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第89話 バーン帝国

 突然に転移室からのアラームが屋敷内に鳴り響く。


「誰だろう、こんな時間に……」


 悪い予感しかしないぞ。


「はい、どなたですか?」

「アルフレッド君。居てくれて良かった。私だよ」

「陛下! すぐ開けますので少々お待ちください」

「うむ、頼んだ」


 悪い予感が当たってしまった。


「アルフレッドさんこんばんは。お父様に頼んで私も連れてきてもらいましたのよ」

「お久しぶりです、マーガレット殿下」

「あら、お忍びだからメグでよろしいんですのよ」


 そんなわけにはいかないだろう。ニコニコして何考えているか分からないお父さんがいるんだから。メイドさんたちは、国王様と王女様の突然の来訪に驚いて動きが止まっているし。


「国王陛下、ささ、こちらへどうぞ」


 そんな中、グラハムさんだけは落ち着いた動きを見せている。流石だ。


「わたくしは今日、美味しいお菓子を持ってまいりましたのよ。是非エミーさんとミラさんとで女子会? ……をしたいですわ」


 貴族社会ではお茶会というのだろうが、もっと気軽にわいわい騒ぐのを“女子会”と言うのだと前に教えたことがあって、それを覚えていたのだろう。


「私たちは、別の場所で話さないか? ジェームス君も一緒にいいかい?」


 グラハムさんは陛下を応接間に誘導してくれた。そして俺たちも応接間に導かれる。


(女子会の3人は反対側の居間で楽しく女子会をするんだろうな……いいなこのやろう)


「ごゆっくりどうぞ」


 お茶を運んできたファティマさんは、女子会のお菓子を男子会の方にも少し分けてくれた。いやいや、男子会って言ってしまったが、ちっとも楽しくないぞ。


「陛下、それで今日はどのようなご用件で?」

「小声で話すから、よく聞いてくれないか?」

「はい、わかりました」


 俺も小声で返事をする。よく異世界物で結界とかの魔道具があるけれど、この世界には無いようだ。ん? 風魔法で作れるんじゃないか? 作るか? ……いや、今はそんな場合じゃない。


「実はねぇ、北の国バーン帝国の動きがきな臭いんだよ」

「あの独裁政権のバーン帝国ですか?」

「そうだ。密かに潜入させている複数の諜報員からの報告によると、兵の間で変な噂が話されているらしいのだ」

「変な噂というのは?」

「ダカンテという湾岸都市で軍艦を何隻も作っているという噂が流れている」

「戦争の準備をしているという事ですか?」


 グランデール王国は、リーディアス地方という海に囲まれた島の中にある。大きな山で3つに分断されたこの島は、中心がグランデール王国、その北の山を越えたところが今話をしているバーン帝国、南の山を越えた先がカルトール公国という3つの国家に分かれている。

 北と南、どちらの国も国交は無く、北のバーン帝国に至っては過去に何度も侵攻を企てている。そのほとんどは船を使っての侵攻だったという。


「そうではないかと私は睨んでいる」

「どうされるのですか?」

「情報収集にはもっと力を入れなければならない。それに加えてエルミンスターとブリストルは守りを固める必要がある」


 メガンテという湾岸都市は周囲を城壁によって囲まれており、人の行き来も厳重に管理されているようだ。我が国の諜報員もさすがにメガンテに入るのは難しいらしい。

 それにエルミンスターとブリストルはどちらも、軍艦で攻められる可能性としては容易に考えられる街だ。そして、メガンテはブリストルのすぐ北に位置するから、可能性としてはブリストルの方が高いのではないだろうか。


「北の狙いはブリストルだけではないと考えるべきだ。先ずブリストルに軍艦を移動して脅威を示し、こちらが兵をエルミンスターからブリストルへ移動させるのを待って、エルミンスターを陸から攻めて来るというシナリオも考えなければならない」


 なるほど、両方から攻めるという手もあるわけか。


「そこでだ、アルフレッド君。私は君が開発した武器の量産を指示しようと思っている」

「はい」


 そう来るだろうと半ば予想はしていたが、どの武器を用意するのだろうか?


