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第83話 家を買いたい

「謹んで拝命いたします」


 謁見の間に参列した貴族は、今回は非常に少ない。なぜかと言うと、魔道転移ドアの存在は国内に対しても極秘事項となったからだ。

 今後は、主要都市の領主館と王宮とをつなぐ魔道転移ドアを設置し、緊急の事態に対処する役割を担うこととなる。


「うむ。そしてアルフレッド騎士爵には、ここに出席している各領主の領主館への転移ドア設置を命ずる」

「承知いたしました」


 集まっているのは、この国でも特に重要な領地を預かる領主ばかりだ。国境を守る辺境伯が二名、交易の要衝を押さえる侯爵が一名、そして王都近郊と迷宮方面を管轄する伯爵が二名。


 俺は統括地を持たない騎士爵を任じられた。国王直属にして、国王からの指示を受けての独立した活動が主な任務だ。

 そして、それぞれの領地を回り、領主館に魔道転移ドアを設置してゆく。これが騎士爵となった俺の最初の任務だ。

 ルノザール領主館には魔道転移ドアを既に設置済みなので、今後は他の4か所の領地に設置をしていくことになる。


「そして、ジェームス、エミリー、ミラベル。この三名はアルフレッドと共にルナ迷宮を踏破し、ダンジョンとして生かしたまま今後のスタンピードを抑える為の手立てを整えてくれた。この功績はこの国にとって多大である。よってこの三名には王国名誉勲章を授けるものとする」

「「「有難き幸せに存じます」」」


 月盟の絆のメンバーにも、俺が持っているものと同じ勲章が与えられた。



 次の日。

 王宮内に魔道転移ドアを設置する場所として、専用の部屋が用意された。


「アルフレッド君、王宮の転移ドアはここに設置してくれないか」

「分かりました」


 他の3人には応接室に待ってもらい、俺と陛下だけ転移室に入って魔道転移ドアの設置を行った。


「それからね、王族とその従者は今後この転移ドアを緊急避難経路の一つとするため、避難先の暗証番号は王族と宰相、それに限られた王宮騎士に限って知ることになる。君は特別だがね」

「はい」


 城や王宮には王族しか知らない隠し通路が作られることが多い。

 なるほど。暗証番号が秘匿されていれば、地下の隠し通路よりも何倍も安全に避難が出来るだろう。

 王族は緊急時に避難をするが、決して利己主義的な保身によるものではない。王族がいなくなることで人々は希望を失い、国が乱れ、それによって命を落とす者も多く出る。

 王族が生き残るという事は、そのような乱世を出来るだけ防ぐという意味合いがあるのだ。


「うちのメグが、『エミリーさんたちに会いたいですわ』ってきかないんだよ」

「はい?」

「私もたまにはお忍びであっちこっちに行きたいしな」

「は、はい?」


 前言撤回だ。


「そこでだ、君は今ルナの町で宿泊所を拠点にして活動しているそうじゃないか。いくらか支援するから自分たちの家を購入する気はないか?」

「家ですか……買いたいとは思っているのですが、まだ踏ん切りがついていないのです」

「そうかそうか、買いたいのか。それでは、宰相に探させよう」


 この人たちに任せたら、後が大変なことになりそうだ。


「あ、いえ。自分たちの家だから4人で探したいと思います」

「ふむ……で、どの領地に住む予定かな?」

「ルノザール領で探したいと思っています。4人のパーティで協力して生活できるところならば、それでいいかなって」


 4人で暮らすために4部屋は必要になるが、あとはダイニングキッチンとお風呂にトイレがあればいいと思っている。日本でいうところの4DKってとこかな。


「分かった。しかし君も貴族になったのだから、それ相応の家が必要だ。ルノザール伯爵にも相談しながら貴族として恥ずかしくない屋敷を購入するようにしてくれ」

「は、はい。分かりました」


 貴族として相応の家……か。


「その屋敷を王族の緊急避難先とする。あと、貴族としての家名も必要だから、一カ月以内に決めておいてくれ」


(えっ? 緊急避難先って……。それに家名かー。どうしよう、命名センスの欠落した俺には悩みの種だ)


