第88話 快適な我が家に
今回雇い入れたのは11人。
執事のグラハムさん(55)
メイドはファティマさん(36)、ハナンさん(24)、タリアさん(17)の三人。
料理人2人、庭師2人、守衛2人、それに御者兼雑用係のローランスさんを雇った。
タリアさんを除いて、みなさん年上だ。それも当然か。
「わたくしは、本日からでも大丈夫でございます」
他の使用人たちは色々と準備があるので、3日後から来てくれるようにお願いした。だが、グラハムさんは今日から仕事をしてくれるという。
経験が豊富な彼は、「先に金銭的な計画を立てて、準備をしておく必要があるのです」と、そのまま残ってくれた。
グラハムさんとは少し打合せをした後に、当面の資金として魔道トートバッグから金貨10枚を取り出して渡した。給金は月末払いなので、今必要なのは備品代くらいだ。
「当面は、これだけあれば十分でございます」
「あとは、今日作った屋敷のギルドカードで運営をお願いしますね」
「畏まりました。お任せください」
使用人たちがいったん帰った後、俺たち月盟の絆の4人は居間に集まってこれからの事を話し合った。
「貴族になってしまって、王国からの招集や要望には応えなければならないけど、基本的に俺は冒険者を続けたい。冒険者パーティ“月盟の絆”をこのまま続けていきたいんだ」
ルナ迷宮は踏破したが、月盟の絆にできることは、もっとあるはずだ。
「私はそれで構わない。この4人がずっと一緒にいられるのなら、それでいいよ」
「お前が男爵になっても、伯爵になっても冒険者を続けていくってんならそれでもいいぞ」
「アルの好きな事をやればいい」
やっぱり、みんないいやつだな。
◇
使用人たちがやってくる日になった。
グラハムさんのおかげで、スムーズに使用人が仕事を始められた……そんなある日。
「洗濯場ねえ……」
「はい、洗濯場です」
使用人は住み込みが多いので、自分の洗濯物は自分で洗おうとする者が多い。それは仕方ないが、ジムたちも騎士団や寮での習慣が抜けておらず自分で洗おうとする。
「ジェームス殿にも『メイドにお任せください』と何度も申しましたが、『自分でやるからいいよ』と聞いてくださらないのです」
「それで洗濯場が込み合うと」
「はい、エミリー殿とミラベル殿も一緒になることもあり……洗濯は朝の早いうちに集中しますので」
この屋敷の洗濯場は決して狭くはないのだ。脱衣所の隣に設けられた洗濯場は、坪で言えば15坪ほどの広さがある。
ここに、月盟の絆のメンバーが同時に入ると邪魔になる……いや、身動きがしづらくなるのか……。
少し考えた結果、俺は魔道洗濯機を作ることにした。この世界の洗濯は、まだ桶での揉み洗いだ。冬には手にしもやけやあかぎれを作る人もいるのだ。
「そういう訳で、ガレットさんの所に行ってくる」
洗濯機には大量の水を使う。腐食対策を考えると、この世界ではステンレス板でケースを作るしかない。
ルナの町のガレットさんは、その方面に詳しいから話がはやい。
ちなみに、ルナの町にはフェアリーナイト宿泊所に残している魔道転移ドアから行ける。
俺は屋敷の2階の転移室に設置している魔道転移ドアにフェアリーナイトへの暗証番号を入力してルナの町へ転移した。
「アル坊か、久しぶりだのう」
「でもこんな俺をアル坊って呼んでくれるのはガレットさんだけですよ」
「そうかのう、何か悪かったのう」
「いえいえ、これからも気安くそう呼んでくれる方が嬉しいです」
ガレットさんは、今でも俺に対する対応がブレなくて気が落ち着く。
「今日はどうしたのかのう」
「そうだった、今日はこんなものを頼みたいと思って来ました」
予め作成した魔道洗濯機の図面を、ガレットさんに見せて確認してもらう。
「そうだの、加工しやすいように良く出来た図面じゃから、1週間ほどでできそうじゃわい。2つだったら10日ってところかのう」
「ありがとうございます」
さすがに仕事が早い。
「ところでこれは、何をする装置になるのかの」
