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第84話 転移ドア設置の旅1

 屋敷の改修には1カ月ほどかかるとの話だったので、陛下からの指令である魔道転移ドアの設置をするための旅に出ることにした。

 月盟の絆のメンバー4人での旅だ。


 フェアリーナイト宿泊所はそのままに魔道ドアを設置したままにしているので、交代で寝に帰ることも出来る。野営もたまには良いが、やはりベッドで寝る快適さは何物にも代えがたいのである。


「アル君、魔道ドアっていつ作ってるの?」

「枠の発注は昔世話になった木工所に、家を買うかなって言った日に発注したけど」

「そうじゃなくて、魔法陣とか魔道回路とかよ」

「魔法陣は一度作っちゃえば、あとはコピペでいくらでも複製できるし、魔道回路は道具をたくさん持ち運べるようになったから、どこでもできるよ?」

「こぺ、こぷぺ?」

「ああごめん、一度作った魔法陣は全部記憶していて、”こうしてピッとやればペラペラ”って書けるんだ」

「こうしてピッとやればペラペラねぇ?」

「そう、略してコピペ」


「ふーん。そういえばさ、アル君って時々変な言葉使うよねぇ」

「へ、変な言葉って?」

「野営した時とかによく、意味分かんない寝言言ってるよ? 『よかよか』とか、『何とかわからん』とか……」

「ぶほっ、俺そんなこと言ってんの? 何とかって?」

「んー、いー何とか」

「いっちょんわからん?」

「あっ、それそれ!」


 俺の中の日本人としての記憶が寝言に出ているのだろうか。多分、夢の中で魔法陣の解析とかプログラム組みとかしていると思う。


「夢の中で俺は、たまに遠い世界に飛んでいく事があるんだよ。その遠い世界の言葉はこことは違う言葉だから、現地の人が喋った言葉を一生懸命真似してるんだろうと思う」

「ふーん、そういう事にしといてあげる。今はね」


(エミーは鋭いからな。いつかはエミーにも本当のことを言わなければならないだろうな)


 各都市には馬車で向かう事にした。宰相のコールリッジ公爵と詳細の打ち合わせをしたら、移動に使う馬車は王宮騎士団で魔物の討伐時に使う馬車を使ってよいとのお許しが出たのである。

 今はジムが御者を務めて、その横にはミラが座っている。


「何か最近、ミラがジムと一緒にいたがるのよね」

「まあ、仲がいいのはいい事じゃないか?」

「フフフ、まあね」


 魔道転移ドアの最初の設置都市は、港町エイヴォンだ。前回訪れたのはセージトータスの討伐を行った時だが、領主様には会っていない。


「エイヴォンの領主様は侯爵様だっけ?」

「うん、そう。陛下の第3王妃様の兄さんにあたる人だから、メグの伯父さんになる人だよ。だから、俺たちの事はよく知られていると考えたほうがいいね」

「メグの伯父さんかぁ」


 王都から馬車に乗って6日目にエイヴォンの町が見えて来た。人口が約8万人の港町で、グランデール王国では2番目に大きな都市である。

 エイヴォンに到着する2日前にエルムの町から王宮に報告書を提出しているので、宰相殿からは明日訪問が出来ることを伝えてあるはずだ。

 今日は前に調査隊と泊まった宿に行って、ゆっくりすることにしようか。


「アルフレッド騎士爵様、到着されましたら領主館へご案内するよう指示をもらっております。私が馬で先導しますので、後を付いてきてください」


 門番さんにしっかり捕獲されてしまった。


(前に来た時、騎士団長さんが何か言ってたから予想はしていたんだけどねぇ。まあ、仕事だから仕方ないと諦めるか)


