最初の一歩 心は勇者
「おっさん、見覚えない顔だけどボスに許可はとったんか?」
ボス?って誰だよ。それにここはどこなんだ?変に嘘ついて後で大事になったら嫌だから。僕はさっきまでの出来事を丁寧に話した。
話してももちろんこんなの誰も信じてくれない。むしろアル中なんじゃないかとか言い始めている。
「なぁ、おっさん。そーゆー妄想はいいから質問に答えてくれ。ここはボスから許可を得た証拠にカードが貰えるんだ。」
「持ってないよ。わりぃな、すぐにこっから出るよ。てか、なんで僕のことおっさんって言うんだ?まだ18だぞ!」
男達は呆れた顔で僕を見る。酒はほどほどにしろと言われ、現実を見せるために川へ連れて行かれた。
「う、嘘だろ…………………。」
現実が受け入れられなかった。誰がどう見てもおっさんだ。顎髭も立派に生えてる。あまりのショックに1分間ただ川を見続けていた。
よし!生きているんだからこれを受け入れるしかない!今の僕にはやることがあるんだし見た目なんてどうでもいいんだ!そうやって切り替えるしかなかった。
そういえば金とかはどこにあったけな?確かポケットに入れといたはずだと思い、手を入れる。しかし中には何もなかった。あぁ、どうしろって言うんだよ。金がなきゃ何も出来ないのに………。
「なぁ、頼みがあるんだけど……金の稼ぎ方教えてくれないか!!」
僕は頭を下げた。相手も戸惑っているが一人が僕の状況に気づいたみたいだ。その人が僕流の稼ぎ方を教えてやる!!と快く言った。
「まず、僕たちはホームレスだ。家もなけりゃあ職に就いているやつなんてほぼいない。金を稼ぐってよりは明日を生きるための飯を見つけるほうがメインだな。でも、金の稼ぎ方も教えてやるからついて来い!」
そう言われて数分歩くと着いたのは中心街だった。ここは僕でも覚えがある。あの大きな塔が特徴的な大都市「レインドラーシティ」だ。
その男いわく、金を稼ぐ方法はここのゴミを沢山拾って金に交換するらしい。地道だが合法だし周りからも悪い印象を抱かれないからおすすめだと言う。そして腹が減って来たらゴミ箱の中を開けて食べられそうなものを漁る。これはかなり抵抗感があるから極力やりたくないな。
「説明ありがとな!それと僕の名前はイデアだ!お前の名前はなんて言うんだ?」
「フェニックスだ。ホームレスの連中の中には悪いほうで有名な人とか元犯罪者とかがいるからあんま名前聞かないほうがいいぞ。そのために偽名で呼び合ってるんだ。」
同じ国の中だと言うのに自分の中の常識が通用しないのはなんだか不思議な気分だ。とにかく今はゴミ拾いをするとしよう!
3時間後
「これで十分だな!いやぁ〜すんごい疲れたわ〜。」
「おっさんだって言うのに箱から溢れるまで集めるなんてな。同世代として負けてらんないな。」
ここまで汗を流したのは久しぶりだ。思い出すと今までゴミ拾いなんてしたことないし、たまにポイ捨てをしたことだってあったな。もう終わったことだけどすごく申し訳ないと思う。
「冒険者はこんなのやらないからなかなかいい経験だっただろ。もう日が目線の高さまで来てるし帰ろう。」
彼がそう言うまでこんな時間になっているのに気づかなかった。あの男の人も一緒にいるうちにいいやつだというのに気づいたし、信用しても良さそうだった。
「ボスはそのうち来るはずだ。来たら今日稼いだ金を見せて働いているって証拠を見せるんだ。」
ボスは働かないで怠けている人を極度に嫌うようでそれがここに住む絶対条件らしい。フェニックスさんはお前の働きっぷりなら杞憂だな!と言っているが正直不安だ。さっきゴミ拾いをしている時に冒険者の文句が結構聞こえて来たからだ。
「あ、そうだ思い出した!今日は冒険者どもが金を奪いに来るから気の毒だが今日の稼いだ分全部あいつらに渡すんだ。」
なんで僕が稼いだ金だというのに渡さなきゃいけないのか意味がわからなかった。すると冒険者らしき服を着た男二人がやってきた。間違いなく金を奪いに来たのだろう。
「おい!テメェら今日は回収日だ。全員家の前にいたまま大人しく金を渡せ!!」
住居からぞろぞろと金貨を手に持った人たちが出て来ている。そして一人ずつ金を回収している。いや、回収しているというよりは強奪していると言ったほうが合っているな。そうこうするうちに僕の番が来た。
「何やってんだ。早く渡せ!」
「僕が汗流して稼いだ金をなんでお前らに渡さなきゃいけないんだ?」
「ここは俺たち冒険者ギルドのシマだからな。痛い目見たくないなら大人しく渡すんだな。」
僕は拒み続けた。すると向こうが僕の顔面に向かって一発殴った。でも倒れたら負けだと思った僕は必死に立ち続けた。
何度殴られたかわからなくなった頃、僕は耐えられなくなって倒れた。元Aランク冒険者だというのに情けない。武器職人じゃなくてオーディスみたいに勇者だったらこいつらを倒せただろうなぁ。いや、ここで僕が気を失ったらフェニックスだけでなくみんなにも迷惑をかける。立ち上がるんだ!立ち上がるんだ!戦っているのを見ている武器職人だろうが関係ない!心だけでも勇者になるんだ!!
