第67話 ルナへの拠点替え
「アルフレッド君。いつもながら思うが、今回はどうしてこのような魔道具の大剣を作ったんだい?」
エミーたちは別館というところへアンナさんに引っ張られて行ってしまったし、ジムはと言えば、領主様の騎士団の訓練所を訪ねている。久しぶりだもんね。
そういう訳で、俺は一人居残って領主様と話をしている訳だ。
「それはですね……ジムの奴が大剣は持ちたいけど、ちょっと筋力が足りないから持てないって言うもんで、我々のパーティ入りの記念に特別に作ってプレゼントしようって思ったんですよ」
「それは何かね、友達のプレゼントの為にこんなものを作ったと?」
「はい、その通りです」
「ハァーーーーッ」
まあ、大そうなものを作ってしまった自覚はありますよ。でも純粋にジムに大剣をプレゼントしたかっただけなのは本当だからね。
「この大剣は、前に君が作った魔道ライフルなどと同様に第1級武器として扱われるだろう。王宮騎士団での管理が必要になるし、量産には国王の承認が必要な武器となる」
「はい、それは解っています」
「うむ。では、王宮騎士団への届け出の為にもう一振りの大剣を作ってくれないか。どうせこれはジェームスにプレゼントするんだろう?」
「はいそうですね、わかりました。では、指紋認証の対象はどうしましょうか」
「しおんにんしょう?」
指紋認証という言葉は、この世界には存在しないんだった。
「ああ、剣の柄を握った時に、特定の人物しか風魔法が発動しないようにするための技術で、その特定の人物をあらかじめ登録できるんです」
「なるほど、そのように工夫されているのか。ならば騎士団長のレオノールが適任だろう」
「分かりました、レオノールさん以外では魔法が発動しないように作ります」
「宜しく頼む」
ついでだから、もうひとつ話をしておかなければな。
「あの、領主様」
「何だい?」
「実は俺たち、当分の間ルナ迷宮の方で迷宮探索をメインに実力を上げたいと考えているんです。それで、暫く活動拠点をルナの町に出来ないかなって思っているんですけど……」
「それだったら構わないぞ。エミリー君とミラベル君については、私の領地内で活動すれば問題ないからね」
「ありがとうございます」
ルナの町はルノザール領主様の管轄内だ。
「スタンピードが発生してから今は落ち着いているが、原因が判らずじまいなんだ。その原因まで君たちが調べてくれれば有難いんだがねぇ」
「いえいえ、まだそんな事が出来るようなレベルではありませんから」
「もちろん、無理は禁物だよ。君たちの冒険者ランクがSSランクまで上がればっていうずっと先の話だ」
ルナの迷宮は60階層まであるという話だ。しかし、50階層からはSランクの魔物が中を徘徊している。60階層のボスはSSランクであるヒュドラではないかと言われているが、まだそこまでたどり着いた冒険者はいないらしい。
「でも、君たちならばいつかルナ迷宮を攻略出来るのではないかって、そう思ってしまうよ」
「あまり期待しないでもらえると有難いです」
「もちろん! 無理だけはしないように。“命あっての物種”って言うからね」
そう、これからもずっと、“いのちだいじに”を貫くつもりだ。
「では近いうちに、拠点をルナに移させていただきます」
「ふむ、幸運を祈るよ。くれぐれもエミリー君とミラベル君を宜しく頼むよ」
「わかりました」
俺はルノザール領主様に話をした拠点替えの件を他の3人にも話した。皆がもっと経験を積んで強くなりたいと思っていたので、俺の考えはすんなり受け入れられた。
「ジム、これからもよろしくな」
俺は先日領主様に見せた例の大剣をジムにプレゼントした。
「いいのか? 王宮騎士団に届け出なければならないんだろ?」
「これはジム専用だよ。おれがジムの為に作っ逸品さ」
「ありがとうアル。大切に使うよ」
「大切にしなくても簡単には折れないけどな」
「ハハ、そうだな」
金属に叩きつけたとしても、この大剣には刃こぼれが入る事すらない。
「男が男にプレゼントするって、何だかあれよね」
「おいしいにおいがする」
女性陣が何か言っているが、気にしないでおこう。
俺は一人でアイアンリッジに向かい、もう一つの大剣を製作してもらう依頼をした。
そしてそのまま王都へ向かって王宮騎士団のレオノール団長に大剣を届けることになっている。
領主様から団長には事前に書簡が届けられるから細かい説明は不要だとの事。
俺が帰るまでの間、3人には拠点を移すための準備をしてもらった。宿泊所の清算や荷物の整理などだ。
準備と言っても、ルナの町で手に入らない物は殆どないから特に買い足すものなどはない。
時間が余るのでエミーたちは領主館に行ってアンナさんとしばしの別れを惜しんだり、ジムは騎士団を訪ねて練習試合に明け暮れるだろうと言っていた。
魔道大剣を無事に王宮騎士団長殿に手渡した俺は、10日後にルノザールに帰り着いた。
ルノザールから拠点を移すにあたっては、冒険者ギルドにも話を通しておかないといけない。俺たちはルノザールの冒険者ギルドを訪ねた。
「アメリアさんこんにちは」
「あらー、今日はどうしました? みなさん、そんなに荷物を背負って」
宿屋にいつも置いている着替えや道具類も一緒に背負っているからな。
「実は、これから拠点をルナの町に移そうと思って報告に来ました」
「あら、そうなんですねー。こちらとしては残念ですが、ルナの方が経験値を多く稼げますからね。今の皆さんにとってはその方が宜しいでしょうねー」
「アメリアさんにはこれまで色々と教えてもらって有難うございました」
「いえいえ、わざわざ報告に来ていただいて、こちらこそ有難うございますぅ」
冒険者が拠点を移す場合、殆どがギルドには連絡なしで出ていってしまう。
依頼中でなければ特に心配することは無いが、何故出ていったのだろうとギルドとしては気になるらしいのだ。
「皆さんお元気で、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。アメリアさんもお元気で。それではまた」
アメリアさんには、経験値が増えたら冒険者ギルドで更新をしないとランクが上がらないことを教えてもらった。本当に感謝である。
「アル君、アメリアさんとちょっと親しすぎない? アル君ってば年上が好きなの? ねえ、年上が好きなの?」
「アメリアさん既婚者。アルはちょっと見境ない」
「違うって!」
「あー、馬車来てるぞー、いそげー」
エミーさんが膨れてしまったじゃないか。ミラ、見境って何? ジムは棒読みだし。
「馬車、早く乗ろうよ。そして、アメリアさん既婚者ってもちろん知ってるから。俺が知らないことをたくさん教えてもらった感謝の気持ちがあるだけだから!」
「はいはい、今はそういう事にしてあげる」
「アルは尻に敷かれるタイプ」
(ミラさん、何で? えっ、何でそうなるの?)
ルナの町行きの定期馬車に乗った俺たちは、町に近づくにつれて目に入る見慣れた山々の形や景色を見ると何となく心が躍るのだった。
やはり小さい時から育った町というのは特別なのだ。
 




