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第69話 帰郷2

 次の日の午前中には、俺はマルコさんの魔道具店を訪ねた。


「こんにちはー」

「あっ!! お兄ちゃんだー。 お母さん、お兄ちゃんが帰ってきたよー!」

「あら! アル君久しぶりねー」

「リサちゃん、エレノアさん、ご無沙汰してます」


 魔道具店に入ると、ちょうどリサちゃんが店内の掃除をしているところだった。

 エレノアさんもマルコさんもご在宅のようだ。


「おおっ、アル君じゃないか! 元気そうだねぇー」

「お兄ちゃん、上がって上がってぇー」

「ゆっくりしていけるのかな? まあ、中に入りなよ」


 積もる話もあるし、少しお邪魔させてもらおう。


「はい、じゃあお言葉に甘えてお邪魔しますー」

「全然お邪魔じゃないよ、大歓迎さ」


 食事用のテーブルがある懐かしい居間に通される。

 当たり前であるが、テーブルにはもう俺用の椅子は無い。


「こっちのティナの椅子に座っていいよ」

「さっきから気になってたんですが、ティナちゃんはどうしたんですか?」


 ティナちゃんの椅子に座ってって事は、ティナちゃんは居ないのだろうか?


「お姉ちゃんなら、魔道学園に行ってるんだよ」

「えっ、魔道学園に入学したんですか?」

「そうなんだ、アル君とは3つ違いだから入れ違いになっちゃったけどね」

「お兄ちゃんみたいな魔道具師になるんだって、魔道学園を受けたんだ」


 そうか、ティナちゃんが家に居なかったのが気になっていたが、魔道学園の後輩になったのか。結構授業料が高いけど、大丈夫だよね。


「アル君が作った魔道具の発明権料が私にも入っているから、ティナを魔道学園にやるのもだいぶ楽になったよ、本当にアル君には助けられているよ」

「お役に立てて、よかったです」


 最初に会った時には小さかったのに、今年でティナちゃんも13歳になるんだな。


「私も11歳になったんだよ。あと2年したら私も魔道学園に行きたいな」

「そうかそうか、じゃあたくさん勉強しないとだね」

「うん、がんばってるよ」


 魔道学園に入るというのは、けっこう狭き門なのだ。

 それから俺が魔道学園で3年間で経験したことを、お土産話として3人に話した。

 魔道モーターを開発し、いくつかの家電魔道具を作った事や、魔道科を首席卒業し、王女殿下と共に表彰されたこと。王国名誉勲章を授かった事はマルコさんも目を丸くして驚いていた。


「本当にアル君は、斜め上を行ってるねー」

「お兄ちゃん、かっこいいー」

「マーガレット王女様ともお友達になるなんてねぇ」


 国王様から依頼を受けた件などは話をしていない。もし話が出来るのだったら、それを聞いたマルコさんは驚きを通り越して呆れてしまうだろう。でも、何でリサちゃんはほっぺを膨らませているのだろうか?