 という訳で、エイヴォン領主館では監禁されそうです。


「お招きいただいて有難うございます。陛下より、魔道具の設置の命を受けて旅をしておりますアルフレッドでございます」

「よく来てくれましたねぇ、エイヴォンの領主をしております、フレデリック・クラーク・エイヴォンです。いやー先日は騎士爵となられて大変おめでとうございます」


 謁見の間での叙爵時は、エイヴォン領主様も参列されていたが話はしていない。


「身に余る光栄で、戸惑っているのが正直なところです」

「いやいやー、2年ほど前に獣人族の村がセージトータスに襲われたとき、第一線で活躍なさったのがアルフレッドさんと聞きましたぞ。あの時はこのエイヴォン領の住民を助けてもらいまして有難うございました。お礼が大変遅れましたのは本当に申し訳ない」


 レオノールさんから聞いていたな。エイヴォンの領主様が俺に会いたがっていたと。


「あの時は、たまたま私が持っていた武器と魔物との相性が良かっただけで、そんな大そうな事はしていないんですよ」

「またまたそんな謙遜を。姪のマーガレットがいつも言ってますよ、『アルフレッドさんは凄いんですよ』って」


「マーガレット王女殿下は姪っ子さんなんですね」

「ええ、私の妹は第3王妃として王宮に嫁いでいましてね、その娘がマーガレットなんですよ。聞くところによると、魔道学園ではエミリーさんとミラベルさんが姪と仲良くしてくださったと聞かされていますよ」


 急に領主様が話を振ってきたもんだから、エミーは戸惑っているようだ。ミラは相変わらずだけど。


「とんでもないです。私たちが困っていた時に最初に助けてくれたのがメグ、いえ、マーガレット殿下なんです」

「どうかメグと呼んでやってください」

「メグはとってもいいお友達」

「そうなんです。私たちはよく一緒にいて楽しくやってました」

「彼女もその時がとても楽しかったようでね、今後も是非仲良くしてやって欲しいのです」

「こちらこそ、宜しくお願いします」


 エイヴォン侯爵はとても良きお人柄のようだ。このような話をしながら夕食の時間はあっという間に過ぎていった。



 次の日、エイヴォン領主館の魔道転移ドアの設置は、使われていない2階の奥にある両側から鍵のかかる部屋に設置させてもらった。王宮の設置場所と同様に通信の魔道具も備えられている。


「誰かが勝手に転移してきても、この部屋からは出られないから通信の魔道具で連絡するしか方法が無いのだ」


(多分、誰かっていうのは十中八九、王族ではないかと思うんだ。言わないけど)


 魔道ドアを設置した後は、転移性能に問題がないことを確認したあと、エイヴォンの町とその周辺を観光することにした。


「さすがに獣人族の村までは遠いよな」

「行ってみたい気はするけど、半日はかかるんじゃあねぇ」


 ジムとエミーは行ってみたいようだけど、ニーナがいる筈だからちょっとマズい気がするんだ。お父さんもね。


「いつかまた行ける日が来るだろうから、今回はやめといた方がいいんじゃないか? 次の都市のマルチャールにも行かなければならないし」

「マルチャールまでも馬車でも6日かかるしな」

「私はどっちでもいい」


 何とか獣人族の村に行くのは諦めてくれたようだ。

 1日かけて、エイヴォンの町や港と海岸沿いにある市場を巡った俺たちは珍しい食材を仕入れてトートバッグに沢山放り込んだ。特に“エイガンチョ”という乾物は酒のつまみに合いそうだ、と地球の記憶がしきりに発信しているので購入してみた。


 そして次の日からは、マルチャールの町に向けて移動を開始した。

 マルチャールへ向かう経路はマギコーストの近くのフィリルから海岸沿いを北に抜ける経路と、エルムから森沿いに北へ続く経路の2通りがあるが、エルム経由で北に向かう事にした。


 エルム地方は畜産や養鶏が盛んで、牛乳や卵を大量に購入したかった。

 ジムは海沿いがいいと言ったのだが、美味しいお菓子作りには牛乳と卵が欠かせないと言ったらエミーとミラが『絶対エルムに行く!』とジムに迫ったのだ。

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