第77話 魔道トートバックの応用
「~それは亜空間に送られ、この世界から消える」
「それって、持ちきれない様な沢山の物でも、全部中に収納することが出来るようになるのね?」
たまらずエミーが口を挟んできた。ジムはまだ良く分かってない様子だが、エミーはもうピンときてる。
「そうなんだ。エミーが魔石を持つの……大変そうだったから、これを作ったんだよ」
「やだアル君ったら、私のためだったのね。魔石を入れる為だけに、これを作ったってことよね? でも、これって大発明じゃないの?」
「とりあえず、エミーの魔石が全部入ればいいかなって……」
要するに、魔石が重すぎたから作っただけなんだが。
(……大発明扱いされるって事は、特殊魔道具とかには……ならないよな?)
「でもこれ、どうやって取り出すのよ?」
「エミー達じゃ取り出せないよ。使用者登録していないからね」
俺しか、中の物を取り出せない。
「じゃあアル君、取り出してよ……あっダメ!」
「はいこれね」
既に手を入れていた俺は、水色の縞模様のパンツを取り出した。
「それ私の」
ミラが受け取った。
「それとこれね」
次に、白いレースのフリルが付いたパンツを取り出した。
「嫌だ―!」
エミーが俺の頬を叩いた。
いや、エミーは俺の目を塞ごうとしたのだが、結果的に顔を叩いた形となってしまったのだ。
「何で俺……叩かれてんの?」
「そりゃーおめぇ、まだ見られたくねぇからだろ」
そう言ったジムには、エミーの平手打ちがお見舞いされていた。
「エミー、何で俺まで」
「ジムはデリカシーが無い」
ミラが言ってるデリカシーっていうのはよく分からない。多分、エミーは穿く前の下着を俺たちに見られるのが嫌だったのだろう。
「あと、これな」
「うお、入れてからだいぶ経つのに、まだ熱いのかよ!」
「ああー、なるほどね。亜空間って時間が止まってるんだ」
夜中にやってて確認できていなかったことが、亜空間内での時間の経過についてだった。でも、串焼きで確信できた。バッグに入れると、時間が止まったままだ。
「それって、この中に入れたら食べ物も腐らないって事?」
「そうなるね。植物採取なら、傷まなくていいかも」
「もっと作って売りだしたら、けっこう売れるんじゃね?」
俺たちが魔石を入れる目的で作った無限収納バッグだったが、考えてみれば色んな使い方ができるかもしれない。
「アル君が作ったお菓子やプリンを入れようよ」
「俺は食いもんを入れるぜ。迷宮の中でもアツアツの串焼きが食べられるって、夢みたいだぜ」
確かに、食べ物を入れるってのは理に適ったことだ。
「あたしはイグニスを入れる。いちいち召喚しなくていい」
「いやいやミラ、精霊獣を入れるのはちょっと待て!」
亜空間はイグニスが通ってくる空間なのかもしれないが、長時間の収納がどう影響するか分からない。
「でも、ここまで使い勝手がいいんだったら、国が黙ってないんじゃない?」
たしかに、エミーの言うとおりだ。
特殊魔道具扱いにならないか心配になったので、俺は商業ギルドに現物を持ち込んで相談した。
判断は王宮魔道具院に委ねられたが、下された判断は、“一般魔道具”とするとのことだった。王宮魔道具院としては軍事利用性が低く、通信機能も持たないため一般魔道具と判断したらしい。
これで、魔道トートバッグは一般製品として売り出すことができる。
俺は抜かりなく、バッグの内側に縫い付ける魔法陣の発明権申請と公開も、商業ギルド経由で行っていた。
魔道トートバッグの内部の容量は、商業ギルドの提案で3種類の容量を設定することになった。
小容量品:容量が10個までのもので、価格は金貨2枚。
中容量品:容量が50個までのもので、価格は金貨8枚。
大容量品:容量が150個までのものが、価格は白金貨2枚だ。
その結果、魔道トートバッグは色んな用途で人気を博した。
小容量のバッグはリーズナブルな価格設定のため、中堅冒険者や一般家庭用として購入する人が多かった。
中容量や大容量は商人に人気だった。特に数台の馬車を使っている商人は、馬車すら必要ないと大容量のバッグをいくつも買っていった。
(白金貨2枚で家が一軒建つのに……)
そして、元手は殆どかからないから、販売価格の90%以上が利益となる。販売利益の半分が発明権料として俺に入るから、これだけで目が飛び出るほどの収入になってしまった。
◇
縫製工場による魔道トートバッグの生産が軌道に乗った頃、エミーが俺に話しかけてきた。
「ねえアル君、これってバッグの中に入れたものがどこか知らない空間みたいなところに飛んでいくんでしょ?」
「まあ、そんなところだね」
「じゃあさあ、入れたものを別のところから取り出すって事もできるんじゃない?」
エミーの発想は、俺にはできなかった。
「おお、マジか! それは出来そうだな! 頭いいねエミーって」
「……アル君に言われても、嬉しくない」
「でも、それはいいヒントだったよ。それができれば、転送装置の完成だから」
「転送装置?」
物を遠くに一瞬で飛ばす装置などは無いのだ。それが可能になるとしたら――物流の革命がおこる。
◇
俺はエミーの素朴な疑問をヒントにして、さっそく開発にとりかかった。
そして数日の試行錯誤の末、テーブルの上に品物を乗せて転送先を選び、ボタン1つで一瞬にして品物が転送できる“転送式物資移送魔道具”なるものが出来上がった。
魔道トートバッグの入り口と出口を分け、別の場所にあるテーブルの上で出入りするような装置だ。
しかし、商業ギルドにこれを持っていくと、今度は特殊魔道具に分類される可能性が高いと言われた。そうか……通信の魔道具が特殊魔道具に分類されているのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
原理はトートバッグと同じものだけれど……使い道が変われば分類も変わる。
王宮魔道具院からは、“転送式物資移送魔道具”という名前が長いという指摘を受けて、通称として“魔道宅配便”と名付けた。そして――
「アルフレッドさん、この魔道宅配便という魔道具は、やはり特殊魔道具に分類されることが決まりました。今後は、王宮魔道具院の管理下に置かれることになります」
(やはりそうなったか)
魔道トートバッグと違い、王宮魔道具院の管理下になったことで、この魔道宅配便については自由に生産や販売はできなくなった。
しかし、俺たちにとってはそう困ったことではない。
本来の目的は、魔石が重いから何とかしたい――この想いからスタートしたのだ。魔道トートバッグが自分で自由に作れれば、何も問題ないのだ。
◇
俺たちは、各自それぞれのトートバッグを持って、久々に迷宮探索を再開することにした。もちろん、俺たちのトートバッグは容量制限なしだ。販売品とは違い、試作品だからである。
「俺たちの攻略階層は43階層だったよな?」
「42だったと思うわ」
トートバッグを作ったり、魔道宅配便の開発をしたりで、迷宮探索の活動が疎かになった。少し期間が空いたためか、俺たちの記憶は曖昧だった。
「最後はサイクロプス。だから41」
そんな中でも、ミラの記憶だけは正確だ。
要するに、作成した二つの魔道具は、サイクロプスの魔石が重すぎたから作ろうと思ったのだった。
ミラの一言で、俺たちはそれを思い出していた。