「お兄ちゃんって、王女様のことを好きなの?」

「な、とんでもない! ただのお友達だよ」

「なーんだ……」


 餅が、いや、ほっぺが元に戻った。


「それで、アル君はこれからどうするんだい?」


 そうだ、それを話しておかなければならないんだった。


「孤児院の幼馴染4人で冒険者パーティを組んでいまして、暫くはこの町を拠点に迷宮探索を行う予定なんです」

「魔道具師ではなくて、冒険者になったのかい?」

「冒険者をしながらですけど、魔道具の開発も続ける予定ですよ」

「アル君らしいわねぇ」


 冒険者を続けながら魔道具の開発を行うというスタンスは続けたい。


「君が使っていた部屋は、そのままにして残しているよ。魔道具の開発も続けるんだったら部屋は自由に使っていいから」

「本当ですか! 実は魔道具の開発をどこでやろうかと悩んでいたところなんですよ」


 宿泊所には道具や部品など置く場所が少ないから、どうしようかと考えていたところだ。マルコさんの提案は渡りに船だった。


「ああ、アル君だったら自由に使ってくれて構わないさ」

「じゃあ、これからいつもお兄ちゃんの冒険譚が聞けるね!」

「泊まる場所はどうするんだい? アル君1人だけだったらうちに住んでもらっていいんだけど、4人となるとちょっとねぇ」


 もちろん、他の3人がお世話になることは俺も考えていない。


「ああ、それだったら昨日からフェアリーナイトに長期滞在する事を決めています」

「なるほどね、長期滞在にすればアパート借りるのと変わらないからね」


 それから幼馴染のうちエミーとミラの2人は魔術師であること、ジムは王宮騎士団を辞めてまで、俺たちと合流をしてくれた事などを話した。


「そのうち、みんなを連れて食事にでもおいでね。居間はちょっと狭いんだけど、あと3人くらいだったら何とか入るから」

「そうですね、良ければ俺も腕を振るって料理なんかもしてみましょうかね」


 昔ここの厨房で、プリンとかを作っていた事が思い出され懐かしくなった。


「やったー! そしたらまた、お兄ちゃんの美味しいお菓子も作ってもらえるかなあ!」

「また、お菓子作りもやってみるよ」

「楽しみー」


 四の鐘が鳴り響いた。

 既に2時間近くが経っていたようだ。


(けっこうな時間、お邪魔をしちゃったなー)


「こんな時間になるまで気づきませんでした。そろそろおいとまさせていただきますね」

「あらアル君、昔みたいに一緒に食べていってよ」

「そうだよ。その為にさっきからエレノアが準備をしているんだからさ」


 そう言えば、エレノアさんが厨房に行って何かをしている様だった。


「では、久しぶりにご馳走になります。エレノアさんありがとうございます!」

「いいのよー、アル君の食器もまだ残しているから」

「椅子はお姉ちゃんのがあるから、今日はリサの隣ね」


 本当によくしてくれる家族なのだ。胸が熱くなる。



 昼食を頂いたあとは、俺は鍛冶屋のガレットさんを訪ねた。

 工房には、いつもの様にかん高い金属音が鳴り響いている。


「こんにちはー、お久しぶりです」

「……おお、アル坊かの! こっちに帰って来たのかのう?」

「はい、暫くはこの町を拠点にして迷宮探索と魔道具の開発を続ける予定でなんす」

「おう、それはいい。わしにも手伝わせてくれると有難いのう」


 ガレットさんは髭を触っている。


「そう言えばアイアンリッジでガルッグ親方にお世話になったんですよ。ガレットさんとは従兄弟になるそうですね」

「ほうほう、あいつと会ったのかの。元気しとったかのう?」

「元気でしたよ、最初はガレットさんと親戚だとは知らなかったんですが、ガレットさんに似ている人だなって思ってましたよ」

「あいつとは顔も名前も似ているのよ、はっはっは」


 俺はアイアンリッジでガレッグ親方に重ね板バネを作って貰った話をした。


「ほうほう、それは興味深いのう」


 王都近辺の馬車はバネが使われるようになってきたので乗り心地が良くなってきたが、地方はまだまだ普及までいかない。

 ここはガレットさんにも頑張ってもらって、地方にも重ね板バネを普及させねば。


「それはそれは、これからもっと忙しくなりそうだのう」


◇◆◇


 次の日、俺たちはルナ迷宮にもぐる為に、ルナの町の冒険者ギルドに顔を出した。

 ギルド内を見渡すと、約3年前にスタンピードが発生した時から少し顔ぶれが異なっている。リアナさんどうしてるかな?

 ふと、3年前に「私のこと、忘れないでね…」と言って走り去ったリアナさんのことが脳裏をよぎる。


「アルが良くない事考えてる」

「あ、私もそんな気がするわ」


(……?! 何この女の勘? みたいなもの……怖いんですけど)


「アルは昔が懐かしいんだろ? スタンピードの時には活躍したんだもんな」

「うん、そうだな」


 ジムは勘が悪いので、こんな時は助かる。ありがたい。

 受付にはリリアンさんが前と変わらぬ雰囲気で座っていた。


「リリアンさん、お久しぶりです」

「ああーーーっ! アルフレッドさん!!」

「そんな、指さしてまで驚かなくてもいいじゃないですか」


 受付の懐かしい顔に嬉しくなって声を掛けると、リリアンさんは指さして俺の名前を叫んだ。

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