「エルミンスターの方には、歩兵隊、騎馬隊用に魔術スクロールと魔道大剣、それに魔道ライフル。ブリストルの方には魔道ビームライフルと大砲発射の魔術師用に魔道ロッドを依頼したい」


「魔道ライフルと魔道ビームライフルは、対人戦闘には使用できませんよ?」

「ああ、分かっている。バーン帝国には魔物の使役を得意とする使役術師が多くいてね。それらがエルミンスターの北に集められていることが判ってきたんだ。だから、エルミンスターは初め魔物に襲撃させる可能性が高いとみている。ライフルと大剣は対魔物用だよ。それから魔道ビームライフルは対軍艦用に用意したい」

「それなら承知しました」


 魔道ロッドとスクロールは俺が作ってしまったも物だし、他の武器はトラビンさんやガレットさんの力を借りなければならない。どのくらいの納期で何台作るかをしっかりと聞いておかなければ後で問題になりそうだ。


「それで、何を何台、いつまでに用意するという計画などはございますでしょうか?」


 いかんいかん、地球のビジネス会話になっている。


「そこら辺まではまだ決まっていない。先ずは君に第一報を知らせて準備を進めてもらいたかったんだ。そしてジェームス君には、エルミンスターに魔道大剣を支給する際に、兵の指導をして欲しいんだ」

「それだったら大丈夫です、お任せください」

「助かるよ。そして魔道武器の製作は、くれぐれも極秘事項で頼むよ。先ほど君が言った量産計画については、追って宰相をよこすから金銭的な面も含めて話し合って欲しい」


 それだけ言って、陛下は戻って行かれました。


「とっても楽しかったですわー女子会! また来ますわね!」


 そう言って、王女殿下も戻って行かれました。俺は『楽しくなかったですわ男子会』って言いたいけど言えない。


◇◆◇


 グランデール王国の王都エルテルスから北に1800km離れた場所、バーン帝国の首都バーンでは密かな会談が行われていた。


 私の名前はキリマン・ドゥ・ブルドン、バーン帝国の偉大なる主導者ヴァリオン・ディ・メディッチ皇帝陛下のもとで宰相として働いているものだ。


「宰相、例のダカンテでの建造の方は問題ないか?」

「はっ、順調でございます。昨年から鉄の生産量が増えましたので、予定の工期通りに進んでおります」


 昨年よりゴトフ鉱山からの坑道を更に伸ばし、鉄鉱石の鉱脈が発見されたことから鉄の生産量が増えた。南に250キタールと坑道を伸ばすのは大変な苦労だったが、これによって皇帝陛下の要望に応えることが出来たのだ。


「ふむ、ではあと1カ月工期を短縮せよ。」

「1カ月ですか! ……はっ、なんとか短縮してみせます」


 それは無理だと言えば、私の首が飛ぶのは目に見えている。皇帝陛下はそれほど短気なお方なのだ。やれやれ、1カ月短縮ときてしまったか。

 もちろん、保険の為に予定の工期より早く進めているのではあるが、1カ月短縮するには工場の奴らに寝る時間を削って働いてもらうしかあるまいな。


「例の二人組の情報はどうなっている?」

「はっ、彼らの報告によりますと、王国はこちらの動きに全く気付いていないようで、国民は皆だらけた生活を送っているようです」

「フフフ、王国の奴らは油断しておろうな。事を起こすならば今が好機だ。建造を急げ」

「はっ、畏まりましてございます」


「して、敵の軍艦は前と変わっていないのだろうな?」

「はい、船体は変わっておりませんが、搭載する大砲の大きさが以前と比べ2割ほど大きくなった様だとの報告が入っております。しかし、我らが軍艦を前にしては全く歯が立たないことは明らかです」


「そうだろう、そうだろう。大砲が多少デカくなったところで全く影響ない。こっちからの先制攻撃で、それら諸共木っ端微塵にしてしまえ」


「あやつらは平和ボケしておりますからな、建造を急ぎ一気に攻め込みましょうぞ」

「平和ボケしたまま何も分からずに滅んでしまうとは、奴らも憐れよな。ふっふっふっふ」

「左様でございますな、はっはっはっは」

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