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第74話 魔道ロッドの届け出

「使用者は……そうだな、魔道学園のサマンサ魔術科長にできるか?」

「はい、大丈夫ですよ。サマンサ先生なら快く了承してくれると思います」

「ああ、そうだな。それでは宜しく頼む」


 サマンサ先生の指紋なら既にこっそりと取得済みなのだが、それを言う事は出来ない。

 一度王都に行って、サマンサ先生に了承をもらって指紋を採る振りをするしかないだろう。


 その後俺は、ギルド長のヴァルターさんに頼まれたサマンサ先生用の魔道ロッドを急いで作り、ギルド長と共に王都へ行くことになった。今回は、月盟の絆のメンバーも同行する。

 ギルド長がわざわざ行かなくても、俺たちだけでいいのにと言うと、『お前はこれの価値が全く分かっておらん』とひどく怒られてしまった。


 王都に5日かけて到着すると、俺たちは先ず魔道学園を訪ねた。今日はサマンサ先生の同意を得て、指紋を採取するというのが目的だ。

 女子組はなぜか別の要件があると言い、魔術科研究棟の前からは別行動をとるらしい。

 サマンサ先生に会いに行くのは俺とヴァルターギルド長、それにジムというむさ苦しい男子組だ。


「お久しぶりですな、サマンサ先生」

「あら、ヴァルターさんじゃないですか」


 『お二人はご存じなのですか?』と聞いたら、サマンサ先生がまだ学園の生徒だった頃、修業旅行の際に王宮騎士団から派遣されてきた若手の前衛騎士がヴァルターさんだったらしい。


 俺はジムが王宮騎士団から派遣されてきたことを思い出したが、このヴァルターさんが派遣された若かりし日の想像が出来ない。今から30年ほども前の事なのだから。



「しかし、この様な物よく作りましたねー。私たちが発動する魔法を、魔石の力で倍増させるなんて発想は考えたこともありませんでしたね」


 結果的に、魔力消費量の節約につながるという事が、魔術師にとっては大きなメリットになるとサマンサ先生に感心されている。


「これは紛れもなく、A級武器に分類されますね。ヴァルターさん、これはもう届け出済みですか?」

「いや、これからだ。その為にあなたを訪ねて来たのだ」

「フフフフ、では私がこのロッドを使って、陛下の度肝を抜いてしまっても良いという事ですね?」


 サマンサ先生が、薄気味悪い笑みを浮かべながらワルターさんに迫っているのを見ると、ヴァルターさんの人選は誤りだったのではないかと俺は悟った。


「いやいやいや、別に陛下の度肝を抜かなくても武器としての登録を無事に済ませればそれでよいのだ」

「ええ、その通りですね、ヴァルターさん。ではアルフレッドさん、早速私専用の魔道具として登録してくれませんか?」


(なにか嫌な予感しかしないのだけれど、大丈夫なのか?)


「あ、はい。じゃあこれに手を当ててください。表面の模様を登録しますので」


 この世界では『指紋』とは言わないのだ。


「分かりました。これも魔道具ですか?」

「ギルド登録する時に、指の表面の模様を登録するものと同じですね」

「ああ、あれですね」


 何か言われないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、すんなりと納得してもらった。


「少しお待ちください、このロッドに先生の指の模様を登録しますので」


 魔道ロッドの内部には、指紋認証のプログラムが魔法陣として格納してある。俺はMR装置を使ってサマンサ先生の指紋を魔法陣の中に記入する振りを(・・・)した。


「できました」

「いやー、さすがにアルフレッド君の仕事は早いですね! やっぱり頭の中を割って見てみたいですねぇ」


(サマンサ先生、やっぱりそういう事考えていたの?)


「いえいえ、冗談ですよ。しかし、早速試してみたいですね!」


 いつも真面目なサマンサ先生が、こんな無邪気な表情をする事もあるんだな……と。先生の本来の内面性が垣間見えた気がした。



 学園の魔術練習所で、サマンサ先生にロッドの使い方を教えた俺とジムは、エリーたちがどこに行ったか分からないまま、久しぶりの食堂でナジャおばさんのご飯を食べていた。

 しかし、そうするうちにエミーたちも食堂に入って来たので、無事に合流する事ができた。


 魔道学園の食堂は、一般の人でも空いた時間なら有料で食事することが出来る。

 ちなみに、何処へ行ってたのかを聞いても『それは内緒』だって。


(何処に何しに行ったんだエミーは?)


◇◆◇


 次の日、ヴァルターさんに呼ばれて魔道学園の魔術練習所に行くと、そこに場違いな人がいることに気付いた。


「もう30年以上前になると思うが、私とサマンサとはここで魔法の腕を競い合った仲なんだ」

「その頃の私は魔術の腕前がまだまだ未熟でしてね、今の陛下には連敗しているのですよ。しかし、魔道学園で教鞭を執りながら腕を磨いてきたのですから、今では陛下にはこれっぽちも負ける気がしませんね」

「どうだろうね、私も王宮騎士団の訓練所ではまだ誰にも負けたことが無いんだ。いい勝負だと思うぞ」

「フフフフ、どうでしょうね」


 何だかこの二人、学生時代の魔術競争を思い出して競い合うようだ。


(ってサマンサ先生、そのロッド、魔道ロッドじゃん。反則じゃん!)


 ヴァルターさんは、遠くで黄昏れて知らん振りを決め込んでいる。


「ではライアナ先生、合図を」


 練習所には金属でできたゴーレム風の標的が3体ずつ置かれている。自分の受け持つ標的は3体で、その3体を完全に倒した時間で腕を競うのだという。


「始め!」


「天空に踊る炎の精霊よ……」

「ファイアボール!」

「え?」


 凄まじい火力のファイアボールが、サマンサ先生の前に出現したかと思えば、それがあっという間に標的まで飛んで行き、金属のゴーレム標的をいとも容易く破壊していた。


「ファイアボール!」

「ファイアボール!」


 そして、あっという間に、サマンサ先生の3体のゴーレムが砕け散った。


「フフフフフ、私の勝ちですね」

「短縮詠唱であの破壊力だと? サマンサ、お前何を隠している!」


「フフ、陛下には隠し事は出来ませんか。でも驚いた顔が見られて嬉しいですよ。学生時代にはそんな顔をされたことはありませんからね」

「それか! いつもと違うロッドだな!」

「はい、今日はこの武器の実力を見てもらうためのテストだったのですよ」


 今回はサマンサ先生のリベンジも兼ねていたのだと思う。あんなに楽しそうにしているサマンサ魔術科長を、今まで見た事が無いのだ。


 その後、魔道ロッドはA級武器としての届け出を無事終了できたが、陛下から『私にも作ってくれ』と懇願されたのだった。平民が断れるものですか!


(絶対そうくるよね。 もしかして王家の宝物庫に入れられたり……するのか?)

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