第0話 もう一度、生き直す
「かんぱ〜い!!」
酒場でグラスの当たる音が響き渡る。なんと言っても今日は僕たちのAランク出世祝いだ。しかし、こうやっても実感はほとんど湧かないからなんだか物足りない。なんかもっとこうチヤホヤされまくるような感じを想像してた。
「わりぃ、俺、用足しに行くから。」
そう言って団長のオーディスは外へと出た。するとうちの魔法使いのランドが顔を近づけながらひそひそ声で何かを言いたそうだった。
「なあ、最近オーディスおかしいと思わないか?あいつ飯の時外によく出ているし。それとさ、この間聞いちゃったんだけど、ギルドのお偉いさんらしき人と密談してるんじゃないかって噂があるんだ。しかも、殺しをして多額の金を貰ってるとか。」
あまりの衝撃に僕たちは誰も口を開けようとすらしなかった。あの人は困ってる人はみんな助けるような人だぞ。しかも身分なんて関係なしにだ。
しばらく沈黙が続いているが、僕は耐えられなかった。本当はそうじゃなくて落ち着くための口実が欲しかっただけなのかもしれない。僕は外に出た。
「金は用意したんだろうな?今日回収なんだからなわかってるよな?」
この声はオーディスに違いなかった。でも、こんな言葉あいつから出るわけないよな?それでも声が本人だから本当なんだろう。何度も深呼吸した。それでも、目の前の光景は理解できなかった。
「あぁ、もちろんさ!でも明日ならもっと用意できるぞ。だからさ、今日より明日のほうが徳だと思うぞ………。」
「あぁ、わかりましたよ。」
オーディスはさっきとは別人のように穏やかな声で言った。と思ったが次の瞬間、その男の首を掴んだ。
「誰がそんなこと言うと思った!!何がもちろんだ。こんな嘘で勇者様を騙そうだなんてよく思ったな!!」
あぁ!!という叫び声が聞こえ、混乱が解けた僕は隠れるのをやめてオーディスの前に姿を現した。
「人が……も、燃えてる…………。」
度重なる衝撃で思わず言葉が漏れてしまった。さっき話してた男の腹に剣が刺さったまま燃えてる。これが勇者のやる行いとは到底思えなかった。
「何やってんだよお前!!勇者がやっていいことじゃないだろ!」
「ク、クソ………。よりにもよってお前かよ。」
僕は何も考えずに彼に向かって拳を振るおうとしていた。しかし、彼の動きはスローモーションの世界を一人だけ普通の速さで動いているみたいだった。もちろんそれが当たることはなかった。戦うといっても僕達は仲間なわけでマジで殺し合う気なんてこれっぽっちもない。あの時は軽い一撃で済むだろうと思っていた。でもそれが命取りになった。次の瞬間、僕の胸には血で染まった剣が刺さっていた。
「真実を知らずに死ねるってのは幸せだと思うんだ。このまま理想を抱いたまま死ね。」
衝撃が重なっただけでなく唐突に刺されて脳の処理は追いつかなかった。「あぁ、死ぬのか……。」と思うことはなく気づいたら周りが真っ黒に染まり意識がなくなっていた。
「お前はまだ死んでいない。話がある。」
目を開けると球体のような物がある木の机と椅子に座っている黒髪に少しばかりの白髪が混じったおじさんがいた。僕は立ち尽くしているだけだった。
「お前、まだ生きたいと思うか?」
生きたいも何も死んだ実感がないから答えられなかった。向こうが察したのか今のお前は生と死の狭間にいるからまだ生き返る可能性があるのだと言う。僕は生き直したいと頼んだ。
「その代わりに一つ条件がある。それは1年間の間に多くの善行を行なって欲しいということだ。」
は?もう本当に訳がわからなくなってた。急に死んでそしたら善行やれってどういうことだよ。いくら腕をつねっても痛いだけだし。
でも、善行をしろって今までの僕からすればなんてこともない。全く重い条件ですらないしこんなに美味い話はない。
「あぁ、もちろん引き受ける。」
「どれほど善行をするというのが大変かはやればわかるはずだ。お前がこれから行くのは30年後の世界だ。今よりもはるかに悪行が多いから善行のやりがいがあるだろう。あと、アドバイスだが常に理想の自分をイメージしてそれを強く願うんだな。」
それってどういうことだよ!そう聞こうと思ったが目の前が急に光りだして真っ白な空間がそこにはあった。
4月1日(水)
「う、うっ………。」
ここはどこだ。ゴ、ゴミが大量にある。それに廃材?らしきものがあるのか?布もあるしここは廃材置き場なのかもしれない。
なんだか背後に誰かいるような感じがした。振り向くとそこには3人の人達がいる。
「おい、おっさん!ボスの許可なくここに立ち寄らないで欲しい。」
まただよ……。困惑がずっと続きそうだ。




