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第74話 魔道ロッドの届け出

「使用者は……そうだな、魔道学園のサマンサ魔術科長にできるか?」

「はい、大丈夫ですよ。サマンサ先生なら快く了承してくれると思います」

「ああ、そうだな。それでは宜しく頼む」


 サマンサ先生の指紋データなら、学園時代の実験で偶然取得済みだった。だが、それは言わない方がいいと思う。

 一度王都に行って、サマンサ先生に了承をもらって指紋を採る振りをするしかないだろう。


 俺は工房へ戻り、ギルド長に頼まれたサマンサ先生用の魔道ロッドを作りに取り掛かった。


 王都へ出発する日。

 今回は、ギルド長と共に王都へ行くことになった。月盟の絆のメンバーも同行している。

 俺たちに任せてもらえば、わざわざギルド長が行く必要もないですよと言ったが、「お前はこれの価値が全く分かっておらん」とひどく怒られてしまった。


 5日かけて王都に到着すると、俺たちは先ず魔道学園を訪ねた。今日はサマンサ先生にロッドを渡し、使用者登録を行うのが目的だ。

 女子組はなぜか別の要件があると言い、魔術科研究棟の入り口から別行動になるらしい。

 サマンサ先生に会いに行くのは、俺とヴァルターギルド長、それにジムというむさ苦しい男子組だ。


「お久しぶりですな、サマンサ先生」

「あら、ヴァルターさんじゃないですか」


 「お二人はご存じなのですか?」と聞いたら、サマンサ先生がまだ学園の生徒だった頃からの付き合いらしい。修業旅行の際に王宮騎士団から派遣されてきた若手の前衛騎士が――ヴァルターさんだったらしい。


 俺はジムが王宮騎士団から派遣されてきた日のことを思い出した。しかし、このヴァルターさんが派遣された若かりし日の想像が出来ない。今から30年ほども前の事なのだから。


     ◇


「しかし、この様な物よく作りましたねえ。私たちが発動する魔法を、魔石の力で倍増させるなんて発想は、考えたこともありませんでした」


 結果的に、魔力消費量の節約につながる。これが魔術師にとっては大きなメリットになると、サマンサ先生には感心されているのだ。


「これは紛れもなく、A級武器に分類されますね。ヴァルターさん、これはもう届け出済みですか?」

「いや、これからだ。そのためにあなたを訪ねて来たのだ」

「フフフフ。では、私がこのロッドを使って陛下の度肝を抜いてしまっても良いということですね?」


 サマンサ先生が、薄気味悪い笑みを浮かべながらヴァルターさんに迫っている。……ヴァルターさんの人選は誤りだったのではないかと俺は悟った。


「いやいやいや、別に陛下の度肝を抜かなくても、武器としての登録を無事に済ませればそれでよいのだ」

「ええ、その通りですね、ヴァルターさん。ではアルフレッドさん、早速私専用の魔道具として登録してくれませんか?」


(なにか嫌な予感がするだけれど、大丈夫なのか?)


「あ、はい。じゃあこれに手を当ててください。指の表面の模様を登録しますので」


 この世界では『指紋』とは言わないのだ。


「分かりました。これも魔道具ですか?」

「ギルドへ登録する際に、指の表面の模様を登録するものと同じです」

「ああ、あれですか」


 何か言われないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、すんなりと納得してもらった。


「少しお待ちください、このロッドに先生の指の表面の模様を登録しますので」


 魔道ロッドの内部には、指紋認証のプログラムが魔法陣として格納してある。俺はMR装置を使ってサマンサ先生の指紋を魔法陣の中に記入する振りを(・・・)した。


「できました」

「いやー、さすがにアルフレッド君の仕事は早いですね! やっぱり頭の中を割って見てみたいですねぇ」


(やっぱりそういう事を、考えていらしたのですね?)


「いえいえ、冗談ですよ。しかし、フフ、早速試してみたいですね!」


 いつも真面目なサマンサ先生が、こんな無邪気な表情をする事もあるんだな……と。サマンサ先生の本来の内面性が、垣間見えた瞬間だった。



 学園の魔術練習所で、サマンサ先生にロッドの使い方を教えた俺とジムは、昼がきてもエミーたちと合流できなかった。仕方がないので、学園の食堂でナジャおばさんの作る昼食を頬張っていた。


 するとそこへ、エミーたちも食堂に入って来た。


「エミー、先に食べてるよ」

「ごめんね。先生と話してたら、ちょっと遅くなっちゃった」


 魔道学園の食堂は、一般の人でも空いた時間なら有料だが食事をすることができる。

 ちなみに、どこへ行ってたのかを聞いても「それは内緒」だと言って話してくれなかった。


(何処に? 何しに行ってたんだエミーは?)


     ◇


 次の日、ヴァルターさんに呼ばれて魔道学園の魔術練習所に行くと、そこに場違いな人がいることに気付いた。


「もう30年以上前になると思うが、私とサマンサとはここで魔法の腕を競い合った仲なんだ」

「その頃の私は……魔術の腕前はまだまだ未熟でしてね、今の陛下には連敗しているのですよ。しかし、魔道学園で教鞭を執りながら腕を磨いてきたのですから、今では陛下にはこれっぽちも負ける気がしませんね」


 この国の、国王の登場である。


「どうだろうね。私も王宮騎士団の訓練所では、誰にも負けたことが無いんだ。いい勝負だと思うぞ?」

「フフフフ、どうでしょうね」


 この二人、学生時代の魔術競争を思い出して競い合うようだ。


(ってサマンサ先生、そのロッド、魔道ロッドじゃん。反則じゃん!)


 ヴァルターさんは、遠くで黄昏れながら、知らん振りを決め込んでいる。


「ではライアナ先生、合図を」


 練習所には金属でできたゴーレム風の標的が6体置かれている。それぞれの受け持つ標的は3体で、その3体を完全に倒した時間で腕を競うのだという。


「始め!」


「天空に踊る炎の精霊よ……」

「ファイアボール!」

「え?」


 目を見開いたのは国王だった。


 凄まじい火力のファイアボールが、サマンサ先生の前に出現したかと思えば、それがあっという間に標的まで飛んで行き、金属のゴーレム標的を、いとも容易く破壊した。


「ファイアボール!」

「ファイアボール!」


 そして、あっという間に、サマンサ先生の3体のゴーレムが砕け散った。


「フフフフフ、私の勝ちですね」

「短縮詠唱であの破壊力だと? サマンサ、お前何を隠している!」


 サマンサ先生が、とても清々しく微笑んでいる。


「フフ、陛下には隠し事は出来ませんか。でも驚いた顔が見られて嬉しいですよ。学生時代にはそんな顔をされたことはありませんからね」

「それか! いつもと違うロッドだな!」

「はい、今日はこの武器の実力を見てもらうためのテストだったのですよ」


 今回はサマンサ先生のリベンジも兼ねていたのだと思う。あんなに楽しそうにしているサマンサ魔術科長を、今まで俺は見たことが無い。


 その後、魔道ロッドはA級武器としての届け出を無事終了できたが、陛下から「私にも作ってくれ」と懇願されたのだった。


(絶対そうなるよね。でも、いつ使う? もしかして王家の宝物庫に?)


 平民の俺が断われるはずもない。

 ともあれ、魔道ロッドの届け出は無事に済んだ。俺たちの武器もギルドに隠す必要が無くなり、これからは気兼ねなく迷宮を探索できるというものだ。

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