二歩目 それでも僕らは立ち上がる
結局、僕は何がしたかったんだろう。冒険者から金を奪われていた人たちを助けたかった。だからあいつらを倒した。それなのに、助けたはずの人たちからは感謝されるどころか、迷惑だと言われた。
「正しいことって何なのかな。」
「わからねーな。自分が悪だと思っても他人から見れば正義ってことがあるし。それにしても、良かったじゃないか。ここ住める許可貰えて。」
フェニックスはそう言うと、僕の隣に腰を下ろした。
「まあ、あのことは気にすんな。ボスだってああいう人は嫌うじゃないし、それに俺はお前のその行動に感化されちまった。」
「……1人でも味方がいてくれると嬉しいよ」
「実はな……俺も昔は冒険者だったんだ。でも、儲けが出やすい警備の仕事をメインだ。」
5年前のある日。あの日はとてつもない量の雨で昼だっていうのに暗かったな。俺が帰宅しようとしていた時、近くで女性の悲鳴が聞こえたんだ。すぐ駆けつけると大柄な男が女性の腕を掴んでいた。すぐに助けなきゃって思って男の顔に向かって殴った。
「おい!俺を誰だと思ってる。治安維持のアーガスだぞ。俺の手にかかればすぐに警備員が来て牢獄にぶちこむことだってできんだ!それにそこの女を明日殺してもみ消すこともな!!」
当時の俺はどうせ大したことないイキってるやつだろうと思い込んでいた。けどあいつは本当に大物だったんだ。
俺は女性を連れてすぐに治安維持の事務所に向かった。事情を説明したらすぐに保護してくれた。しかし、俺たちを追いかけてたあいつが着いた途端治安維持官の顔は一瞬で豹変した。そしてあいつが俺を殴ったと言った。しかも女性の方まで手のひらを返して俺を犯人扱いされた。お偉いさんじゃなくて被害者の女性まであんなこと言われたら俺はもう牢獄送り確定になった。
そして3年経って刑期を終えて出てからは運良くすぐにパン屋で働くことができた。そしてその中で仲良くなった女の人もいた。人生の全盛期だったさ、でもよく言うだろ?幸せっていつまでも続かないって。
もうすぐ結婚しようと思ってた時、急に別れを告げられた。しかも昨日まで仲良かった友達までシカトしてくる。前科持ちってことがバレたからな。そして店長にもバレて俺はクビになった。そこから1年間無気力なまま時間だけが過ぎて今に至るって感じだ。
「そんな理不尽なことあってたまるか!」
僕はあまりの怒りに大声で言ってしまった。フェニックスはもう終わったことだし気にすんなと言うけどそれが僕の怒りをより加熱させる。なんで諦めてるんだ?フェニックスだったらこんな人生にはならなかったはずなのに。
「世の中上手くいくことなんてほぼないだろ。理不尽ばっかで生きてる意味を見失うやつだっている。いい歳なんだからそろそろそういうのには気づいてもらわないとな。」
「だから僕は本当に18なんだって。見た目はおっさんだけど昨日まで18歳としてワイワイやってたんだ!」
彼はありえないけどなんだか納得がいくなと言って横になった。それを見て僕も眠くなってきたのでそろそろ寝るとしよう。
4月2日(木)
窓がないから日の出の時間になるとすぐに日光が差してきてとても眩しい。僕が起きようとすると隣にフェニックスはいなかった。まさかおいてどこかへ消えたのかと思ったが人影が見えた。
「お、目が覚めたみたいだな。ここだと日光がすごいから朝早く起きちゃうもんな。この後のことについて話があるからこっちにきてくれ。」
ついて行った先には魚を焼いている焚き火と一人の男が座っていた。この男は昨日僕に叱ったボスのようだ。フェニックスがボスに会わせたいってのもあってここに連れてきたみたい。
「昨日の件は本当にすみませんでした!罰なら何でも受けます!自由に使ってください!!」
僕は全力で土下座をした。一見舐めてるのかと言われてもおかしくない言葉遣いだがこの時の僕はマジだ。ここに住ませて貰えた恩を返したくて仕方がなかったから。
「そんなこと言わなくていいさ。早く頭を上げてくれ、私があんたみたいな人を社会に戻すためにやってるんだ。あの件の責任はちゃんと取って貰うがもうその話はやめにして朝、取ってきたこの魚を食べよう。」
僕たちは魚を黙々と食べている。正直魚だけってまずいだろと思いあまり食欲をそそられなかったがいざ食べてみると味もしっかりしててこれ1つで満足できた。全員が食べ終えるとフェニックスが話し始めた。
「このあと、冒険者ギルドに行って仕事探さないか?昨日のお前の働きっぷりならたぶん大丈夫だ!俺も昨日のお前見てたらどうせ無理だって決めつけずに本気でやろうって思ったんだ。」