「洗濯物を自動で洗濯する為の機械ですね」
「ほほーう、お主は相変わらず変わったことを考えるのう」
褒められていると、解釈しよう。
◇
ガレットさんに外装を作ってもらい、その後数日かけて俺が魔道回路を組み込んだ。
そして今日。内部まで組み込んだ魔道洗濯機を、俺とガレットさんとで屋敷の転移室に運び入れようとしているところだ。
「ここなら表からは見えんじゃろうて」
「くれぐれも国家秘密ですからね」
宿泊所の魔道転移ドアを使うのは現実的ではない。ガレットさんには秘密厳守を約束してもらい、作業場の片隅に魔道転移ドアを設置させてもらったのだ。
(このドアの存在が漏れたら、俺もガレットさんも危ないかも知れない)
「測ったようにギリギリだのう」
「ははは、測ったからですよ」
洗濯機は魔道転移ドアをギリギリ通る幅に仕上げているのである。
俺の屋敷の転移室からはジムにも手伝ってもらって、1階の洗濯場まで運んで設置する。
「水はここに繋いでください」
「ここから分岐させればよいかのう」
この屋敷には魔道ポンプが設置されていなかった。改修時に井戸にポンプを設置してもらっているので、鉄管による配管もガレットさん頼みだ。
興味津々のメイドさんたちと執事のグラハムさんが集まってきた。
「ご主人様、これは何をする機械なのでしょうか?」
「タリアさん、これはですねえ……自動で洗濯をしてくれる機械なんだよ」
「えっ、洗濯をですか?」
「そう、洗濯物をこの中に入れてスイッチを押すと、自動的に水を吸い込んで洗濯をしてくれるんだ。搾り作業もしてくれるから後は取り出して干すだけだね」
「すごーいですっ! ……でもご主人様、それだと私のお仕事が無くなっちゃいます」
「タリア、仕事はいくらでもあるわよ。まず窓だけで何枚あると思ってるの」
先輩メイドさんたちから、ツッコミが入る。
「大丈夫だよタリアさん。干すのも結構手間だし、その他にも掃除や給仕、ベッドメイキングなんかも大変でしょう?」
(あ、他にもできるじゃん魔道具)
今言った中では乾燥機に掃除機、それに食器洗い機。流石にベッドメイキングは、人型ロボットの魔道具が要りそうだけど、そんなもの作ったらタリアさんが泣きそうだ。
実演は、メイドさんたちは勿論、執事のグラハムさんと使用人のローランスさん、月盟の絆のメンバーにも来てもらい実施した。
みんなが興味津々で、洗濯機の動きを見守っている。
「途中で手を入れたら危ないので、蓋があります。動いている時には蓋が開かないようになっているので、もし何かあって蓋を開けたい場合はこの“停止”ボタンを押してください」
ちなみに、洗剤は粉せっけんだ。MR装置に蓄積されている情報によれば、詳しい配合や作り方が記録されているので比較的簡単に作ることができた。
洗濯機を試運転してみると、皆が一堂に中を覗き込む。小さなガラス製の窓があるのだ。
「回ってますね」
「ええ、回ってますわね」
振動設計もしっかりしたから、意外に音は小さい。その分水の音がして、洗っている感が良く出ている。
少し時間がかかるからと言って、みんなには30分後に集まってもらうことにした。
「いつも洗濯物を搾るのが大変なのよね~」
「わぁーでも凄いですよこれ、凄くきれいになってますぅ!」
「これだと、乾いたら真っ白ですね」
エミーやハナンさん、それにファティマさんからも絶賛を受けた。
「これは是非一般にも売り出すべきです! 絶対に売れますぞ。ご当主様が発明権を登録されますと、発明権料の収入だけでも如何ほどになることか……」
ちゃんと考えてますよ、グラハムさん。
「ガレットさんとの共同開発にしているから全額ではないけれど、今回は利益の40%が収入として入ります」
グラハムさんに説明すると、「この屋敷に雇っていただいて、私は幸せです」と両手を握られた。
(いや、男の人から手を握られても、俺は嬉しくないから)
その後、開発者魂に火がついて、魔道掃除機、魔道衣類乾燥機、魔道食器洗い機、魔道芝刈り機まで作ってしまったのはご愛敬だ。