「お、おい………あいつ立ち上がったぞ………。それにあいつの目の前に急に仮面みたいなのが出て来てる………。」
僕も言われて気づいたがなんなんだこの仮面は?自然と体が勝手にこれを持って被ろうとする。自分の直感に従うのは大事だな。
被ると何か起こるのかと期待したが何もなかった。そりゃあそーだよな。
「ど、どういうことだよ。こいつ急に甲冑着始めたぞ………。まるで時を止めてるみたいによぉ。」
僕もあいつらみたいに驚いている。え、まさか……そんなことあるのかよ。強く願ったのが関係しているのか?あ、あの時あのじいさんが言ってたことがそういうことだったのか!?しかし今はあいつらを懲らしめるのが先だ。何か勇者に似合いそうないい感じの武器があればいいけど……お!近くに使い尽くされた一本の木刀が捨てられていた。
僕はそれを手に取り、オーディスのように凛々しく構える。
「木刀如きに真剣に勝てるわけないだろ!!とっととやっちまうぞ!!」
彼らは走って僕の方へと向かう。オーディスならどうやってこいつらを倒すだろうか?
「戦いってのはな、相手に感情を揺さぶられないかが重要なんだ。逆に言えば相手を倒すには感情を見せなければいい。どこから来ても動じないように堂々と立つんだ。そうすれば圧で相手を弱らせられる。」
僕が武器職人になってすぐだった頃、僕にもオーディスが自衛のために戦いの基礎を教えると言った。あの時の僕は剣の扱い方くらいは知ってるし別に知る必要はないだろと思ってた。オーディスが「じゃあこの木刀を使って俺を倒してみろ」と言うので怪我をさせたらどうしようと思い手加減をして挑んだ。
「オラァーーーー!!!」
誰が見ても本気とは思えない一振りと気合いのない声でオーディスに木刀を下ろそうとした。その時、彼の顔を見るとそれはもうオーディスか疑うほどの圧を感じ、まるで巨大なドラゴンが目の前にいるような人間離れした雰囲気を感じた。一瞬だったが固まってしまい、その隙を突かれてあっさり木刀を素手で止められてしまった。
「怪我をさせたくないからって手加減しただろ?俺が武器職人なんかに負けるわけないだろ。でも、さっき言ったことが実感できたっぽいし良かった。いつかはお前もこれができるといいな!」
「あの時言ってたことがようやく身に染みた。圧だったよな。冒険者だろうが関係ない、今の僕は勇者なんだ!!」
そう声に出して言い聞かせた。すると剣を振り下ろそうとした男があの時の僕のように急に顔を変え始めた。その一瞬を見逃してはならない、僕は脇腹に向かって振り上げた。そして男はさっきまでの雰囲気はどこへいったのか尻餅をついて怯えている。
倒して喜んでいる場合ではなかった。すぐにもう一人がやってきて僕の右腕に向かって剣を振ろうとしている。完全に油断していた僕はそれを避けることができず当たってしまった。しかし、痛みはない。あの甲冑が受け止めたのだろうか?
男はさらにもう一振りしてきた。圧で圧倒することはできなかったものの次は木刀で剣を受け止めることができた。木刀が刃を食い止めているが今にも折れてしまいそうだ。
「はあああっ!!」
僕は死ぬんじゃないかと思うほどの力を入れて振り払った。しかし、バキッと木刀が折れてしまった。ここでパニックになってはダメだ。男も振り払った影響で剣を上に上げて体は空いている今がチャンスだ!この隙を逃すまいと腹に向かって殴った。こいつもさっきのと同じように倒れながら怯えている。
「勝った…………。」
やったよ、オーディス。僕もちゃんと誰かを助けることができた。だけど今は勝利に浸っている場合ではない。金を返さなければならないから。
「おい!みんなあいつらを倒したぞ!!今すぐ金を返すから待ってろ。」
しかし周りを見ると誰も僕のことをいいようには思っていないようだった。皆「何してんだ」と言わんばかりの顔だった。
「おい!これはどういうことだ?なんでこいつらが倒れてんだ?」
「僕たちの金を奪うのはおかしいと思ってやったんだ!」
「本来ここはな、住んじゃダメなんだよ。冒険者ギルドの土地だからな。だけど見逃してもらう代わりにこうやって金払ってんだ。お前が勝手に悪いと思ってもこっちからしたら居なきゃならない存在なんだ!もし明日冒険者ギルドがここにきて全員追い払ったらどうする?お前だけじゃなくて全員に迷惑かけるんだ。まぁ、お前のその勇気は認めるがよぉ。」
冷や汗が止まらなかった。良かれと思ってしたはずなのに悪人扱いされるとは思っていなかったから。僕のしたことは本当に正しかったのだろうか?その疑問がずっと頭に残っている。




