋敷のあちこちで乳繰り合ってもいいのに」
「姉さんっ! はしたないこと言わないで!」
キャダバーにたしなめられて、ラヴィニアは肩をすくめました。
その時です。
「ふわ~~~~。おはよ~~~~」
のんびりと部屋の扉が開き、小柄な女性が入ってきました。
肩まで伸びた灰色の髪に、小枝のように細い手足。そよ風で倒れてしまいそうなほどに儚げです。
彼女はあくびをしながら歩き、ラヴィニアの横で腰を下ろしました。
「おはよう、パロマ」
「おはよー、ラヴィニアちゃん。ルヴナンちゃんとキャダバーくんもおはよー」
「パロマ姉さん、おはよう」
「お、おはようございますわ」
――えっと、キャダバー様がお姉さんと呼んでいるということは兄弟なんでしょうけど、どういう順番なのかしら?
「ねえ、パロマはどう思う?」
「なにがー?」
ラヴィニアの問いに、パロマはあくび交じりに返しました。
「ルヴナンとキャダバーってもっとイチャイチャするべきじゃない?」
「う~ん、ふたりのことだから~」
「そう? 双子なんだから話を合わせてくれてもいいのに」
「ラヴィニアちゃんはせっかちすぎかも。ふたりに嫌われちゃうよ~?」
「はいはい。すみませんでした」
――おふたりは双子ですのね。
女はラヴィニアとパロマの顔を交互に観察して、眉をひそめました。
――それにしては全然似てませんわね。まるで大型犬とリスの家族みたい。
「ほら、できたよ」
そうこうしている内に、首は見事に繋がれていました。
動かしてみても、まったく違和感がありません。
「ありがとうございますわ。キャダバー様の腕には惚れ惚れします」
「じゃあ、朝ごはんを食べようか」
「はい」
それからは静かな食事の時間が続きました。
メニューはパンとゆで卵とサラダ。それにワイン。
意外と質素だと肩を落とす女でしたが、一口食べると目を輝かせました。
――シェフを呼びたい出来ですわ!
「ご馳走様!」
一足先に食べ終わったラヴィニアが立ち上がりました。
「姉さん、今日のお見合いは忘れないでよ?」
「わかってるわかってる」
不敵な笑みを浮かべるラヴァニアを前に、キャダバーは何度目かわからないため息をつきます。
「姉さん、本当に理解してる? 今回を逃したら後がないし、しかも相手の家柄は――」
「わかってるわかってる。大丈夫よ。アタシが本気を出せばどんな男もイチコロだから」
「……本当、姉さんの自信はどこから湧いてくるの?」
「もちろん、アタシの胸からだけど? もしかして、小さい頃みたいに抱きしめてほしいの?」
「姉さん!!!!」
キャダバーが声を張り上げると、ラヴィニアは逃げ出していきました。
――ふふふ。いいことを聞きましたわ。
そんな騒々しい空間にいながら、女はひっそりと口角を吊り上げました。
頭の中では様々な策略が渦巻き、どんどんと悪人面へと変わっていきます。
――乗っ取りの第一歩として、お見合いで大恥をかかせてやりますわ!