「やらずに決めつけるのは良くないがそれに気づけたのは素晴らしい。立ち上がろうとした時人は一番成長するからな。イデア、フェニックス、ギルドの場所はわかるか?すぐ行ってこい。ダメだったらまたゴミ拾いでもして明日またリベンジだ!」
ボスのこの言葉に僕は勇気を貰えた。諦めなければ可能性は無限大だ。これはオーディスがよく言っていたな。
本当にここが僕の知っているレインドラーシティには見えなかった。煉瓦造りの建物が増えてあの頃よく遊んでいた公園も建物に変わっている。今歩いている橋は昔からあったけど今は全然違ってなんだか自然らしさが失われているような感じがする。
「この辺ってゴミが増えたんだな。しかも布?とかまさか生活しているのか?」
「何言ってんだよ。さっき俺たちがいたところだって変わんねーだろ。ここもホームレスの溜まり場だ。ここ15年くらいから一気にホームレスが増えて治安が悪化している。もうお前が言ってるあの頃とは違ってここで遊ぶガキなんて誰もいない。」
悲しいような気もするけど時代が経てば当然だもんな。30年ってこんな長いのか。意外にも納得できないことはなくすんなりと受け入れられた。
冒険者ギルド前
いざ来てみると緊張するな。本当に仕事が手に入るか不安になってきた。すると急にフェニックスがバンッ!と僕の肩を叩いた。
「何緊張してんだ。失敗したって失うもんなんて何もないだろ。今の俺たちは無敵だ!当たって砕けまくれ!!」
彼の喝のおかげで僕は中に入ろうという覚悟ができた。
ガチャン。木の軋む音と鈴の音だけが響いている。「何のご用件ですか?」一人の本来の僕と同じくらいの歳の女の子がカウンターにいた。
「仕事をください!」
頭を下げて大きい声で言ったせいか相手は少し戸惑っている。以前に何の仕事をしているかを教えて欲しいと言われた。フェニックスは冒険者をやっていたと言い、僕は今も冒険者をしていると答えた。それなら冒険者のライセンスを見せて欲しいと言われ、確かポケットに入っているはずだと思いポケットの中に手を入れた。しかし何もない。あ、そうだった。あの日、宿の部屋に金やライセンスとかは置いていったままだった。
「ライセンスは家に置いていってしまいました………。」
「それなら名簿から探してみるので名前教えてください。」
僕の名前を言うと彼女は別の部屋へと行った。そして数分後戻るとそんな名前はないと言われた。そうか、30年経っているんだった。2年に一回更新しないといけないのだからとっくに失効している。でも、Aランクの冒険者はそこまで多くないはずだしきっとわかるはずだ。
「僕はオーディスって言う勇者の仲間のAランク冒険者だ!」
「オーディスってあのオーディス様?あの方はもう冒険者はやめてここの会長ですけど………。誰でも分かるような冗談は通じませんよ。本当は冒険者じゃないんですよね。」
本当だと訴えて続けたが信じてもらえない。にしてもあいつそんな出世したのか。すごく嬉しい……。それと同時にもう同じ世界にはいないような気がした。
いくら言ってもダメだったので冒険者だってことは諦めてとにかく誰でもできる仕事が欲しいと頼んだ。するとこの紙に名前、年齢、住所を書いて欲しいと言われた。
住所かぁ……………。フェニックスと一緒に筆を止めたままにしていると事情を察したようで以前の住所や実家の住所でいいと言われた。
フェニックスは以前住んでた住所、そして僕は実家の住所を書いた。紙を渡すとまたさっきの部屋へと行った。
「フェニックスさんは問題ないのですが、イデアさん、ここの住所は空き地ですので正しい住所を書いてください。」
もう一回見てみたが合っているはずだ。なのに空き地だなんてどういうことだ?まさかこの30年で両親はあの家を出たってことか。本当はそうだと認めたくなかった。だから、自分のことではないように言うしかなかった。
「すでに、両親は出ちゃったみたいですね………。もう何十年も顔を会わせてないですし。」
「申し訳ないですがイデアさんは厳しいですね。ん?」
どうやら1つだけ無条件でできる仕事があるらしい。それは1日だけの宿の掃除をする仕事だ。掃除はあまり好きではないが今はそんなこと言ってる場合ではない。フェニックスももちろん大丈夫だ、と言うので僕たちはその仕事をすることにした。出来次第では明日もできるかもしれないしあわよくばちゃんと雇ってくれてホームレスも卒業できる。まだ始まっていないというのに妄想だけがどんどん膨らんでいく。