「緊急避難先ですか?」

「4人の戦力が集結した屋敷ならば、おそらくこの国で一番安全な場所であろう?」

「……分かりました」


 肯定するしかなかった。


     ◇


 ルノザール領に戻った俺は、みんなに家の購入について相談した。


「貴族になってしまったから家を買おうと思う」

「えっと、アル君の家?」

「いや、俺たちパーティの活動拠点としての家だね」


 家は、単純に活動拠点と考えている。


「でもお金出すのってアル君だよね」

「まあ、そうなんだけど」

「アル君に世話になりっぱなしなんて、何か嫌だなー」


 やっぱり、そう思うだろうな。


「じゃあ、こうしよう。俺は家を買って君たちに宿泊所として部屋を提供する。君たちは家賃を払って部屋に住み込む」

「それならいいかも」


 皆の同意が得られた。


「じゃあ、決まりだね」


 家賃を払うのなら、みんな抵抗は無さそうだ。


「それでね、1つ転移ドアを設置する部屋を設けたい」

「それって、これまでと同様にアル君の部屋でよくない?」

「うーん、それがね……」


 俺は王族の緊急避難先に、俺たちがいる家が指定されたことを白状した。


「「「えーーーーー?」」」


 みんなのテンションが一気に下がった。


「緊急避難先ってことは、緊急時だけってことだから」

「緊急時ってどんな時?」

「それこそ戦争や内戦が起こって、王宮が攻め落とされる寸前に王族だけ逃げるって時のことじゃね?」

「じゃあ頻繁に起こる訳じゃないのね? ……まあ、それならいいかな」


 みんな安心した表情に戻った。


「あー、緊急じゃない場合もあるかもしれない。メグが『エミリーさんたちに会いたいですわ』って言ってるらしい」

「メグだったら歓迎するわよ、ねえ」

「うん、メグと会いたい」


 王女殿下だったらいいのか。

 王様が時々、お忍びで来たいと言ったことは、みんなに言えなかった。



 さっそく次の日、俺たちはルノザールの領主館に足を運んだ。


「実は陛下からアルフレッド君の家を探して欲しいと話があってね、うちのジョセフに探させていたんだ」

「ここルノザールには、貴族用に作られて今では使っていない屋敷が二つほどあります」


 やはり、国王からの指示が来ていた。


「その二つの物件を見に行くことはできますか?」

「ええ、管理している商人にも話をつけておりますので、今すぐにでも可能でございます」


 さすがジョセフさん、手回しに抜かりがない。


     ◇


「ここが先ず1件目です。外装が少々傷んでおりますが、塗り替えれば問題ないかと存じます」


 商人の説明では、1階に食堂と厨房、シャワールームと応接間に中ホールがある。

 2階は大ホールと客間が6部屋、それにシャワールームが2つ。

 3階は執務室が2つと寝室が10部屋、シャワールームが2つ。

 別棟に使用人別館があって、部屋数は20だ。


 これが貴族用の家……5DKが無いかな? と考えていた俺が愚かだった。


 一通り内部を見て回ったが、全てに於いてとても広い。

 使用人別館というものもあって、使用人を雇うのが前提の屋敷だ。


「もう一つの物件も見たいのですが」

「承知致しました」


 少し移動した場所の小高い丘の上にそれはあった。日当たりが良さそうだ。


「こちらの物件は外装と内装の痛みは少ないのですが、先ほどの物件よりも部屋数が少なくなっております」


 1階は厨房と食堂、それに居間と応接間。そのほかに大ホールと浴場。

 2階は執務室と書庫、客間と寝室がそれぞれ6部屋ずつある。そして使用人別棟は部屋数16だ。


 ここは2階建てで、1件目より少し規模が小さいが十分な広さだ。



 部屋数はそんなに要らないのだし、何と言ってもお風呂が備え付けてあるところが高得点。それに、2階の端にある部屋は、転移ドア専用室にするのに都合が良さそうだった。


 他の3人に意見を聞いたところ、エミーは「夢みたい」と喜び、ジムは「飯が食えれば十分」と笑い、ミラは「庭が広い」とだけ呟いた。特に重要な意見も無い。

 俺は財布の事情も考慮して、二つ目の物件に決める事にした。

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